電話待機をしている間は労働時間に当てはまる? 該当するケースを解説
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企業のなかには、従業員に電話待機をさせておきながら、その時間について残業代を支給しない会社があります。
電話待機時間も労働時間に該当して、残業代が発生する可能性があります。もし、ご自身の電話待機時間について残業代が支給されていない場合には、弁護士への相談をご検討ください。
本コラムでは、電話待機時間が労働時間に該当するか否かについて、法律上の注意点をベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、電話待機時間は労働時間に当たるのか?
使用者の指示によって電話待機をしている時間は、残業代が発生する「労働時間」に該当する可能性があります。
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(1)使用者の指揮命令下に置かれていれば、労働時間に当たる
残業代が発生する「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことです。
最高裁の判例によると、労働時間に該当するかどうかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かにより客観的に定まるとされています(最高裁平成12年3月9日判決)。
したがって、電話待機時間についても、その電話待機が使用者の指揮命令下に置かれたものである場合には「労働時間」に該当するのです。 -
(2)電話待機時間が労働時間に当たるケース
電話待機時間には、実際に業務を行うわけではない「不活動時間」(手待ち時間)と、電話対応などの業務を行う「活動時間」が混在しているという特徴があります。
不活動時間と活動時間が混在する場合にも、不活動時間において労働から離れることを保障されていなければ、不活動時間を含めた全体が労働時間に該当します(最高裁平成14年2月28日判決)。
たとえば、電話待機時間において「常に業務を行う必要はないものの、電話があればすぐに対応することが義務付けられている」という場合には、電話待機時間全体が労働時間に該当する可能性が高いでしょう。 -
(3)電話待機時間が労働時間に当たらないケース
「不活動時間において労働から離れることを保障されている」と評価できる場合には、電話待機時間のうち活動時間のみが労働時間に当たり、不活動時間は労働時間に当たらないことになります。
たとえば、実際に電話がかかってくることがほとんどない場合や、電話に出るかどうかが従業員の裁量に任されている場合などには、電話待機時間のうち不活動時間は労働時間に該当しないと考えられます。
2、電話待機時間に係る残業代の計算方法
電話待機時間についての残業代は、以下の計算式によって求められます。
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(1)1時間当たりの基礎賃金を求める
1時間当たりの基礎賃金は、以下の計算式によって求めます(月給制の場合)。
1時間当たりの基礎賃金=1カ月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間
<総賃金から除外される手当>- 時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当
- 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
- 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
- 臨時に支払われた賃金
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
<月平均所定労働時間の求め方>
月平均所定労働時間=年間所定労働時間÷12カ月
(例)
1カ月の総賃金が30万円、月平均所定労働時間が150時間の場合
→1時間当たりの基礎賃金は2000円 -
(2)残業時間数を集計する
残業時間数は、以下のように、残業(労働)の種類ごとに集計します。
ア 法定内残業- 所定労働時間を超え、法定労働時間の範囲内である残業。
- 所定労働時間:労働契約や就業規則で定められた労働時間
- 法定労働時間:1日8時間、1週間40時間
例えば、労働契約や就業規則で1日7時間、1週間35時間と所定労働時間が定められた場合、1日1時間ずつ5日間残業をしても、その合計5時間は法定内残業となります。
イ 時間外労働
法定労働時間を超える残業。
ウ 休日労働
法定休日に行われる労働。
なお、1週間に2日以上休日がある場合は、そのうち1日だけが法定休日に当たります。
法定休日以外の休日(法定外休日)に行われた労働は、法定内残業または時間外労働として取り扱われます。
エ 深夜労働
午後10時から午前5時までに行われる労働です。他の種類の残業(労働)と重複する場合もあります。 -
(3)割増率を適用して残業代を計算する
1時間当たりの基礎賃金と、集計した各残業時間数を基に、以下の割増賃金率を適用して残業代を計算します。
法定内残業 通常の賃金 時間外労働 通常の賃金×125%
※大企業の場合、月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×150%(2023年4月以降は、中小企業についても同様)休日労働 通常の賃金×135% 深夜労働 通常の賃金×125% 時間外労働かつ深夜労働 通常の賃金×150%
※大企業の場合、月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×175%(2023年4月以降は、中小企業についても同様)休日労働かつ深夜労働 通常の賃金×160%
(例)
1時間当たりの基礎賃金が2000円、時間外労働が40時間(うち深夜労働が10時間)、休日労働が10時間(うち深夜労働なし)の場合
残業代
=2000円×125%×30時間+2000円×150%×10時間+2000円×135%×10時間
=13万2000円
3、電話待機時間について残業代を請求する際、確認すべきこと
電話待機時間について会社に未払い残業代を請求する際には、主に以下の3点を確認しましょう。
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(1)不活動時間の占める割合
まずは、電話待機時間のうち、実際に電話対応などの業務に従事した時間がどの程度であったかを確認する必要があります。
ほとんど電話がかかって来ず、事実上労働から解放されていたと評価される場合には、電話待機時間は労働時間に該当しない可能性が高くなります。
これに対して、1日数件程度はコンスタントに電話がかかって来る場合には、電話待機時間が労働時間に該当する可能性が高くなるでしょう。 -
(2)不活動時間の過ごし方
不活動時間における従業員の過ごし方も、電話待機時間が労働時間に当たるか否かを判断するうえでの重要な要素となります。
たとえば、常にオフィスで待機しなければならない場合や、テレワーク場所の家から離れてはいけない場合などには、電話待機時間が労働時間に該当する可能性が高くなります。
これに対して、会社携帯電話の携行は求められているとしても、電話待機時間中の外出が認められており、基本的には何をしていても自由である場合などには、電話待機時間が労働時間に当たらない可能性が高くなるのです。 -
(3)使用者からの指示内容
電話対応に関する業務について、使用者(会社)からどのような指示を受けていたのかについても確認や検討が必要になります。
たとえば、電話がかかってきたら対応することを会社から厳命されていた場合には、電話待機時間が労働時間に該当する可能性が高いでしょう。
これに対して、電話に出るかどうかが従業員の裁量に任されており、対応しなくても会社からとがめられることがない場合には、電話待機時間は労働時間に該当しない可能性が高いと考えられます。
4、未払い残業代の請求は弁護士にご相談を
電話待機時間を含めて、残業をしたにもかかわらず適切な残業代が支払われない場合は、未払い残業代請求について弁護士に相談することをおすすめします。
未払い残業代の請求を成功させるためには、残業をしたことの証拠を十分に集めたうえで、法的な根拠にのっとった請求を行うことが大切です。
弁護士であれば、労働時間に当たる残業を漏れなく集計したうえで、労働基準法の規定に沿って残業代を正確に計算することができます。
また、実際の残業代請求を行うにあたっては、会社との交渉のほか、労働審判や訴訟への対応が必要になることがあります。労働者の方がこれらの手続きをご自身で対応するのは、非常に負担となるでしょう。
弁護士は、交渉・労働審判・訴訟など、会社に対する残業代請求の対応を一貫してサポートします。
法的な知識と経験を基に適切な主張を行うことで、労働者に比べて組織力や経済力に勝る会社に対しても、対等以上に争うことができるでしょう。
適正な残業代を受け取ることは、労働者に認められた法律上の権利です。
「未払い残業代が生じているのではないか…」と考えている方は、お早めに、弁護士までご相談ください。
5、まとめ
電話待機時間は、従業員が使用者の指揮命令下にあると評価される場合には「労働時間」に該当し、残業代が発生します。
特に頻繁に電話がかかってくる場合や電話待機時間中の外出が認められていない場合、会社から電話対応を厳命されている場合などには、電話待機時間が労働時間に該当する可能性が高くなります。
会社側の労務管理が不適切な場合には、電話待機時間について正しく残業代が支払われない可能性があります。
もし適正に残業代が支払われていない場合には、未払い残業代を請求するために、弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、残業代請求に関する労働者の方からのご相談を承っております。
会社に対して残業代の請求を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています