工場で残業は当たり前? 労働条件に疑問を感じたときの対処法
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令和3年度に千葉県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働関係の相談は5万6877件でした。
製造業の工場では、少ない労働者(社員)が多くの業務を担当した結果、連日残業を強いられるという事例も少なくありません。しかし、工場労働者であっても、ほかの労働者たちと同じように、労働基準法における残業のルールは適用されます。
過度な長時間労働を強いられていたり、残業代が正しく支払われていなかったりする場合には、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。本コラムでは、工場労働者に適用される残業のルールや、工場の労働環境に問題がある場合の相談先などについて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、工場(製造業)は残業が多い? 統計データに基づく実態
工場(製造業)は「仕事が大変」「残業が多い」というイメージが持たれがちですが、統計データによると、実際には製造業の残業時間が平均を大きく上回っているわけではありません。
所定内労働時間 | 所定外労働時間 | 総実労働時間 | |
---|---|---|---|
全体 | 148.5 | 13.8 | 162.3 |
製造業 | 148.4 | 15.9 | 164.3 |
(出典:「毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報」(厚生労働省))
しかし、上記はあくまでも製造業全体の平均値であり、工場によっては長時間残業が横行している場合もあります。
過度な長時間残業を強いられている工場労働者の方は、自分が働いている工場で労働基準法違反が生じていないか、確認してみましょう。
2、残業時間に関する労働基準法のルール・上限
使用者が労働者に残業をさせることは、無制限に認められるわけではありません。
残業をさせることが認められるのは、あくまでも、労働基準法や労使協定(36協定)の枠内に限られます。
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(1)法定内残業と時間外労働
いわゆる「残業」は、法律上「法定内残業」と「時間外労働」のふたつに区別されます。
- ① 法定内残業
所定労働時間(※1)を超え、法定労働時間を超えない部分の労働時間。
※1 所定労働時間:労働契約や就業規則で定められる労働時間 - ② 時間外労働
法定労働時間(※2)を超える部分の労働時間。
※2 法定労働時間:労働基準法に基づく労働時間の上限(原則として1日8時間・1週間40時間)
- ① 法定内残業
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(2)36協定がなければ時間外労働は不可
法定内残業については、労働契約や就業規則に定めがあれば認められます。
これに対して、使用者が労働者に時間外労働をさせる場合は、労働組合または労働者の過半数代表者との間で「36協定」を締結しなければなりません(労働基準法第36条第1項)。
36協定は時間外労働や休日労働のルールを定める労使協定であり、対象労働者の範囲・条件・上限時間などを定めるものです。
36協定を締結しなければ、使用者は労働者に時間外労働や休日労働をさせることができません。
また、時間外労働や休日労働が認められるのは、36協定で定められた上限時間の範囲内に限られます。 -
(3)36協定を締結しても、時間外労働には上限あり
36協定を締結した場合でも、原則として時間外労働は月45時間以内・年360時間以内に限られます(労働基準法第36条第4項)。
36協定に「特別条項」を定めれば、臨時的な必要性がある場合に限り、上記の限度時間を超えて時間外労働をさせることが認められます。
ただし、特別条項を定めた場合にも、以下の規制を順守しなければいけません(同条第5項、第6項)。
- ① 1か月の時間外労働と休日労働の合計時間数が100時間未満
- ② 1年の時間外労働の時間数が720時間以内
- ③ 限度時間を超過する回数が6回(6か月)以内
- ④ 2~6か月間における時間外労働と休日労働の合計時間数が、1か月平均でいずれも80時間以内
- ⑤ 坑内労働など、健康上特に有害な業務に従事する労働者については、1日の時間外労働の時間数が2時間以内
3、残業代(割増賃金)は正しく支払われているか? 労働基準法のルール
労働者に時間外労働等をさせる場合、使用者は労働者に対して割増賃金を支払う義務を負います。
割増賃金が正しく支払われていない可能性がある場合には、未払い残業代の請求について弁護士にご相談ください。
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(1)労働基準法に基づく割増賃金率
労働基準法では、時間外労働・休日労働・深夜労働について、以下のように割増賃金率を定めています(法定内残業については割り増しなし)。
- ① 時間外労働
通常の賃金に対して125%以上
※1か月あたり60時間を超える部分については、通常の賃金に対して150%以上 - ② 休日労働(法定休日の労働)
通常の賃金に対して135%以上 - ③ 深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)
通常の賃金に対して125%以上
※時間外労働かつ深夜労働の場合は、通常の賃金に対して150%以上(1か月あたり60時間を超える部分については、通常の賃金に対して175%以上)
※時間外労働かつ休日労働の場合は、通常の賃金に対して160%以上
- ① 時間外労働
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(2)残業代の計算方法
残業代の金額は、以下の手順で計算します。
① 1時間あたりの基礎賃金を求める
1時間あたりの基礎賃金=基礎賃金額÷月平均所定労働時間
「基礎賃金額」は、計算期間中に支給される賃金の総額から、以下の手当を除外した金額です。
- 時間外労働手当、休日手当、深夜手当
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金
② 残業時間等を集計する
法定内残業・時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数を集計しましょう。
また、会社と争いになった場合に備えて、残業等をしたことについて証拠を確保しておくことも重要です。
③ 割増賃金率を適用して残業代を計算する
残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間数
(例)- 1時間あたりの基礎賃金:2500円
- 法定内残業:20時間
- 時間外労働:15時間(うち深夜労働3時間)
- 休日労働:10時間(うち深夜労働3時間)
法定内残業の残業代:
2500円×20時間
=5万円
時間外労働の残業代(深夜手当を含む):
2500円×125%×12時間+2500円×150%×3時間
=4万8750円
休日労働の残業代:
2500円×135%×7時間+2500円×160%×3時間
=3万5625円
残業代の合計:
5万円+4万8750円+3万5625円
=13万4375円
4、工場の労働環境に問題がある場合の相談先
長時間残業が常態化しているなど、工場の労働環境に問題があると思われる場合には、適切な相手に相談してください。
具体的には、問題の状況によって、以下のような相手に相談することが必要になります。
- 人員配置に関する問題→会社の上司・人事担当者
- 労働基準法違反の長時間労働→労働基準監督署
- 未払い残業代請求→弁護士
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(1)人員配置に関する問題|会社の上司・人事担当者
会社内の人員配置が不適切であるために、工場が慢性的な人手不足や業務非効率な状態に陥っている場合には、会社の上司や人事担当者に相談して配置転換を求めましょう。
工場内に十分な人員が確保されて、必要な能力を備えた労働者が配置されれば、長時間残業等の問題を解消できる可能性があります。 -
(2)労働基準法違反の長時間労働|労働基準監督署
労働基準法のルールに違反した長時間労働が横行している場合には、労働基準監督署にその事実を申告しましょう。
労働者の申告を受け、労働基準法違反の状態が発生している疑いを持った場合、労働基準監督官が事業場に対する臨検(立ち入り調査)を実施します。
調査の結果、労働基準法違反の長時間労働が判明した場合、労働基準監督官は会社に対して行政指導(勧告など)を行います。
悪質なケースでは、関係者の逮捕や事件の検察官送致(送検)を行い、刑事手続きが開始されることもあります。
労働基準監督署による行政指導等が行われれば、会社・工場における労働基準法違反の状態が是正されるでしょう。 -
(3)未払い残業代請求|弁護士
残業代が正しく支払われていない場合には、未払い残業代請求について弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、会社との協議・労働審判・訴訟などを通じて、適正な金額の残業代を請求することができます。
未払い残業代請求に必要な手続きはほとんどすべて弁護士に任せられるため、労働者自身の負担を大幅に軽減できます。
「会社から支払われている残業代が少ない…」と感じている方は、未払い残業代の有無を確認するため、お早めに弁護士に連絡してください。
5、まとめ
工場労働者の残業は決して当たり前のものではありません。
企業には、労働基準法を順守した残業制度を運営する義務があります。
長時間労働が続き残業が当たり前になっている環境で勤務されている方は、労働基準監督署や弁護士に相談してみましょう。
特に未払い残業代が発生している場合には、会社に対する残業代請求を弁護士に依頼してください。
ベリーベスト法律事務所は、未払い残業代の請求などについて、労働者の方からのご相談を承っております。
「連日長時間残業をしているのに、残業代がほとんど支払われていない」といった悩みを抱えられている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています