残業代の計算で手当は除外される? 基本ルールを解説
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長時間労働が疑われるとして、令和3年度に千葉県内の労働基準監督署が監督指導を行った事業場は913事業場でした。
原則として、残業代の金額は、計算期間中に支払われる賃金総額を基準に計算します。ただし、一部の手当については、残業代の計算基礎から除外することが認められています。会社としては、正しい計算方法に基づき、残業代を過不足なく計算して支払う必要があります。
残業代の計算方法がわからない場合や残業代について従業員とトラブルになってしまった場合は、弁護士に相談してください。本コラムでは、残業代の正しい計算方法や残業代の計算基礎から除外できる手当の種類などについて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、残業代の計算方法
会社が従業員に支払うべき残業代の金額は、以下の手順で計算します。
- ① 1時間あたりの基礎賃金を求める
- ② 残業時間を集計する
- ③ 割増率を適用して残業代を計算する
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(1)1時間あたりの基礎賃金を求める
まずは残業代の算定基礎となる、1時間あたりの基礎賃金を求めます。
1時間あたりの基礎賃金=基礎賃金÷月平均所定労働時間
「基礎賃金」は、計算期間中に支給される賃金の総額から、一定の手当を除外した金額です(どのような手当を除外できるかについては、後述します)。
たとえば、ある月の基礎賃金が30万円、月平均所定労働時間が150時間であれば、1時間あたりの基礎賃金は2000円(=30万円÷150時間)となります。 -
(2)残業時間を集計する
後述する割増率を正しく適用するため、残業時間は種類ごとに区分して集計する必要があります。
具体的には、以下の種類に分けて集計しなければいけません。
(a)法定内残業
所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない部分の残業時間です。
「所定労働時間」とは、労働契約や就業規則で定められた労働時間です。
「法定労働時間」は原則として1日あたり8時間、1週間あたり40時間です(労働基準法第32条)。
(b)時間外労働
法定労働時間を超える部分の残業時間です。
(c)休日労働
法定休日における労働時間です。
「法定休日」とは、労働基準法第35条によって付与が義務付けられた休日です。原則として、1週間のうち1日のみが法定休日にあたります。
1週間に複数の休日がある場合には、就業規則などの定めがあれば、それに従って法定休日が決まります。
定められていない場合には、日曜から土曜を1週間として、もっとも後ろに位置する日が法定休日となります。
法定休日ではない休日の労働は、法定内残業または時間外労働とされます。
(d)深夜労働
午後10時から午前5時までの労働時間です。
法定内残業、時間外労働または休日労働と同時に該当する場合もあります。
たとえば、以下のように集計します。
(例)- 法定内残業:10時間
- 時間外労働:35時間(うち深夜労働5時間)
- 休日労働:10時間(うち深夜労働2時間)
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(3)割増率を適用して残業代を計算する
最後に、1時間あたりの基礎賃金と残業時間を用いて残業代を計算します。
残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間数
残業の種類に応じて、以下の割増率が適用されます。
法定内残業 割増なし 時間外労働 25%以上(50%以上※) 休日労働 35%以上 深夜労働 25%以上 時間外労働かつ深夜労働 50%以上(75%以上※) 休日労働かつ深夜労働 60%以上
※月60時間を超える部分の時間外労働に適用されます。
ただし、令和5年3月までは、中小事業主(中小企業)については適用されません。
2、残業代の基礎賃金に手当は含めるべきか?
残業代計算の基礎となる「基礎賃金」には、原則として計算期間中に支給されるすべての賃金が含まれますが、例外的に、除外できる手当もあります(労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第21条)。
このような手当を除外しないと、残業代が過払いとなってしまう点に注意しましょう。
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(1)残業代の基礎賃金から除外できる手当
残業代の基礎賃金から除外できる手当は、以下の通りです。
ただし、手当の名称にかかわらず、その実質に鑑みて基礎賃金に算入される場合もあります。
- ① 時間外労働手当、休日手当、深夜手当
時間外労働・休日労働・深夜労働の手当は、基礎賃金に含まれません。 - ② 家族手当
扶養家族の人数に応じて支給される家族手当は、基礎賃金に含まれません。
ただし、家族の人数にかかわらず一律に支給される場合は、基礎賃金に含める必要があります。 - ③ 通勤手当
通勤距離や公共交通機関の運賃に応じて支給される通勤手当は、基礎賃金に含まれません。
ただし、通勤距離等に関係なく支払われる部分は、基礎賃金に含める必要があります。 - ④ 別居手当
業務上の理由で家族との別居せざるを得ない従業員に支給される別居手当(単身赴任手当)は、基礎賃金に含まれません。 - ⑤ 子女教育手当
子どもの教育費に充てる目的で支給される子女教育手当は、基礎賃金に含まれません。 - ⑥ 住宅手当
住宅の家賃やローン金額に応じて支給される住宅手当は、基礎賃金に含まれません。
ただし、以下のような場合には、基礎賃金に含める必要があります。
- 住宅の形態ごとに一律定額で支給されるもの(例:賃貸なら月額○万円、持ち家なら月額○万円)
- 住宅以外の要素に応じて、定率または定額で支給されるもの
- 全員に一律定額で支給されるもの
- ⑦ 臨時に支払われた賃金
業績好調を理由に支払われる手当や、成果に応じて支払われる特別ボーナスなど、臨時に支払われた賃金は基礎賃金に含まれません。 - ⑧ 一カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
賞与など、一カ月を超える期間ごとに支払われる賃金は基礎賃金に含まれません。
- ① 時間外労働手当、休日手当、深夜手当
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(2)残業代の基礎賃金に含める手当
以下のような手当は、残業代の基礎賃金に含める必要があります。
基礎賃金から除外できる手当とは異なり、これらの手当は従業員の職能と密接に関連しており、基本給に近い性質を有するためです。
- 役職手当
- 地域手当
- 資格手当
3、除外できる手当を除外せず、残業代を支払ってしまったらどうなる?
基礎賃金から除外できるはずの手当を除外しないと、会社が従業員に支払う残業代の金額は増えてしまいます。
除外できる手当を除外せず、残業代を支払ってしまった場合、会社としては過払い分を返してもらいたいところでしょう。
しかし、従業員に対して過払い分の返還を求めることができるかどうかは、状況によって異なります。
労働基準法に基づき、基礎賃金から除外できる手当について、実際に除外するかどうかは使用者の自由であると解されています。
つまり、会社が意図して基礎賃金から手当を除外しなかった場合、残業代を多く支払うことになったとしても、それは過払いではないと考えられるのです。
これに対して、会社のミスによって基礎賃金から手当を除外し忘れてしまった場合にどのような取り扱いになるのかは、法律で決まっているわけではありません。
「意図せず多く支払ってしまった残業代は過払いであり、不当利得(民法第703条、第704条)にあたる」と考えることもできますが、確立した見解ではないのです。
また、仮にこの見解が採用されるとしても、基礎賃金手当を除外しなかったことが意図的であったのか、あるいはミスによるものかは、別途に検討が必要になります。
基礎賃金に手当を含めるか否かを含めて、残業代の計算方法を間違えてしまうと、従業員との間でトラブルが発生するおそれがあります。
会社としては、労働基準法のルールに基づき、残業代を正しく計算しなければいけません。
残業代の計算に関するルールには、解釈が難しいポイントも含まれています。
正確な計算を行うために、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
4、残業代に関する従業員とのトラブルは弁護士に相談
残業代の金額などに関して、従業員との間でトラブルになってしまった場合には、弁護士に相談したうえで迅速な解決を図りましょう。
弁護士は、協議・労働審判・訴訟などを通じて、従業員とのトラブルを適切な条件で解決するための対応を行います。
従業員とのトラブルは、会社の評判を下げたり他の社員に不信感を生じさせたりするなど、多大な支障を引き起こす可能性があります。
トラブルの深刻化を防ぐために、残業代計算やその他の賃金・労働に関する問題は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
会社が従業員に残業代を支払う際には、労働基準法のルールに基づいて、正しく金額を計算しなければなりません。
特に、残業代の「時給」となる基礎賃金については、含めるべき賃金・手当と除外できる手当を明確に区別する必要があります。
除外できる手当を除外し忘れると、余分に残業代を支払うことになってしまう点に注意してください。
残業代の計算について不安がある場合や、従業員との間でトラブルになってしまった場合には、弁護士にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所にご連絡いただければ、労働問題に関する経験豊富な弁護士が、問題を解決するために対応いたします。
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