試用期間中の社員を解雇したいときに、注意すべきポイントを解説

2019年10月21日
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試用期間中の社員を解雇したいときに、注意すべきポイントを解説

不当解雇や残業代不払など、労働基準法に違反する行為をした企業や事業所は、労働基準監督署から指導などを受けることがあります。船橋市に本社を置く企業や事業所であれば、船橋労働基準監督署によって指導、是正勧告、もしくは送検されることになるでしょう。

多くの企業では、実際の勤務を通して従業員の適性などを判断するために3ヶ月程度の試用期間を設けています。試用期間の段階で極端に勤務態度の悪い従業員がいたら、どうすべきなのでしょうか。そもそも試用期間中の解雇は可能なのか、本採用との違いを確認しておかなければなりません。試用期間であれば、たとえ解雇したとしてもなんらかの指導を受けることはないと考えていませんか?

本コラムでは、試用期間中の解雇について、どのようなケースであれば解雇できるのか、気を付けるべきポイントと手続きについて、船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、解雇は簡単にはできない

そもそも労働契約法では、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められなければ解雇できないと規定されています。

たとえば、以下のようなケースであれば解雇が認められる可能性があるといえるでしょう。

  • 心身の疾患が理由で長期間の欠勤が続く場合
  • 入社時の自己申告による経歴やスキルと入社後の成績や成果が著しくかけ離れている場合
  • 勤務態度や勤務状況が著しく不良である場合


とはいえ、いずれの場合も直ちに解雇できるわけではないという点に注意が必要です。

たとえば疾患による就労不可能であれば、休職制度を活用するなどの対策を講じる必要があったとされることが多いでしょう。成績不良が改善されないのであれば、従業員の能力を向上させるための指導を行うことが要求されることも多いでしょう。

また、勤務態度や勤務状況の不良といっても、具体的に示したうえで判断されます。勤怠不良の回数や程度、期間、職務に及ぼした影響、改善の見込みなどを総合的に判断するものとされているのです。たとえば、遅刻が数日続いた程度では解雇が認められないケースがほとんどでしょう。

このように、解雇できるケースはかなり限定的なものとなっていることを知っておきましょう。

2、試用期間中であれば自由に解雇できるのか?

では、「本採用前の試用期間中であれば自由に解雇できるのか?」という疑問にお答えしましょう。

まず、試用期間中の労働契約は、「解約権留保付労働契約」だと理解されています。これは、契約によって雇用の効力は確定するものの、企業側には契約の解約権があり、試用期間中には相当の理由をもって契約を解約できるというものです。

これにより、試用期間中は本採用者の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められるとお考えになるかもしれません。しかし、試用期間中の解雇は、解約権留保付の趣旨目的に照らした上で、あくまで客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と認められるような場合にのみ許されるとされています。
では、具体的に試用期間中の解雇が認められるケースを確認していきましょう。

  1. (1)勤務態度が極めて悪い

    職場での指示に一切従わない場合や、意味のない反抗的な態度をとる場合など、その従業員の行動によって職場の空気を乱すようなケースでは、試用期間中の解雇が認められることがあります。

  2. (2)正当な理由のない遅刻や欠勤が多い

    社会人として最低限守るべきルールである、正当な理由なく遅刻や欠席をしないという認識がないと考えられるケースでも、試用期間中の解雇が認められることがあります。

  3. (3)自己申告した履歴に重大な虚偽の事実があった

    採用時に提出した履歴書や職務経歴書の内容に虚偽の記載があった場合、会社が求めるスキルが満たされていないという可能性は高くなります。したがって、試用期間中の解雇が認められることがあります。特に、故意に経歴を詐称していることが発覚した場合では、試用期間中であっても解雇が認められる可能性は高いでしょう。

3、試用期間の解雇で注意するべきポイント

次に、試用期間の解雇で注意するべきポイントを確認していきましょう。

  1. (1)試用期間の設定

    本採用後と比較して広い範囲で解雇が認められるという点を理由に、試用期間を長く設定しておきたいと考えるかもしれません。しかし、これはNGです。むやみに長い期間を設けることは、企業側にメリットがあっても従業員側にはデメリットしかないからです。

    一般的に、試用期間は3ヶ月から6ヶ月が妥当な期間とされています。原則は3ヶ月としたうえで、従業員の同意を得られた場合には6ヶ月までの延長ができるといった設定をしている企業もあります。

    1年を超えるような試用期間を設定している場合、期間についての法令はないものの、民法における公序良俗違反により違法とされるリスクが高くなるため注意してください。

  2. (2)適切に解雇予告を行う

    たとえ試用期間中であろうと、解雇する場合は本採用後と同じく解雇予告が必要です。すでに正社員となった者に対する解雇を行うときと同様、適切に通知しなければなりません。

    ただし、14日以内の解雇についてのみ、解雇予告は不要とされています。もちろん、解雇理由は正当なものである必要があります。

  3. (3)解雇の理由についての客観性

    いずれにしても、解雇をする場合には、客観的な理由があることを証明しなければなりません。会社が定める就業規則に照らして判断されているかはもちろんのこと、再三の注意をしたのにもかかわらず就業態度が改善されていないことが証明できるメールや始末書が残されているなど、証拠の有無も重要です。

    証拠がなければ後に解雇の効力について争いになった際、不利になるおそれがあります。

  4. (4)試用期間について明文化する

    試用期間中の決まりごとや解雇事由については、就業規則や雇用契約書に明文化しておきましょう。経営側にとって常識と考えていたとしても、誰もがそうだと感じるとは限りません。

    文書で正しく整備されていなければ、思わぬトラブルの原因になることもあります。口頭のみで伝えていたとしても、証拠として認められるケースはほとんどないと考えるべきです。就業規則などの正式な書面とすると同時に、従業員全員に周知徹底することにより、従業員の意識を高めることにもつながるでしょう。

4、試用期間中の解雇の手続きについて

最後に、解雇手続きについて確認しておきましょう。

  1. (1)試用開始から14日を超えた日に解雇する場合

    試用開始から14日を超えた日に解雇する場合には、30日前までに予告をする必要があります。そして30日前までに予告をしない場合は、解雇予告手当として解雇までの日数に応じた日数分の平均賃金を支払うものとされています。

    つまり、まったく解雇予告をしなかった場合には30日分の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければならないということです。解雇予約手当については、試用期間中の解雇であっても本採用後の解雇であっても同様です。

  2. (2)試用開始から14日以内に解雇する場合

    14日以内に解雇する場合には予告は不要であり、解雇予告手当も発生しません。しかし先述の通り、解雇するだけの客観的に合理的な理由が存在している必要があり、自由に解雇できるものでないことに注意しましょう。

5、まとめ

今回は、試用期間中の従業員を解雇することはできるのかについて解説しました。

試用期間中の解雇は、特定の条件を満たしていれば可能だといえます。ただし、十分な改善の機会を与えるなど、雇用する側に努力が求められます。そして、本採用後の解雇よりは広い範囲において自由が認められるとされているものの、客観的に合理的な理由が必要ですし、社会通念上相当と認められるような場合にのみ許されるとされている点に注意が必要です。

試用期間中に解雇したいとお考えのときは、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスまでご連絡ください。穏便に辞めてもらうためのアドバイスや、万が一のケースに備えた社内文書の整備も含めて、サポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています