財産分与:相手に「財産を使ってしまった」と言われたときの対応は?

2024年09月26日
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財産分与:相手に「財産を使ってしまった」と言われたときの対応は?

千葉県船橋市では、離婚するご夫婦はたくさんおられます。
船橋における離婚件数は、徐々に増加しつづけています。平成5年には743件だったものが、平成25年には1,065件となりました。そして、令和5年には1270件まで増加したのです。
船橋市にお住まいの方々にとって、離婚は非常に身近な問題と言えるでしょう。

離婚においては、夫婦が共有する財産を分ける「財産分与」が重要となります。
しかし、相手に財産分与を請求したら、「使ってしまった」と言われるケースも少なくないのです。
相手が使いこんでしまった場合、その分の財産を請求することはできなくなるのでしょうか?

本コラムでは、相手から「財産を使ってしまった」と言われたときに取るべき対応について、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説いたします。


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1、財産分与請求できる財産の範囲

離婚をする際には、夫婦で共有している財産(夫婦共有財産)について「財産分与」を請求することができます。

  1. (1)そもそも財産分与とは

    財産分与とは、離婚時に夫婦の財産を清算することを意味します
    日本では夫婦の財産は各々に帰属する夫婦別産制が採られていることから、夫名義の財産が妻名義の財産を上回るなど、夫婦間に経済的格差が生じてしまうため、離婚に際し、このような格差の調整のため、一方の財産を他方に給付する必要があります。このため、財産分与請求権が離婚を行う当事者に認められているのです。

  2. (2)財産分与の対象になるもの

    財産分与の対象になるものとは、夫婦が婚姻中に協力して形成した財産です。
    具体的には、以下のようなものが対象となります。
    なお、共有名義の財産だけでなく、夫婦のどちらか片方の名義が使われている財産であっても、財産分与の対象となるのです。

    • 預貯金、現金、社内積み立て
    • 生命保険、火災保険などの保険(ただし積み立て式のもの)
    • 不動産(住宅ローンがアンダーローンである場合)
    • 株式や債券などの有価証券
    • 投資信託
    • 仮想通貨
    • ゴルフ会員権
    • 貴金属、時計などの動産
    • 出資金
    • 積立金
    • 退職金
  3. (3)退職金が財産分与の対象になる場合とは?

    退職金は離婚の時点で支給されているとは限りません。むしろ、離婚から年数が経ったのちに支払われる予定である、という場合の方が多いでしょう。
    将来に支給される予定の退職金は、財産分与対象になる場合とならない場合があります。
    退職金を財産分与対象にするためには、退職金が支給される蓋然(がいぜん)性が高いことが必要となります。

    退職金がすでに支給されている場合には、その退職金が振り込まれた預貯金や出金した現金、退職金を使って購入した不動産や株式などが財産分与対象になります

  4. (4)「使ってしまった」と言われやすい財産

    財産分与の対象となる財産であっても、財産分与を請求したときに相手から「使ってしまった」と言われる場合があります。
    特に「使ってしまった」と言われやすい財産の例が、以下のようなものです。

    • 相手名義の預貯金
    • 相手名義口座に振り込まれた退職金
    • 相手名義の生命保険
    • 相手名義の子どもの学資保険
    • 不動産


    特に預貯金は、勝手に使われてしまいやすい夫婦共有財産の代表と言えます。
    また、生命保険を勝手に解約されて解約返戻金を使いこまれる場合も少なくありません。そのほかにも、不動産が相手名義である場合には、勝手に売却されていたという事例があるのです。

2、「使ってしまった」と言われても財産分与請求できる

もしも相手が預貯金や退職金などの資産を使ってしまっていた場合にも、財産分与を請求することはできます。

  1. (1)別居後に「使ってしまった」と言われた場合

    財産分与請求をしたときに、相手から「使ってしまった」と言われる事例の多くは、「別居後の使いこみ」です。
    同居をしているときには、相手が財産を勝手に使おうとしても、事前に不審な行動を察知して止めることができるでしょう。
    しかし、別居をすると相手の行動がわからなくなるので、相手が使いこみをしやすくなってしまうのです。

    別居後に「使ってしまった」と言われた場合であっても、たとえば預金であれば「使いこみ前」の金額を基準にして、財産分与を求めることができます
    財産分与の基準となるタイミング(基準時)については、状況によって、以下のようになります。

    ●離婚まで別居しなかった場合には離婚時
    離婚するまで同居していた場合には、離婚時に存在した財産を基準にして、財産分与を行います。

    ●離婚前に別居した場合には別居時
    離婚の前から別居した場合には、別居時に存在していた財産を基準に財産分与をします。別居をした時点で夫婦の家計は別々になり、夫婦が共有財産を積み立てる状態ではなくなる、と見なされるためです。

    したがって、別居後に相手に財産を使われてしまった場合でも、使われてしまった分を無視して、「別居時に存在した財産」を基準に財産分与を行うことができるのです。

  2. (2)別居前に「使ってしまった」と言われた場合

    別居をする前、つまり同居中に財産を「使ってしまった」と言われた場合には、財産分与を請求することが難しくなります。
    別居をしなかった場合、基本的には「離婚時に存在した財産」を基準にして、財産分与を行うことになります。

    ただし、同居中の相手が「使ってしまったからもうない」と主張した場合であっても、実際には使っていない財産を隠している場合があります。そんなときには、財産を開示させて、財産分与対象にできる可能性があるのです。
    このとき、相手が隠している財産を調査する必要性が生じます

