令和3年3月1日引き上げ。 障害者雇用の法定雇用率について解説
- 一般企業法務
- 障害者雇用
- 法定雇用率
千葉県が公表している市町村ごとの障害者手帳所持者数の統計資料によると、令和元年度の船橋市内の身体障害者手帳所持者数は1万5968人、知的障害者名簿登載者数は3620人、療養手帳所持者数は、3571人でした。いずれも千葉県内では千葉市に次いで第2位の数字となっています。
障害者雇用を促進するために、一定規模以上の企業に対しては、一定の割合の障害者を雇用する義務が課せられています。この割合を「法定雇用率」といいます。法定雇用率は、令和3年3月1日から引き上げられることになりました。これまでは障害者雇用の義務が負わなかった企業であっても、引き上げによって、新たに義務を負うことになる可能性があります。その場合には、障害者雇用の要請を満たすための準備をすすめていかなければならないのです。
本コラムでは、障害者雇用の法定雇用率について、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説いたします。
1、障害者雇用について事業主に求められているもの
障害者雇用促進法では、一定規模以上の企業に対して障害者の雇用が義務付けられています。まず、障害者雇用促進法の概要について、解説いたします。
-
(1)障害者雇用促進法の概要
障害者雇用促進法とは、障害者の雇用義務などに基づく雇用の促進などのための措置や職業リハビリテーションの措置などを通じて、障害者の職業の安定を図ることを目的とした法律です(障害者雇用促進法1条)。
障害者雇用が促進される背景には「ノーマライゼーション」の理念があります。具体的には、「障害の有無に関わらず、相互に個性と人格を尊重し合いながら共に生活する社会を実現しよう」という理念になります。このノーマライゼーションの理念を職業生活において実践しようとする法律が、障害者雇用促進法なのです。 -
(2)障害者雇用に関するポイント
企業が障害者を雇用する際に関わってくるものとしては、以下の三つがあります。
- 法定雇用率に相当する障害者の雇用義務
- 障害者雇用納付金の徴収
- 調整金や助成金の支給
以降の章では、「法定雇用率に相当する障害者の雇用義務」と「障害者雇用納付金の徴収」について、詳しく解説いたします。
2、法定雇用率は令和3年3月1日から引き上げ
法定雇用率については、令和3年3月1日から、0.1%引き上げられました。法定雇用率の引き上げによって、具体的にどのような変化が生じることになったかについて解説いたします。
-
(1)法定雇用率とは
労働者の人数が一定数以上の規模の事業主に対しては、全体の労働者に占める障害者の割合を「法定雇用率(障害者雇用率)」以上にする義務が課せられています(障害者雇用促進法43条1項)。この制度は、事業者に対して法定雇用率を設定することによって、障害者についても一般の労働者と同水準の常用労働者となり得る機会を保障することを目的としています。
なお、社会情勢の変化に対応するために、障害者の法定雇用率は5年ごとに見直しが行われています。 -
(2)具体的な法定雇用率
法定雇用率については、すべての企業に一律の割合ではなく、対象となる事業主の区分に応じて異なる割合の法定雇用率が設定されています。
令和3年3月1日から引き上げられる法定雇用率は、下記の通りになります。- ① 民間企業:2.3%
- ② 特殊法人など:2.6%
- ③ 国、地方公共団体:2.6%
- ④ 都道府県などの教育委員会:2.5%
民間企業については、引き上げ前の法定雇用率は2.2%とされていましたので、常用雇用労働者45.5人以上の企業では1人以上の障害者を雇用する義務がありました。
これに対して、引き上げ後には法定雇用率は2.3%となりましたので、常用雇用労働者43.5人以上の企業で1人以上の障害者を雇用する義務が課せられているのです。
従来は障害者雇用の義務がなかった企業であっても、今回の法定雇用率引き上げによって、新たに障害者雇用の義務が課せられる可能性があります。
対象となる企業は、新制度に確実に対応するために、準備をすすめましょう。
3、法定雇用率の計算方法
企業ごとに設定されている法定雇用率を自社が達成しているかどうかについて、計算する方法を解説いたします。
-
(1)企業が採用すべき障害者の人数の計算方法
企業が採用すべき障害者の人数は、以下の計算式によって算出します。
法定雇用障害者数(雇用義務障害者数)={常用労働者数+(短時間労働者数×0.5)}×障害者雇用率
なお、常用労働者とは、1週間の労働時間が30時間以上の労働者のことをいい、短時間労働者とは、1週間の労働時間が20時間以上かつ30時間未満の労働者のことをいいます。短時間労働者よりも短い労働時間の労働者についてはカウントしません。
たとえば、週40時間勤務の正社員が150人、週20~30時間勤務のパート社員が50人いる場合の民間企業では、雇用義務の障害者の人数は、以下の通り4.025人となりますが、小数点以下は切り捨てとなります。そのため、4人以上の障害者を雇用する義務が生じるのです。
{150人+(50人×0.5)}×2.3%=4.025人 -
(2)法定雇用率の対象となる障害者とは?
障害者雇用促進法では、障害者は「身体障害、知的障害、精神障害その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」と定義されています(障害者雇用促進法2条1号)。
そして、このうち法定雇用率の対象となる障害者とは、以下の通りになります。- 身体障害者(身体障害者手帳保持者)
- 知的障害者(療養手帳など各自治体が発行する手帳保持者および知的障害者の判定書保持者)
- 精神、発達障害者(精神障害者保健福祉手帳所持者)で症状が安定し、就労できる人
上記に該当しない障害者については、法定雇用率の算定対象外となります。
ただし、ノーマライゼーションの理念をふまえると、法定雇用率にかかわらず様々な障害者を積極的に雇用していくことが、企業の社会的義務であるといえるでしょう。 -
(3)障害者の人数のカウント方法
法定雇用率の対象となる障害者を雇ったときに、何人分とカウントするかについてもルールがあります。
カウントする方法は、障害者の労働時間と、障害の程度によって、以下のように定められています。- 常用労働者は1人分、短期労働者は0.5人分とする。
- 重度身体障害者、重度知的障害者は2人分とし、重度身体障害者、重度知的障害者の短時間労働者は1人分とする。
- 短時間労働者の精神障害者については、①新規雇い入れから3年以内、かつ②令和5年3月31日までに雇い入れられ、精神障害者保健福祉手帳を取得した場合については、1人分とし、①②をいずれも満たさないときには0.5人分とする。
たとえば、4人の障害者を雇用する義務のある企業においては、「重度身体障害者2人を雇用する」、「重度身体障害者1人、常用雇用労働者2人」といったかたちで雇うことができます。
障害者の雇い方については、企業の状況や求める人材などに応じて、柔軟に対応していくとよいでしょう。
4、法定雇用率を達成しない場合は納付義務が生じる
法定雇用率を満たす障害者の雇用が達成できていない企業に対しては、障害者雇用納付金の納付義務が生じます。
-
(1)障害者雇用納付金制度とは
障害者を雇用するうえで、職場環境の整備などのために企業に対してある程度の経済的負担が生じます。したがって、法定雇用率を達成している企業としていない企業との間では、経済的負担の不公平が存在します。
企業の経済的負担の調整と企業間の不公平の解消のため、法定雇用率未達成の企業から納付金を徴収して、法定雇用率達成企業に対して調整金や報奨金を支給するという制度が、障害者雇用納付金制度となるのです。
なお、この納付金は、刑法などを侵害した場合に科される罰則や罰則などとは性質が異なるものになります。 -
(2)納付金の徴収金額
法定雇用率を満たさない企業は、不足人数1人あたり5万円の納付金が徴収されます。ただし、納付金が徴収される企業は、常用労働者数が100人を超える企業だけであり、常用労働者数は100人以下の中小企業から納付金が徴収されることはありません。
なお、法定雇用率の引き上げによって、障害者雇用納付金の取り扱いも以下のように変更されている点に、注意してください。① 令和2年度分の障害者雇用納付金について
令和3年2月以前については、引き上げ前の法定雇用率によって算定し、令和3年3月のみ引き上げ後の法定雇用率で算定します。
② 令和3年度分の障害者雇用納付金について
令和3年4月以後については、引き上げ後の法定雇用率で算定します。
5、まとめ
障害者の社会進出も進んできており、障害者を積極的に雇用するということは企業の社会的義務として求められるようになっています。
障害者雇用促進法では、障害者雇用を促進するために、企業に対して法定雇用率を満たす障害者の雇用を義務付けています。そして、令和3年3月1日から、法定雇用率は引き上げられています。新たに対象となる企業や雇用する障害者を増やさなければならない企業については、確実に対応できるように準備をすすめることが必要となるのです。
法定雇用率未達成の企業に対しては、障害者雇用納付金が徴収されます。また、未達成状態が続く企業に対しては、ハローワークからの指導や、場合によっては企業名の公表という措置をとられることもあるのです。
「障害者雇用の義務があるかどうか」「何人の障害者を雇わなければならないか」など、障害者雇用についての判断に迷うことがあれば、企業法務の取り扱い経験も豊富なベリーベスト法律事務所 船橋オフィスにまで、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています