【前編】契約を交わしてトラブルを避ける! 雇用契約書の作り方
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正社員やパートタイムなどの雇用形態に関係なく、労働者を雇用する際は「雇用契約書」の作成および作り方が重要です。雇用契約書は、その作成が法的に義務付けられているものではありません。しかし、雇用契約書を作成していなかったり、あるいは雇用契約書の内容に法的知見の不足に起因した詰めの甘さや内容の不備があったりすると、労働者との思わぬトラブルや会社の損失につながる可能性があるのです。
そのような事態にならないために、雇用契約書の重要性と作り方について、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します
1、従業員を雇うときは雇用契約書は必要?
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(1)雇用契約とは?
民法第623条によりますと、雇用とは「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約すること」と定義されています。そうすると、雇用契約は、労働者が「労働に従事すること」と使用者が「報酬を与えること」を内容として労働者と使用者との合意で成立するということになりますね。
雇用契約に類似したものとして、労働契約があります。雇用契約の「労働に従事すること」を使用者の指揮・命令下で行われる労働に従事することと考えると、労働契約と雇用契約は、基本的に一致するものとされています。
なお、労働契約について以下のような特徴があります。- ①労働者は使用者の具体的な指示に従って労働する義務を負う。
- ②労働契約は長期間にわたることが多いので継続性がある。
- ③使用者は労働者の心身の安全や職場環境・プライバシーの人格的利益に配慮することが必要である。
- ④労働契約は個別に結ぶものであるが、同時に他の労働者と併せて集団の一員として扱う側面がある。したがって、労働契約の内容は就業規則等によって、決定されることが多い。
また、労働者は雇われる側であるので、一般的には立場が弱く、労働法が労働者を保護する以下のような規定を置いています。
- 会社と労働者は対等の立場である。
- 就業の実態に応じた均衡を考慮すること。
- 会社は、労働者の仕事と生活の調和に配慮すること。
- 会社と労働者は信義に従い誠実に行動しなければならず、権利を濫用してはならないこと。
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(2)労働条件の明示義務
民法において、契約という行為には必ずしも当事者間で書面を取り交わすことが成立する要件とされておらず、当事者間の口頭によるやり取りでも有効に成立するものとされています。これを諾成契約といいますが、売買契約、賃貸借契約と並んで、雇用契約も諾成契約の一つです。
したがって、雇用契約を結ぶのに、契約書は要らない?ということになりそうです。
もっとも、雇用契約の場合においては、口頭の約束だけではいけないことがあります。労働基準法第15条では、労働者と雇用契約を締結する際に会社は労働者に対して賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければならないと規定されています。
つまり、労働者と雇用契約を締結する際、会社は労働条件を口頭のみで労働者に説明するだけでは不十分なのです。労働条件については、必ず「労働条件通知書」や「雇用通知書」などのような書面を交付する方法で労働者に明示することが義務付けられており、これを「労働条件の明示義務」といいます。これに違反した会社または経営者には、労働基準法第120条の規定により30万円以下の罰金が科されることになります。
2、雇用契約書を作成しなかったときに起こりうるトラブルは?
労働条件を明示した書面などを交付すれば、会社は雇用契約締結における法的要件を満たすことになります。しかし、後々のトラブルを防ぐ観点からすると、これだけでは不十分と考えられます。
会社が労働条件に関する書面を交付のうえ、労働者に対し余すことなく丁寧に説明したとしても、労働条件の内容に対する理解が不十分であったり自身の都合のよいように一方的な解釈をしたりする労働者は多いものです。このため、雇用契約を締結し働きはじめたあとになって、労働者が「最初に聞いていた話と違う」「こんな条件に合意した覚えはない」などと不当に主張してくることも考えられます。
このような労働条件に関する「言った・言っていない」のトラブルは、会社と労働者との間であとを絶ちません。悪質なケースとしては、労働条件を明示した書面などについて「もらっていない」など虚偽の事実を主張してくることもあるのです。
このような不毛なトラブルを未然に防ぎ、さらに労働者と紛争になった場合に会社としての正当な主張の裏付けとするために、雇用契約を締結するときは労働条件を明示した雇用契約書を作成しておくべきではないでしょうか。
後編では、引き続きベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が雇用契約書の作り方について解説します。
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