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3、隠し財産の調査方法

相手が「使ってしまった」と言いながら隠している財産を調査する方法について、解説いたします。

  1. (1)財産が保有されている金融機関や証券会社、保険会社の確認

    まずは、どこの金融機関で預貯金を保有しているのか、どこの証券会社と取引しているのか、どこの保険会社で保険契約を締結しているのかを確認することから開始しましょう。
    これらの会社から郵便物が届いていないかも確認すると良いでしょう。
    不動産の場合には、「登記事項証明書」を入手することで、状況が確認できます。登記事項証明書は、法務局で取得することが可能です。

  2. (2)弁護士照会

    相手が財産を保有している金融機関や証券会社、保険会社などが明らかになれば、弁護士に依頼して「弁護士照会」を行うことができます。
    弁護士照会とは、弁護士が弁護士法23条の2にもとづいて情報照会する手続きとなります。
    弁護士照会を行えば、金融機関や証券会社などの民間業者に、法律にもとづいた回答を求めることができます。また、照会された機関には回答義務が課されるのです。
    これにより、相手はどのような資産を持っているのか、すでに契約が解約されていないか、どこの口座へ送金されたのか、などの詳細を明らかにできる可能性があるのです。
    ただし、弁護士照会は、相手が解約をする前に行わなければいけません。
    そのため、できるだけ早く、弁護士に依頼しましょう。

  3. (3)調査嘱託

    先述した通り、弁護士照会をされた機関には回答の義務が課されます。
    しかし、実は、弁護士照会の回答を拒否することに対する罰則はないのです。
    そのため、利用者の個人情報保護などを理由にして、回答を拒絶されてしまう場合もあります。

    もし回答を拒否されてしまった場合には、裁判所に「調査嘱託」を申し立てましょう
    調査嘱託とは、各種の機関に対して、裁判所から情報を照会する制度です。
    裁判所は、トラブルの当事者から調査嘱託を求められたときに、必要か不要かを判断します。そして、必要であると判断され場合に、裁判所から金融機関や証券会社などへ情報照会が行われるのです。
    弁護士照会には回答しない機関であっても、大半の場合、裁判所からの照会には回答を行います。

    ただし、裁判所に調査嘱託を採用してもらうためには、「情報照会が必要である」ことを説明しなければいけません。
    また、「日本中のすべての金融機関へ照会してください」といった要望をしても、嘱託調査は認められません。そのため、照会先の金融機関や証券会社を特定することが、必要となるのです。

    後日に調査嘱託をすることを想定すると、「相手名義の資産はどこにあるのか」を事前に把握しておくことは、財産分与において非常に重要なこととなるのです。

4、財産の使いこみを防ぐため、弁護士に相談するメリット

離婚の際に、相手が財産を使ってしまっていたら、場合によっては取り戻せないことがあります。また、取り戻せる場合であっても、大変な手間がかかります。
離婚を検討されている方は、早い段階から弁護士に相談することによって、相手による財産の使いこみを防ぐことができます。

  1. (1)弁護士から警告を行う

    離婚案件を弁護士に依頼すると、弁護士は相手方へ「受任通知」を発送します。それ以後は弁護士が依頼者の代理人となり、相手が連絡や交渉を行う相手も弁護士になるのです。
    また、受任通知は、通常は「内容証明郵便」で発送されます。そして、自宅のポストに内容証明が届くだけでも、多くの人は、強いプレッシャーを感じるものなのです
    さらに、受任通知に「夫婦共有財産は財産分与の対象になるので使いこみは許されない」という警告を付記することで、相手に対するプレッシャーをさらに与えることができます。ここまですれば、多くの人は、財産を勝手に使うことをためらうでしょう。
    そして、もし相手が「財産を使ってしまった」と言ってきた場合にも、事前に警告を行っていたことで、責任の追及が容易になるのです。

  2. (2)仮差押によって財産を凍結できる

    相手による財産の使いこみが心配な場合、弁護士を通じて、財産の「仮差押」をすることができます。
    仮差押をすると、相手は財産を自由に使えなくなるのです。
    退職金の支給前に仮差押をしておけば、離婚に関する紛争が解決されるまで、退職金が相手に支払われることはありません。預貯金口座や証券口座も凍結することができ、生命保険も解約できない状態になるのです
    早期に仮差押をしておけば、「財産を使ってしまったから残っていない」などと言われる心配はなくなるでしょう。

  3. (3)財産調査が容易になる

    相手による財産の使いこみや財産の隠匿が疑われる場合でも、「個人情報の保護」という壁があるため、当事者が自分で調査することは困難です。
    弁護士に依頼すれば、財産調査が容易になります。さらに、弁護士照会を利用したり訴訟提起後に職権調査嘱託を申し立てたりすることで、相手の隠し財産を明らかにすることができるのです

5、財産分与に関して弁護士に相談すべき場合とは?

以下のような場合には、なるべく早めに弁護士に相談しましょう。

  • なるべくたくさんの財産分与を受けたい
  • 相手が財産を使いこむおそれがあるので、止めたい
  • 相手から「財産を使ってしまった」と言われた
  • 相手の隠し財産を調査してほしい
  • 相手を信用できない


適切な財産分与を行うためには、財産を使いこまれてしまう前に、お早めに弁護士に相談することが重要になるのです。

6、まとめ

離婚するときには、財産分与や慰謝料をはじめとして、様々(さまざま)な問題が発生します。
婚姻生活において自宅を購入した際には、妻が夫名義の住宅ローン保証人になっている可能性もあるでしょう。そのような場合には、適切に対応しないと離婚後に妻へ重い負担が及ぶおそれがあるのです。
相手による財産の使いこみを防止して、離婚を有利に進めるためには、弁護士によるサポートが欠かせません
離婚の財産分与でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスにまで、ぜひご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています