同居中でも婚姻費用を請求できる? 婚姻費用の基礎知識
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千葉県の人口動態統計によると、令和5年の千葉県内離婚件数は9153件でした。離婚に至る前には、不仲になって口もきかない家庭内別居の期間もあります。
家庭内別居をされている方の悩みのひとつに、「離婚を切り出すと、配偶者が生活費を渡してくれなくなるのではないか」という問題があります。特に子どもがいる場合には、「子どもに苦労させたくない」という思いが強くなるでしょう。その結果、なかなか離婚を言い出せずに、苦しい思いを続けてしまいがちです。
本コラムでお伝えすることは、大きく以下の3つです。
・同居中に夫が生活費をくれなくなった場合はどうすればいいのか
・婚姻費用の請求はできるのか
・婚姻費用で合意できない場合の対処法
離婚までの生活費に不安を感じている妻の立場を想定しながら、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、婚姻費用の基礎知識
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(1)婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦が結婚生活を送るために必要な費用のことを指します。
具体的には、食費、住居費、医療費、通信費、子どもの教育費などが含まれます。
結婚した夫婦の間には、相手が自分と同じレベルの生活を送ることができるように、お互いを扶助する義務が生まれます。これを「生活保持義務」といいます。
この生活保持義務に基づいて、収入の少ない配偶者は、収入の多い配偶者に対して婚姻費用を請求できるわけです。
婚姻費用の分担は法律で定められた夫婦間の義務です。
そのため、夫婦仲が悪化しても、一方が家を出ていって別居状態になっても、夫婦である間は婚姻費用を相手に請求することができます。 -
(2)婚姻費用と養育費の違い
婚姻費用と似た用語として、「養育費」があります。
婚姻費用も養育費も、収入が多いほうの配偶者から収入が少ないほうの配偶者に支払われるという点では共通しています。
ただし、養育費とは、「離婚が成立してから未成熟の子どもを育てるための費用」です。結婚している間には問題になりません。
一方で、婚姻費用とは、離婚が成立するまでに一方配偶者が相手に対して払う生活費のことです。夫婦間に未成熟の子どもがいる場合は、婚姻費用の中に子どもを育てるための養育費も含まれています。 -
(3)婚姻費用を請求するための条件
- ① 離婚が成立していないこと
婚姻費用は、あくまで結婚している夫婦間での扶養義務を根拠とするものです。 したがって、離婚が成立してしまうと、婚姻費用を請求する根拠がなくなってしまいます。 - ② (子どもがいない場合)自分よりも相手の収入が高いこと
婚姻費用は、収入の高い配偶者から収入の低い配偶者に対して支払われるものです。
したがって、自分一人の婚姻費用を請求するためには、自分よりも相手の収入の方が高いことが条件となります。
- ① 離婚が成立していないこと
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(4)婚姻費用を請求できないケース
結婚していて、相手の収入の方が高い場合でも、婚姻費用を請求できない場合があります。それは、別居や家庭内別居の原因が、もっぱら自分のほうにある場合です。
たとえば、自分が不倫をしてしまい、それによってもともと円満だった夫婦が不仲となったような場合には、相手に婚姻費用を請求するのは不当であるといえます。
そのよう場合には、たとえ離婚が成立しておらず、相手より収入が低くても、婚姻費用分担請求は認められないか、仮に認められたとしても、大幅に減額される可能性が高いのです。
ただし、夫婦間に未成熟の子がいる場合、その婚姻費用には養育費も含まれています。養育費の部分は親の行動の善しあしとは無関係です。
したがって、子どもを自分が育てている場合は、婚姻費用のうち子どもの養育費にあたる部分だけは、自分に非があっても請求することが可能です。
2、同居していると婚姻費用は請求できない?
婚姻費用の請求が問題となるのは、別居を開始した場合であることが一般的です。
別居に伴い住居費や光熱費などが一から必要になるため、生活費の負担に関する問題が表面化しやすいからです。
しかし、同居していても配偶者が生活費を払わなくなれば、専業主婦と子どもの生活はたちまち困窮します。そのため、同居しているか否かは、婚姻費用請求の必要条件ではありません。
同居中であっても、収入の多い配偶者がきちんと生活費を払ってくれなければ、婚姻費用を請求することが可能です。
お問い合わせください。
3、婚姻費用の算出方法
婚姻費用には、目安となる基準額があります。
しかし、その基準額にしばられる必要はなく、原則としては夫婦の話し合いで自由に決めることができます。
二人で合意さえできれば、金額がいくらであっても問題ない、ということです。
具体的な婚姻費用を算出する際には、全国で統一的に使われている「婚姻費用算定基準」を用いることになります。
4、婚姻費用で合意できない場合の対処法
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(1)婚姻費用はまず話し合い
婚姻費用は夫婦間で話し合って決めるのが原則です。
しかし、不仲となった夫婦でお金についての話し合いをするのは簡単なことではありません。特に、家庭内別居状態ともなると、お互いが時間をとって話し合いをすること自体が難しいこともあるでしょう。
また、思いきって話を切り出して、なんとか婚姻費用の支払合意が得られても、相手が急に支払いを止めてしまう場合もあります。
上述した例のように、夫婦間の話し合いでは問題を解決できない場合には、家庭裁判所の「婚姻費用分担調停」制度を利用することができます。 -
(2)婚姻費用分担調停
婚姻費用分担調停とは、家庭裁判所で当事者が話し合うための法的な手続きです。
男女1名ずつの調停委員と呼ばれる人が当事者それぞれの言い分を聞き、調整を進めます。この際、原則として、夫婦は相手と顔を合わせることなく、話し合いを進めることができます。
夫婦の双方が婚姻費用の金額や支払い方法について納得すれば調停は成立となり終了します。
調停で決まった内容は、「調停調書」という書面にまとめられます。調停調書には強制執行力があるため、相手が調停調書のとおりに支払いをしなければ、給料や預貯金などを差し押さえることができます。
ただし、調停はあくまで裁判所を通した話し合いの場ですので、双方が金額に納得しなければ成立しません。
また、そもそも相手に調停に出席しない可能性もあります。出席しなければ調停は進めることができず、そのまま不成立となります。 -
(3)婚姻費用の審判
調停が不成立となった場合は、自動的に婚姻費用の審判手続きへと移行します。
審判では、調停手続きで提出された夫婦双方の収入や家庭の状況などを考慮したうえで、裁判官が具体的な金額と支払い方法について判断が下されます。
審判の内容に納得がいかなければ、夫婦のどちらからでも異議を申し立てることができます。これを「即時抗告」といいます。
即時抗告は、審判を受け取った日の翌日から2週間以内に行う必要があります。この期間に当事者のいずれからも即時抗告がなされなければ、審判が確定して、争うことができなくなります。
婚姻費用の審判にも調停調書と同様の効果があり、強制執行が可能です。
5、まとめ
たとえ夫婦が同居していても、夫婦が不仲になり、夫が生活費を払わなくなることがあります。
離婚するかどうかはゆっくり考えて決めればよいことですが、婚姻費用の問題は生活に直接関わるため、後回しにすることはできません。専業主婦の場合には、その日の食費や住居費にも困ってしまう可能性があるでしょう。
離婚を検討中で、婚姻費用について不安がある方は、請求の方法や請求できる金額について準備を整えておくため、早めに弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所では、同居中の夫婦の婚姻費用請求の問題についてもご相談を承っております。不安がある方は、お気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています