賃貸物件の家賃減額交渉は可能? 交渉の進め方・注意点を弁護士が解説

2021年10月18日
  • 一般民事
  • 家賃減額交渉
賃貸物件の家賃減額交渉は可能? 交渉の進め方・注意点を弁護士が解説

船橋市の人口統計資料によると、船橋市の常住人口は、令和2年3月10日に64万人に到達しました。

新型コロナウイルス感染症によって売り上げが減少した店舗には、家賃などの固定費の負担が重くのしかかっています。もし家賃の金額が周辺の物件よりも高い場合には、家賃減額交渉を検討することができます。

この記事では、家賃減額に関する法律のルールや、家賃減額交渉の進め方・注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、家賃の減額は法的に認められる? 借賃増減請求権について

家賃は、賃貸借契約によって決められております。したがって、賃貸人・賃借人の合意がなければ変更できないことが原則となります。
しかし、借地借家法第32条第1項に規定される「借賃増減請求権」により、一定の条件下で家賃の減額が認められることがあります。
賃借人が借賃増減請求権を行使すると、賃貸人の合意がなくても、賃貸借契約に定められる家賃を将来にわたって減額することができるのです

借賃増減請求権の行使による家賃の減額が認められるのは、以下の事情によって家賃の金額が不相当となった場合です。

  • 土地または建物に対する租税その他の負担の減少
  • 土地または建物の価格の低下その他の経済事情の変動
  • 近傍同種の建物よりも家賃が高額であること


借賃増減請求権の行使による家賃の減額は、特約によって排除することはできません(借地借家法第32条第1項但し書き参照)。
したがって、賃貸借契約において減額を認めない旨の特約があっても、賃借人は借賃増減請求権を行使して、家賃の減額を請求することが可能なのです

2、家賃減額請求はどのように進めるべき?

借賃増減請求権に基づいて、賃貸人に対して家賃の減額を請求する場合、まずは家賃交渉を行います。そして、家賃交渉がまとまらなければ、最終的には訴訟という流れをたどることになるのです。

  1. (1)基本的には話し合いでの解決を目指す

    賃借人としては、今後も賃貸物件を利用し続けることを前提とすれば、賃貸人との間のトラブルをいたずらに複雑化させることは好ましくないはずです。
    そのため、家賃減額の問題についても、できる限り話し合いで解決することが望ましいでしょう。
    また、話し合いをまとめることができれば、短期間で家賃減額を実現できるメリットもあるのです。

    家賃減額交渉を行うにあたっては、後述するように、法律上および交渉の戦略における注意点がいくつか存在します
    適切な対応を行って家賃の減額に成功する確率を高めるために、弁護士に対応方針を相談することをおすすめします。

    なお、オーナー(賃貸人)の連絡先が分からない場合には、管理会社に連絡先を確認すれば、教えてもらえることがあります。

  2. (2)最終的には訴訟が必要となる場合もある

    賃貸人との間で家賃減額交渉がまとまらない場合には、最終的には訴訟を通じて借賃増減請求権を行使するという方法で、家賃の減額を求めることになります。

    借賃減額請求訴訟では、現状の家賃が不相当となったことについて、賃借人側が証拠を用いて立証することが求められます
    そのためには、家賃に影響を与える経済事情の変動や、近隣店舗などの賃料相場などについて、十分なリサーチと資料作成を行う必要があります。
    しかし、借賃減額請求訴訟の準備には膨大な手間がかかります。また、訴訟手続きにおける主張立証のルールや手続きもじつに複雑なものとなっております。
    そのため、家賃減額交渉がこじれてしまいそうな場合には、お早めに弁護士に相談することをおすすめいたします。

3、家賃減額交渉を行う際の注意点

賃貸人との間で家賃減額交渉を行うにあたっては、どのような提案であれば賃貸人が受け入れやすいか、受け入れざるを得ないか、ということを意識したうえで交渉の場に立つことが大切です。
以下では、賃借人が家賃減額交渉に臨む際の注意点を解説します。

  1. (1)借地借家法の規定に沿って減額の根拠を示す

    家賃減額交渉は、単に家賃を「下げてほしい」「下げたくない」という主張をぶつけ合っているだけでは水掛け論で終わってしまいます。
    交渉が決裂した場合には借賃減額請求訴訟に発展することを考慮すると、結局は、法律上の権利やルールをベースとした交渉に落ち着くと考えられるでしょう。

    前述の通り、借賃増減請求権の行使による家賃の減額は、以下のいずれかに該当する場合に認められます。

    • 土地または建物に対する租税その他の負担の減少
    • 土地または建物の価格の低下その他の経済事情の変動
    • 近傍同種の建物よりも家賃が高額であること


    賃借人としては、根拠資料とともにこれらの事情を賃貸人に対して提示して、「家賃の減額を受け入れざるを得ない」という点について賃貸人を説得することが重要になります。
    どのような根拠資料が必要か、根拠資料をどのように収集するかなどについては、弁護士のアドバイスを受けるとよいでしょう。

  2. (2)妥協点を探ることも大切

    賃借人としては、減額後の希望家賃額を念頭に置いて、家賃減額交渉に臨むことになります。
    しかし、いきなり大幅な家賃の減額を提案しても、賃貸人がその提案を受け入れることは少ないものです

    家賃減額交渉を円滑に成立させるという観点からは、賃借人は、自らの希望額や法律上の権利とは別に「どの程度の家賃であれば支払えるか」という許容範囲を定めておくことが有効です。
    そして、あらかじめ定めた許容範囲内でできる限り有利な条件を得られるように、賃貸人の反応を見ながら家賃減額交渉をすすめましょう。

  3. (3)交渉中も従前の家賃を支払い続ける

    賃借人が現在の賃料に不満を持っている場合でも、賃料を支払わなければ「債務不履行」となり、賃貸人から賃貸借契約を解除されてしまうおそれがあります。

    借地借家法第32条第3項本文では、家賃の減額について当事者間で協議が成立しない場合には、減額を正当と裁判が確定するまでの期間、賃貸人が相当と認める額の家賃を賃借人に対して請求できるものとされています。
    賃貸人が「相当と認める額」の家賃とは、基本的には従前の家賃金額を意味しますので、家賃減額交渉の最中でも、賃借人は賃貸人に対して従前の家賃をきちんと支払うことが大切です。

    なお、後に減額を正当とする裁判が確定した場合には、仮払いした家賃と減額後の家賃の差額について、年1割の利息を付して返還を受けることができます(同項但し書き)
    これに対して家賃減額交渉の場合は、過払い分の返還を受けられるかどうかは合意内容次第となりますが、訴訟での取り扱いをふまえて返還するように賃貸人に対して求めることも可能になるのです。

4、家賃減額交渉を弁護士に依頼するメリット

賃借人が賃貸人に対して家賃の減額を求める場合、弁護士に相談して交渉を行うことをおすすめします。
家賃減額交渉を弁護士に依頼する主なメリットは、以下の通りになります

  1. (1)法律上の根拠がある主張を展開できる

    家賃減額交渉では、訴訟になった場合に認められるであろう請求内容を念頭に置きながら進行することが重要になります。
    そのため、賃借人としては、交渉のなかで借地借家法上の減額根拠をきちんと提示することが大切になるのです。

    弁護士に相談すれば、借地借家法の減額要件に沿って、賃借人に有利な事実や証拠を適切に収集して、賃貸人に対して法律上の根拠がある家賃減額の主張を展開することが可能です

  2. (2)賃貸人に対して真剣度が伝わる

    また、賃借人が弁護士を代理人として家賃減額交渉に臨めば、賃借人側が交渉に対して真剣であるということが賃貸人にも伝わります。

    賃貸人としても、真摯に対応しなければ訴訟に持ち込まれてしまうことを考慮して、弁護士を代理人に立てて交渉に臨んでくることも考えられます
    そうなれば、代理人同士の間で争点の整理が行われることになり、結果として家賃減額交渉がスムーズにまとまる可能性も高まるでしょう。

  3. (3)訴訟などへの手続き移行もスムーズ

    賃貸人が家賃の減額を強硬に拒否する場合には、最終的には訴訟手続きをとることも検討することになります。

    訴訟手続きは複雑かつ専門的な手続きですが、弁護士に依頼をすればスムーズに対応することができます。
    また、弁護士に依頼すれば、訴訟準備にかかる労力も軽減されるというメリットもあります

    賃貸人・賃借人の双方が主張する家賃額の間に差がある場合には、訴訟を見すえた対応が必要になりますので、お早めに弁護士にまでご相談ください。

5、まとめ

賃貸人と家賃減額交渉を行う際には、借地借家法の規定をふまえて適切な主張を行うと同時に、賃貸人の交渉態度などを伺いながら、必要に応じて妥協点を探ることも重要になります。

家賃減額交渉は最終的に訴訟に発展することもあり得ますので、早い段階から弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所では、不動産業者をはじめとする他専門業者と連携したうえで家賃相場の調査を行うなど、現状の家賃の相当性について慎重な検討を行い、家賃の減額がスムーズに実現するようにサポートいたします
賃料交渉や訴訟の手続きも全面的に代行いたしますので、依頼者の負担を大きく軽減することも可能です。

「現状の家賃は高すぎるのではないか?」と悩まれている賃借人の方は、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスにまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています