残業100時間超えは労働基準法違反! 心身を守るため労働者にできること
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会社が労働者に対して「過労死ライン」とも呼ばれる月100時間以上の残業をさせることは、原則として労働基準法違反に当たります。
会社から過酷な残業を命じられて、長時間の残業が常態化している場合には、労働基準法違反の可能性が高いといえます。ご自身の心身を守るためにも、お早めに弁護士へご相談ください。
本コラムでは、月100時間以上の残業の違法性や原因、過度な残業から心身を守るための対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、残業100時間以上は労働基準法違反|本来の残業時間の上限は?
労働基準法では、使用者が労働者に命じることができる残業時間の上限が定められています。
月100時間以上の時間外労働をさせることは、労働時間の規制が適用されない一部の労働者を除いて、違法になるのです。
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(1)三六協定がなければ時間外労働は禁止
労働基準法第32条では、「1日当たり8時間、1週間当たり40時間」という労働時間の上限が定められています。
これを「法定労働時間」といいます。
法定労働時間を超える労働は、「時間外労働」といいます。
会社が労働者に時間外労働をさせるには、「三六協定」と呼ばれる労使協定を締結して、時間外労働に関するルールを定めなければなりません(同法第36条第1項)。
三六協定が締結されていない事業場では、労働者に時間外労働を命じることは違法となります。 -
(2)三六協定がある場合|原則として月45時間が上限
三六協定が締結されている場合、会社は労働者に対して、三六協定の範囲内で時間外労働を命じることができます。
ただし、労働者の心身の健康を保持する観点から、三六協定によって延長できる労働時間(=限度時間)は、1カ月当たり45時間(+1年当たり360時間)に限定されています(労働基準法第36条第3項、第4項)。
したがって、使用者が労働者に月100時間以上の時間外労働を命ずることは、三六協定が締結されている場合でも、原則として認められないのです。 -
(3)特別条項付き三六協定がある場合の上限時間|月100時間以上は不可
三六協定では、通常予見できない業務量の大幅な増加等に伴い、臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合について、時間外労働に関する特別のルールを定めることができます。これを「特別条項」といいます。
特別条項が適用される場合、以下の範囲内に限り時間外労働をさせることが認められます(労働基準法第36条第5項、第6項)。(a)(坑内労働など、健康上特に有害な業務の場合)1日当たりの時間外労働が2時間以下
(b)直近1カ月間の時間外労働・休日労働の合計が100時間未満
(c)直近2カ月~6カ月間における、時間外労働・休日労働の月平均合計時間が80時間以下
(d)年間の時間外労働が720時間以下
(e)月45時間超の時間外労働を行う月数が、1年のうち6カ月以下
したがって、三六協定の特別条項によっても、会社が労働者に対して月100時間以上の時間外労働をさせることは認められません。
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(4)例外的に月100時間以上の時間外労働が認められる場合
以下のいずれかに該当する労働者については、労働時間(あるいは限度時間)の規制が適用されないため、例外的に、会社は月100時間以上の時間外労働をさせることができます。
(a)新たな技術・商品・役務の研究開発に係る業務に従事する労働者(労働基準法第36条第11項)
(b)農林・畜産・養蚕・水産事業に従事する労働者(同法第41条第1号)
(c)管理監督者、機密の事務を取り扱う労働者(同条第2号)
(d)監視または断続的労働に従事する労働者のうち、使用者が労働基準監督署の許可を受けたもの(同条第3号)
(e)高度プロフェッショナル制度が適用される労働者(同法第41条の2第1項)。
ただし、上記に該当する労働者であっても、その健康を保持するため、本来なら長時間の時間外労働をさせることは慎むべきといえます。
2、残業100時間以上となってしまう働き方・背景・心身への悪影響
残業(休日出勤を含む)が月100時間以上に及ぶ場合、1日当たりの残業時間がかなり長く、また休日出勤の頻度も高くなっていると考えられます。
たとえば、定時が午前9時から午後6時(うち1時間は休憩)、労働日が1カ月当たり21日間あるとします。
すべての労働日に4時間の時間外労働(=午後10時退勤)をした場合でも、1カ月の時間外労働は84時間です。時間外労働が月100時間以上になるとすれば、2~3日程度の休日出勤も存在すると考えられます。
テレワークではなく出勤して働いている労働者であれば、通勤時間も発生します。したがって、早朝出勤・深夜退社が連日続くことになるでしょう。
このように、月100時間以上の時間外労働をする状況は、労働者にとって非常に過酷であるといえます。
このような状況が生まれてしまう背景には、以下のような事情が存在することが多いです。
- 勤怠管理がずさんである
- 従業員の間で業務負担が偏っている
- 部署全体で人手が足りない
- 管理職が部下の業務状況を把握していない
会社の都合によって長時間の労働が常態化すると、労働者の心身は疲弊してしまいます。その結果、脳・心臓疾患やうつ病などを発症するリスクが高まり、最悪の場合には重篤な後遺症や過労死に至る病を発症することもあるのです。
ご自身の身を守るためにも、長時間労働が常態化している状況からは、一刻も早く逃れることが大切です。
3、過度な残業が問題となった裁判例を紹介
以下では、労働者が過度な残業を強いられた結果として疾病を発症し、労災保険給付や会社による損害賠償が争われた裁判例を紹介します。
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(1)名古屋地裁 平成19年11月30日判決
自動車メーカーに勤務していた労働者(当時30歳)が心停止の後に死亡した事件について、労災保険給付(療養補償給付・遺族補償年金・葬祭料)の不支給処分の違法性が争われた事案です。
被災労働者は、2002年2月9日午前4時20分ごろ、工場内の詰め所において心停止を発症し、約2時間半後に死亡が確認されました。
裁判所の認定によれば、同年1月10日から2月8日までの30日間において、被災労働者の時間外労働時間は106時間45分でした。
裁判所は、被災労働者の従事した業務による疲労の蓄積や、直前の極度に強い精神的ストレスが原因で心停止を発症したことを認定して、労災保険給付の不支給処分を取り消す判決を言い渡したのです。 -
(2)最高裁 平成26年3月24日判決
液晶ディスプレー等を製造する工場に配属された労働者が、うつ病を発症した後に休職し、休職期間満了後に解雇された事案です。
労働者は会社に対して、労災を前提とする損害賠償等を請求しましたが、原審は労働者側の脆弱(ぜいじゃく)性を理由に素因減額を行いました。
労働者は、2001年5月頃からうつ病を発症しましたが、2000年12月に75時間6分、2001年1月に64時間59分、2月に64時間32分、3月に84時間21分、4月に60時間33分と、恒常的に長時間の時間外労働を行っていたことが認定されました。
最高裁は、このように慢性的な過重労働に加えて、上司からの厳しい督促や指示を受けたこと、上司のサポートを受けられなかったこと、理由なく担当者を減員されたことなどを指摘しました。
そして、労働者個人が通常想定される範囲を外れる脆弱性などを有していたとはいえないとして、素因減額をした原審判決を破棄し、審理を原審に差し戻したのです。
4、過度な残業から心身を守るための対処法
過度な長時間労働が常態化している職場にとどまっていると、労働者の心身は次第にむしばまれてしまいます。
ご自身の心身を守るためにも、早急に、以下の対応を取りましょう。
無理な長時間労働を強制してくる職場からは、一刻も早く離れましょう。
ひとまず休職するか、または次の職場を求めて退職・転職を決断することをお勧めいたします。
(b)雇用保険の受給
会社を退職した後、すぐに仕事が見つからなくても、雇用保険から保険金を受給できます。
3カ月連続で45時間以上、1カ月間で100時間以上、または2カ月で月平均80時間以上の時間外労働をした後に退職した場合は、会社都合退職扱いとなります。そのため、申請の7日後から雇用保険の基本手当を受給可能です。
(c)労災保険給付の請求
長時間労働が原因で心身の疾患を発症した場合には、労災保険給付を受給できます。
労働基準監督署の窓口で申請書を入手し、必要書類をそろえて申請を行いましょう。
(d)労働基準法違反の申告
長時間労働が常態化している場合、会社が労働基準法に違反している可能性が高いでしょう。
労働基準監督署に申告すれば、会社に対する行政指導や刑事処分などを行ってもらえる可能性があります。
(e)弁護士への相談
会社に違法な長時間労働をやめさせたい、未払い残業代や損害賠償を請求したいという場合には、弁護士に相談してください。
弁護士は、労働者の権利を守るため、法的な知見を活用して会社との交渉や訴訟を行います。
5、まとめ
会社が労働者に月100時間以上の時間外労働をさせることは、ごく一部の例外を除いて、労働基準法違反です。
会社に違法な長時間労働を強いられている方は、自身の心身や権利を守るために、早急に弁護士に相談してください。
ベリーベスト法律事務所は、違法残業などに関する労働者からのご相談を随時受け付けております。
過酷な長時間労働から抜け出したい方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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