【前編】会社に負けるケースもありえる? 残業代請求前に知っておくべきこと
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平成30年5月に発表された厚生労働省による「労働基準関係法令違反に係る公表事案」では、船橋市内の事業者が違法な時間外労働を行わせたことによって、平成30年3月に送検されたことが公表されています。
本件は企業側の違法性が認められましたが、残業代の未払を行う企業はまだまだ多数あります。個人の力で対抗しようとしても、実際に残業代請求をめぐる裁判で労働者側が負ける実例は少なくありません。
今回は、企業に対して未払の残業代を請求しようと考えている方向けに、請求しても受け取れない可能性があるケースと残業代請求のための対応策について、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が説明します。
1、残業代の支払は会社の義務
労働基準法第32条では、労働時間は原則として1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えてはならないと「法定労働時間」を規定しています。また、労働基準法第35条では法定休日として週に1日以上の休日を労働者に与えることを企業に義務付けています。
しかし、業務の繁忙などやむを得ない事情から、企業は労働者に法定労働時間を超過した残業または休日労働を課すことを余儀なくされることもありえます。
この場合、企業は労働者に対して残業や休日労働を命じることができます。ただし、労働基準法第36条に基づき、企業と労働組合または労働者の代表との間において、残業や休日労働に関する理由などを定めた協定(いわゆるサブロク協定)が締結されていることが大前提です。
さらに、労働基準法第37条の規定により、労働者に残業や休日労働を課した企業には所定の割増賃金を労働者に対して支払うことが義務付けられています。この規定に明らかに違反していると認められた企業または経営者あるいは両方には、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が課されることになります。また、冒頭で紹介したとおり、会社が送検された場合は地域の労働局により「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として企業名や事案概要が公表されることになります。
このように、労働者の権利である残業代の支払いは企業に対して罰則付きで義務付けられているのです。
2、残業代の種類
残業には大きく分けて以下のとおり4つの種類があり、起訴賃金に対する割増率はそれぞれ異なります。
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(1)法定内残業
企業によっては就業規則や雇用契約で法定労働時間よりも短く所定労働時間を定めていることがあります。
仮に所定労働時間が7時間と定められているのにもかかわらず労働時間が8時間となった場合は、差分の1時間は法定内残業として企業には残業代を支払う義務が生じます。この場合の残業代は基礎賃金と同額であり、割増はありません。 -
(2)法定外残業
法定労働時間を超える労働を法定外残業といいます。法定外残業に対する割増率は25%です。
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(3)深夜労働
労働者が午後10時から午前5時までの時間帯に勤務した場合、これを深夜労働といいます。深夜労働に対する割増率は25%です。
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(4)法定休日労働
労働基準法では、使用者は労働者に対して1週間あたり原則1日以上の休日を与えることが規定されており、これを法定休日といいます。この法定休日に労働した場合、使用者は割増率35%の賃金を支払うことが義務付けられています。
3、残業代を請求しても負けてしまうケースについて
前述のとおり、労働者に対して残業代を支払うよう法で定められています。しかし、企業に残業代を請求したとき、労働者側が負けてしまうケースは少なからず存在します。
請求が認められないケースについて具体的な一例を紹介します。
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(1)時効が完成している
労働者が会社に対して残業代の支払を請求する権利は、労働基準法第114条の規定により給料支払日の翌日から2年で時効となります。
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(2)管理監督者に該当する
労働基準法第41条第2項では、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」すなわち管理監督者に対して企業は残業代を支払わなくてもよいと規定しています。厚生労働省によりますと、管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」と定義されています。すなわち、企業の重要な意思決定に関与する、もしくは従業員の人事権を有しており、さらに他の労働者と比較して高い給料を得ているなどの場合は管理監督者に該当し、残業代を請求しても認められなくなります。
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(3)裁量労働制が適用されている
一部の専門職には、労働協約による合意や労働基準監督所への届出などの要件が満たされると裁量労働制が適用されます。裁量労働制では、労働時間を労働者自身で決めることができる代わりに、どれだけ長い時間労働しても残業代は支払われなくなります。
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(4)残業が禁止されている
企業や上司が明確に残業を禁止しており、さらに残業が必要ないほどの仕事量と認められた場合は、残業しても企業都合の残業とは認められず残業代の請求そのものが難しくなります。
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(5)証拠がない
残業代を請求するためには、残業をしていたという事実と残業代が支払われていない時間を主張するための証拠が必要です。この証拠がない場合、残業代を請求しても認められる可能性は極めて低くなります。
後編では、実際に残業代請求を行うための手順などについて解説します。
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