事実婚の解消における、慰謝料請求や財産分与の扱いを解説【後編】
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前編では、事実婚と法律上の婚姻関係との違いから、慰謝料請求が可能かどうかなどについて解説しました。
後半は、引き続き事実婚関係下において別離を選択する際、子どもがいるときの養育費や相続、スムーズに別れられないときはどうすればいいかなどの疑問について、ベリーベスト法律事務所船橋オフィスの弁護士が解説します。
4、子どもがいる場合、養育費はどうなる?
事実婚における養育費とは、「子どもが大人として自立できるようになるまで必要なお金」のことです。事実婚を解消したあとに親権を得ず、わが子を監護していない親が、子どもを監護する側に支払うケースが一般的です。
養育費は事実婚を解消した相手方のために払うお金ではありません。養育費の額は、双方の収入や子どもの人数などを基準に夫婦間の合意または裁判所の判決によって決まります。ここで問題となるのが、事実婚の期間において養育費の支払義務者と子どもの間に法的な親子関係があるか? という点です。
そもそも事実婚は法律上の婚姻関係ではないのですから、何も手続きをしないままでは法律上の婚姻関係のように、夫婦が共同で子どもの親権を持つことはありません。したがって、もともと子どもと法的な親子関係になく親権者でないのであれば、事実婚を解消しても養育費を支払う義務はないということなのです。
ここで、子どもとの関係を2つのパターンに分けて、養育費を支払う義務の有無をみてみましょう。
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(1)相手方の連れ子である場合
事実婚の場合、子どもは夫婦どちらかの連れ子であることが多いものです。仮に子どもが妻(夫)の連れ子である場合、子どもは夫(妻)とは法的な親子関係にありませんので、事実婚を解消しても養育費を請求することは難しいと考えられます。
ただし、夫(妻)が子どもと養子縁組をしていれば夫(妻)は子どもの親権者になりますので、事実婚の解消に際して養子縁組も解消しない限り、夫(妻)には養育費の支払義務が発生します。 -
(2)夫婦間で生まれた子どもである場合
事実婚のように、法律上の婚姻関係にない男女の間で生まれた子どものことを、「非嫡出子」といいます。非嫡出子は、実際に出産した母親とは無条件に親子関係が認められますが、父親とは親子関係が発生しません。したがって、事実婚を解消しても慰謝料を支払う義務は(道義的観点はともかくとして)ないと考えられます。
ただし、生まれた子どもを父親が「認知」していた場合はその限りではありません。認知することで父親と子どもの間には法的な親子関係が発生し、事実婚を解消したあと養育費の支払を拒否することは難しくなると考えられます。
5、相続はどうなる?
人が死亡して相続が発生すると、亡くなった人の相続人には基本的に誰でもなることが可能です。しかし、それでは相続人の地位や相続割合などをめぐって収拾がつかなくなってしまいます。そこで、民法では亡くなった人の相続人になることができる人の基準として「法定相続人」を定めています。
法定相続人のうち配偶者については、民法第890条で「常に相続人となる」とされています。つまり、配偶者は亡くなった人に子どもや両親などの血のつながりがある相続人がいたとしても、民法の欠格事項や廃除要件に該当しない限り確実に相続人となることが可能なのです。配偶者の要件に婚姻期間の長短は関係なく、たとえ1日だけの婚姻関係でも法律上の夫婦であれば配偶者としての相続権が認められます。
しかし、配偶者とは法律上の婚姻関係つまり民法上の婚姻届を提出したうえで結婚した夫ないし妻のことです。事実婚姻における配偶者は、そもそも法律上の婚姻関係にないわけですから、当然に法定相続人としての権利が認められていません。
ただし、民法には「特別縁故者」という規定があります。特別縁故者とは亡くなった人の実の家族と同じくらいに親密な関係にある人のことで、亡くなった人と事実婚の関係にあった配偶者も該当する場合があります。
もし事実婚の配偶者が特別縁故者として認められ、かつあなたに子どもなど法定相続人がいない場合は、たとえ浮気をしていたとしても事実婚の配偶者はあなたの相続発生後に財産の一部または全部を相続する権利を得る場合があります。
もしあなたが事実婚の配偶者に一切の財産を残したくないのであれば、他の人を相続人に指定した遺言を作成しておくとよいでしょう。なお、生前に養子縁組または認知した子どもについては、法定相続人としての地位が認められます。
6、事実婚が解消できない場合の対応方法とは?
事実婚を開始したときと同様に、双方の同意があればいつでも事実婚を解消することができます。しかし、正当な理由をもって事実婚の解消を相手方にもちかけても相手方が拒否するケースも考えられます。また、慰謝料や財産分与などの諸条件をめぐって相手方との話し合いが調わないこともあるでしょう。
このような場合、その後は家庭裁判所での調停(内縁関係調整調停)における話合い、さらに裁判に移行することが想定されます。しかし、調停や裁判は相手方との話合いと異なり平日に裁判所へ赴く必要があります。さらに裁判では自身の主張について法的側面が重視されることになるのです。
また、手続きや訴状などの書類作成についても煩雑かつ専門的な知見が求められることになるでしょう。その結果、調停や裁判の期間を合わせると解決まで数年を要することもありえます。
このような事態になる前に、相手方の不法行為などを理由に事実婚の解消を考えた場合はできるかぎり早めに弁護士に相談することをおすすめします。事実婚の解消に関する問題の解決に実績豊富な弁護士であれば、法的なアドバイスはもちろんのこと、あなたの代理人として相手方と交渉し、円満な事実婚の解消に向けた働きが期待できます。仮に調停や裁判に移行した場合も同様です。
体調に不安を感じたら早めに病院で診察や治療を受けることと同じように、事実婚を解消するに際して何か問題点を感じたら、それが複雑化する前に弁護士のような専門家へ相談してみてください。
7、まとめ
法律上の婚姻関係と比較した手軽さと気軽さにメリットを感じ、事実婚を選んだ方もいるかもしれません。しかし、事実婚の解消は法律上の婚姻関係の解消つまり離婚と同じくらいに複雑化することがあります。
事実婚の解消だからと簡単に考えず、弁護士などの専門家と相談しながら慎重に解決に向けた動きを進めましょう。まずは、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士にご相談してみてください。
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