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台風のなかで従業員を出社させることは安全配慮義務違反か? 【弁護士が解説】

2020年02月04日
  • 労働問題
  • 安全配慮義務違反
台風のなかで従業員を出社させることは安全配慮義務違反か? 【弁護士が解説】

2019年秋、複数の台風の影響によって日本の各地で大きな被害が発生しました。中でも千葉県は大規模停電や河川の氾濫、強風によるゴルフ練習場の鉄柱の倒壊などが起き、その被害は甚大なものとなりました。

この台風の接近に伴い、店舗を臨時休業にするなどして従業員を自宅待機させた企業は少なくありませんでした。
その一方、強い風雨の中でも営業を続けた飲食店などは「ブラック企業だ」「安全配慮義務違反だ」などと、ネット上でバッシングを受ける事態も起こりました。

では台風の中、出社させることに問題はあるのでしょうか?安全配慮義務とは何なのでしょうか?船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、企業の安全配慮義務とは?

「荷物が倒れてきた」「機械に指を挟まれた」など、作業中の事故は珍しくありません。大きな事故が起きれば、命を落とす可能性もあります。
そのためすべての雇用主・企業には「安全配慮義務」が課されています。具体的にどのような義務なのか、ご説明します。

  1. (1)使用者の「安全配慮義務」

    すべての雇用主は、労働者が命や身体が守られた状態で働くことができるように配慮する義務を負っています。
    これを「安全配慮義務」といいます。

    労働契約に付随する義務として判例では何度も登場していましたが、実は以前は法律で定義されていませんでした。

    平成20年に施行された労働契約法第5条で、ようやく次のように明文化されました。

    使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする
  2. (2)安全配慮義務の範囲・対象

    安全配慮義務には、機械の整備や監視員の配置といった「生命・身体の保護」のほか、うつ病や過労死を防止するための「心の健康への配慮」も含まれています。

    法律上の安全配慮義務は、あくまで抽象的な定義にとどまっています。
    そのため実際には職種や業務内容、働く場所などによって、それぞれが必要な対策をとることが求められています。

    なお義務の対象には正社員のほか、パートやアルバイトも入っています。

2、安全配慮義務に違反するとどうなる?

2019年の台風の際には、従業員を出勤させた企業に「安全配慮義務違反ではないか」との指摘がありました。このケースは違反に該当するのでしょうか?違反すると罰則があるのでしょうか?

  1. (1)安全配慮義務違反に罰則はある?

    安全配慮義務を規定した労働契約法には、そもそも罰則が存在しません。そのため安全配慮義務に違反したとしても、罪に問われることはありません。

    ですが義務を怠り労働者がケガをしたり病気になったりした場合には、次の民法の規定をもとに労働者から損害賠償を請求される可能性があります。

    • 民法709条(不法行為責任)
    • 民法715条(使用者責任)
    • 民法415条(債務不履行)
  2. (2)損害賠償3つのポイント

    損害賠償請求が認められるかどうか、つまり安全配慮義務に違反したと認定されるかどうかは、次の3点の有無がポイントです。

    • 予見可能性(ケガなどの発生が予測された、予測できたと認定できた)
    • 結果回避性(ケガなどを回避する方法があったのに実行しなかった)
    • 因果関係


    この3点が認められた場合には、安全配慮義務に違反したとして賠償を命じられる可能性が高くなります。

    安全配慮義務に関する訴訟では、賠償額が高額となることは少なくありません。また敗訴しメディアで報じられるなどすれば、企業の社会的信用にも傷がつくでしょう。

    ひとたび事故が起きれば、企業の存続に関わる大きな痛手になるかもしれないのです。

  3. (3)台風の中、出勤させるのは安全配慮義務違反?

    上記3つのポイントから、台風の中、従業員を勤務させたことが安全配慮義務違反になるかどうかを検討してみましょう。

    2019年に日本を襲った台風はいずれも勢力が大きく、甚大な被害が発生することが予想され、「不要不急の外出はやめましょう」という呼びかけが頻繁になされていました。

    このような状況下で勤務をされれば「出勤中に車が洪水で車が水没する」「強風にあおられ転倒する」「店舗の窓が割れて腕を切る」といった被害が出ることが予想されます。

    一方で営業を休んで従業員に自宅待機を命じれば、これらの被害は避けられます。

    つまり「予見可能性」も「結果回避性」もあったと考えられます。

    そのためもし従業員がケガをして損害賠償を請求してきた場合には、安全配慮義務に違反したとして裁判で賠償を命じられる可能性があります。

3、安全配慮義務違反で賠償が認められたケース

一口に安全配慮義務違反といっても、その内容はかなり幅広いといえます。では実際にどのようなケースで安全配慮義務違反が認められたのか、判例で確認してみましょう。

  1. (1)電通事件(残業、過重労働)

    大手広告代理店電通の新入社員Aさん(男性、当時24歳)が長時間労働によりうつ病を発症し、入社から1年5か月後に自殺。両親が会社に損害賠償を求めた事件です。

    平成12年に最高裁が、「上司はAさんが過労状態であることや身体的精神的に疲弊していることを知りながら、対策を怠った」などとして安全配慮義務違反を認定。その後東京高裁において、会社が約1億6800万円を支払うことで和解が成立しました。

    最高裁判決では「長時間労働によるうつ病、うつ病からの自殺」という因果関係が認定されました。裁判で業務と自殺の因果関係が認められたのは初めてのことで、その後の過労死・過労自殺の裁判に道を開きました。

  2. (2)ナルコ事件(労働災害)

    自動車部品工場で働く中国人研修生Bさんが、作業中に機械に指を挟まれて指を切断した事故について、会社側の安全配慮義務違反があったとして賠償を求めた事件です。

    名古屋地裁は平成25年、作業内容について中国語で説明したり、書面を見せて指導したりするなどの安全教育が尽くされていなかったとして、事故と安全配慮義務違反に因果関係があったと認定。会社側に賠償を命じました。

    日本で働く外国人労働者には、日本の労働関係の法律が適用されます。安全配慮義務も当然その対象で、外国人にも命・身体を守るために十分な対策をしなければいけません。

  3. (3)川崎市水道局事件(いじめ)

    川崎市水道局に勤めていたCさん(男性、当時29歳)が、上司3人からのいじめを受けて自殺したことについて、両親が川崎市に損害賠償を求めた事件です。

    横浜地裁川崎支部は平成14年、上司がCさんの発言や容姿をあざ笑ったり、ナイフを見せて脅したりするなどのいじめをしたと指摘。いじめを防止するなどの適切な対策を行わず、安全配慮義務に違反したことで自殺につながったとして川崎市に賠償を命じました。

    原告、被告の双方が控訴しましたが、いずれも棄却されています。

4、安全配慮義務違反にならないための対策

裁判で安全配慮義務を認定されると、対社内・対社外ともに大きな影響がでます。安全配慮義務の遵守は労働者の命を守るためにも、会社を守るためにも欠かせないのです。
では具体的に何をすればいいのか、簡単にご紹介します。

  1. (1)労働者を守るための対策

    安全配慮義務には「命・身体」と「心」の両方に配慮しなければいけません。
    具体的な対策としては次のようなものが考えられます。

    <命・身体>
    • 機械の整備・点検
    • 安全な原材料の使用
    • 監視員の配置
    • 労働者への安全衛生教育の徹底

    <心>
    • 長時間労働の回避
    • 適切な人員配置
    • ハラスメントの防止

    たとえば建設現場とオフィスワークなど、仕事の内容や働く場所によって、労働者を守るために必要とされる対策は大きく違ってきます。
    それぞれの職場で十分な対策が行われているか、まずは確認してみましょう。

  2. (2)心のケアも大事

    近年、過労死や過労自殺がクローズアップされるようになり、企業側の責任も厳しく問われるようになりました。

    長時間労働や職場でのいじめは、心の病気や自殺につながる可能性があります。企業には命や体はもちろん、心の健康も守ることがより強く求められるようになっています。

    普段から従業員としっかりとコミュニケーションをとって不満を聞き取ったり、長時間勤務になっていないか勤務状況をチェックしたりして、一人ひとりの心のケアにもつとめましょう。

5、まとめ

台風の中、出勤を命じた企業がネット上でたたかれたように、会社が労働者の命を守ってくれるどうか、社会は厳しく監視しています。

十分な対策ができているかどうか不安をお持ちの場合、またすでに安全配慮義務に違反したとして従業員から訴えられている場合には、できるだけ早く法律の専門家である弁護士に相談してください。

ベリーベスト法律事務所船橋オフィスでは、弁護士が現状をしっかりとお聞きしたうえで、お客様に必要な対策をご提案します。安全配慮義務について不安をお持ちの方は、まずは一度ご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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