二次創作やパロディは法律違反? 著作権法違反となる行為を弁護士が解説
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令和3年の5月、有名な絵本「はらぺこあおむし」の作者と知られる米国の絵本作家、エリック・カール氏が死去されました。
同年の6月に新聞社が「はらぺこあおむし」のイラストをパロディした風刺漫画を掲載したところ、「はらぺこあおむし」の出版を手掛ける日本国内の会社から、「作品の趣旨を理解してない」との批判を受けました。また、一部の弁護士も、新聞社の風刺漫画が「著作権侵害の可能性」を含むことを指摘しています。
アニメや漫画を愛好する人々のなかには、原作をもとにして自分なりの解釈で物語やイラストを描く、「二次創作」を行う人がいます。
二次創作は昔から行われていましたが、毎年のように開催される同人誌即売会である「コミックマーケット」が全国的なイベントになったこと、またTwitterやpixivなどのSNSにお気に入りのキャラクターのイラストを投稿する「絵師」の数が増えたこともあって、近年では多くの人が目にするメジャーな文化となりました。
プロとして自分が著作権を持つ作品を創作しているアニメーターや漫画であっても、他人の作品に基づいた二次創作イラストを趣味として投稿することが珍しくなくなっているのです。
しかし、パロディも二次創作も、あくまで他人が著作権を持つ創作物を利用する行為であります。
したがって、著作権法の規定を十分に理解しておかないと、最悪の場合は罪に問われてしまう可能性もあるのです。
この記事では、パロディや二次創作に著作権法との関係で生ずる問題点などについて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも著作権法とはどのような法律?
まずは、著作権法とはどのような法律かということについて、基本的な知識を押さえておきましょう。
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(1)著作者の権利を守る法律
著作権法は、創作性の高い作品を制作した著作者に著作物の利用に関する権利を認めて、著作者の利益を保護することによって、社会全体の創作活動を後押しすることを目的とした法律です。
著作権法によって保護される著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)と定義されています。アニメや漫画などもこの定義に当てはまるので、著作物に該当します。 -
(2)著作物の利用には原則として著作権者の許可が必要
著作権者以外の人が著作物を利用したい場合には、一部の例外を除いて、原則として著作権者の許可を得なければなりません。
たとえば、著作物についての以下のような権利は、著作権者のみが有するものとされています。これらの権利に関連する行為を行うためには、著作権者の許可が必要となるのです。<著作権の内容の例>
- 著作物をコピーする権利(複製権)
- 著作物を上演、演奏、上映する権利(上演権、演奏権、上映権)
- 著作物をインターネット上で配信する権利(公衆送信権)
- 言語の著作物(小説など)を公に向けて口述する権利(口述権)
- 美術の著作物や未発行の写真の著作物を公に展示する権利(展示権)
- 映画の著作物をフィルムにして頒布する権利(頒布権)
- 著作物を収録したメディアを販売する権利(譲渡権)
- 著作物をレンタルする権利(貸与権)
- 著作物を翻訳したり、作り替えたり(翻案)する権利(翻訳権、翻案権)
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(3)著作者には著作者人格権も認められている
著作者には、「著作権」とは別に「著作者人格権」という権利も認められています。
著作者人格権の内容は以下の通りになります。<著作者人格権の内容>
- 著作物を最初に公に公表できる権利(公表権)
- 著作物を公衆に提示する際に、著作者の氏名を表示できる権利(氏名表示権)
- 著作物を勝手に改変されない権利(同一性保持権)
2、二次創作には著作権法上どのような問題があるのか?
著作物に対して自分なりの解釈で改変を加えて、オリジナルストーリーやパロディなどの二次創作物を制作する行為は、やり方によっては著作権法に違反する場合があります。
以下では、二次創作について著作権法上どのような問題が存在するのかについて解説します。
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(1)二次創作は「翻案」に該当する
二次創作を行うことは、著作権法においては「翻案」という行為に該当します。
翻案とは、著作物を編曲・変形・脚色するなど、オリジナルの本質的な特徴を残しながら、具体的な表現に修正・増減・変更などを加えて別の著作物を創作する行為をいいます。
翻案についてポイントとなるのは、「他人から見て、オリジナルの本質的な特徴を直接的に感得することができるかどうか」という点です。
一般的に「二次創作」と呼ばれる作品については、オリジナルをベースとしていることが誰の目にも明らかな場合がほとんどですので、原則として翻案に該当するものと認識してよいでしょう。
逆に、他人から見てオリジナルをベースとした作品であるとはわからないレベルに改変が行われた場合には、もはやオリジナルとは全く別の著作物であると考えられます。この場合、翻案には該当しません。 -
(2)翻案権を有するのは著作権者のみ|無断で二次創作をすると原則違法
著作物の翻案を行う権利は、著作権法第27条において著作権の一つとして規定されており、著作者(原作者)が専有するものとなっています。
そのため、著作権者に無断で二次創作(翻案)をする行為は、原則として禁止されているのです。 -
(3)同一性保持権の侵害にも該当する
さらに、著作者に無断で二次創作をする行為は、著作者人格権の一つである「同一性保持権」の侵害にも該当します。
同一性保持権とは、著作者の意に反して著作物を改変されない権利をいいます。
二次創作を行う場合、オリジナルの著作物を改変することにより制作されることが通常ですので、著作者の同一性保持権の侵害が疑われることは避けられません。
このように、二次創作については著作権法上、著作者が有する「翻案権」と「同一性保持権」という二つの権利が問題となるのです。
3、二次創作を適法に行える場合とは?
著作者に翻案権と同一性保持権が認められているとしても、「二次創作を行うことが一切禁じられている」というわけではありません。法律に違反しないようにして二次創作を行うことも、可能なのです。
以下では、著作権法に抵触せず、二次創作を適法に行うことができる場合について解説します。
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(1)著作権者の許可を得た場合
著作権者は、翻案を含む著作物に関する各種の利用を行う権利を専有しています。
しかし、これらの利用を第三者に対して許諾することは、著作権者の自由です。
そのため、著作権者に二次創作の許可を得たうえで制作すれば、二次創作を行っても法律に違反することにはなりません。
なお、著作者から著作権が出版社などに譲渡されている場合には、著作権者と著作者(著作者人格権を有する人のこと)が別になっているケースもあります。
その場合には、同一性保持権に関する権利処理も必要となるため、著作権者・著作者の両方から二次創作の許可を取得することが必要となるのです。 -
(2)純粋な私的使用目的の場合
著作権法では、純粋な私的使用を目的とする場合には、著作権者の許可を得ることなく著作物を複製できることが規定されています(著作権法第30条第1項)。
「私的使用」とは、「個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」と定義されており、身内や仲間内だけで楽しむような状況が想定されています。
私的使用として複製が認められるケースでは、翻案についても同様に、著作権者の許可なく行うことが可能です(著作権法第47条の6第1項第1号)。
したがって、二次創作を私的使用目的で楽しむぶんには、著作権者の許可がなくても、著作権法上は問題がないのです。 -
(3)営利性がなくても、無断で二次創作物を公表することはNG
SNSやホームページなどに二次創作物を投稿して、公に向けて発信する際には、特に注意しなければいけません。
たとえ投稿に営利性がなかったとしても、公に発信することは「私的使用」の範囲から外れてしまい、著作権者の許可が必要となるためです。
そのため、「個人のホームページで無料公開するだけだからよいだろう」「Twitterに投稿するだけなら問題ないだろう」などという考えも通用しません。著作権法上は、違法となってしまうのです。
4、違法な二次創作に関係する犯罪とは?
著作権者(著作者)に無許可で違法な二次創作を行った場合、著作権法によって刑事罰に問われてしまう可能性があります。
以下では、違法な二次創作行為をした場合にどのような犯罪が成立するかについて、解説します。
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(1)著作権侵害
著作権者に無断で二次創作を行うことは、著作権の一つである翻案権の侵害に該当します。
翻案権の侵害に対しては、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」ものとされています(著作権法第119条第1項)。 -
(2)著作者人格権侵害
著作者に無断で二次創作を行うことは、著作者の有する同一性保持権の侵害にも該当します。
同一性保持権の侵害に対しては、「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」ものとされています(著作権法第119条第2項)。 -
(3)訴追には被害者の告訴が必要(親告罪)
翻案権侵害や同一性保持権侵害は、いずれも、被害者などからの告訴がなければ公訴を提起することができない「親告罪」に該当します。
したがって、実際に捜査機関が訴追を行うためには、被害者である著作権者・著作者の告訴が必要となるのです(著作権法第123条第1項)。
5、まとめ
著作権者や著作者に無断で二次創作を行うことは、著作権法で認められている翻案権・同一性保持権の侵害に該当し、最悪の場合は罪に問われる可能性があります。
ただし、実際に捜査機関が訴追を行うためには、被害者である著作者や著作権者からの告訴が必要となります。
そのため、「違法二次創作物の電子販売などを大々的に行って、お金を稼いでいた」などの悪質なケースでなければ、訴追を受ける現実的な可能性は低いといえるでしょう。
とはいえ、最近では著作権者や著作者の権利意識も高まっているため、告訴が行われる可能性は全くない、と言い切ることはできないのです。
「自分が過去に行った二次創作行為が違法なのではないか」「著作者に告訴されて、捜査機関から訴追されてしまうのではないか」などと不安を感じている方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士にまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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