偽計業務妨害罪の構成要件|ほかの業務妨害罪との違いや罰則を解説
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令和5年5月1日、同年4月の船橋市議選に無所属で立候補していた女性が インターネット上に「船橋駅構内にサリンをばらまきます」などとうその書き込みをして警察の業務を妨害したとして、計業務妨害の疑いで逮捕されました。
インターネット上に犯罪予告を投稿した場合のほかにも、存在しない事件について警察にうその通報をした場合、飲食店にいたずらで大量の注文をしたり商店や病院などの施設に何度も無言電話したりした場合などにも、偽計業務妨害の構成要件を満たして成立する可能性があります。
本コラムでは、偽計業務妨害罪の構成要件や具体的にどのような場合に偽計業務妨害が立証されるか、刑罰やほかの業務妨害罪との違い、逮捕された場合の流れなどについて、べリーベスト法律事務所船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、偽計業務妨害罪とは|法的根拠とほかの業務妨害罪との違い
まず、偽計業務妨害罪とはどのような犯罪であり、どんな場合に適用されるのか、概要を解説いたします。
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(1)偽計業務妨害罪の法的根拠
偽計業務妨害罪は、刑法第233条に規定されている犯罪です。
【第233条】
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
虚偽の風説や偽計などの手段で「業務を妨害した」場合には、偽計業務妨害が適用されるのです。
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(2)偽計業務妨害罪が適用される典型的なケース
偽計業務妨害罪が適用される典型的なケースは、下記の通りです。
- 飲食店などに対してたびたび無言電話を繰り返す行為
- インターネット上で犯罪を予告して施設や会場の警備を強化させる行為
- 特定の会社などについて虚偽の内容で誹謗中傷をする行為
- 勤務先の店内で不衛生ないたずらをして動画などで拡散するなど、いわゆる「バイトテロ」行為
ここで挙げたのは、日常のなかで「いたずら目的」や「いやがらせ目的」として犯しやすい形態です。
また、過去の判例をみると、次のような事例でも偽計業務妨害罪が成立しております。
- 【昭和58(あ)612 最高裁 有線電機通信法違反、業務妨害、各同教唆】
電話回線の度数計器を作動させるための応答信号を妨げる機器を取り付けて、通話料金の課金を妨害する行為 - 【平成18(あ)2664 最高裁 建造物侵入、業務妨害被告事件】
金融機関のATMにカード情報を盗撮するカメラを設置する目的で、長時間にわたってATMコーナーを占拠してほかの客が利用できなくする行為
刑法は明治40年に公布された非常に古い法律であるため、各犯罪が規定されたころには想定しなかったような行為でも処罰の対象となることがあります。
したがって、典型的な事例はもちろん、これまでにない行為に偽計業務妨害罪が新たに成立する可能性もあるのです。 -
(3)ほかの業務妨害罪との違い
偽計業務妨害罪に類似する犯罪として、威力業務妨害罪や信用毀損罪などがあります。
- 威力業務妨害罪(刑法第234条)
威力を用いて人の業務を妨害した者を罰する犯罪です。ここでいう威力とは、「犯人の威勢、人数及び四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力」とされます。 - 信用毀損罪(刑法第233条)
偽計業務妨害罪と同じ罰条に規定されているのが信用毀損罪です。対象となるのは「人の信用を毀損すること」であり、他人の経済的な信用力を貶める行為が罰せられます。
また、業務妨害の対象が公務である場合には、刑法第95条の公務執行妨害罪が成立する可能性があります。
公務執行妨害罪とは、公務員の職務執行に対して暴行・脅迫を加えたものを罰する犯罪です。 - 威力業務妨害罪(刑法第234条)
2、偽計業務妨害の構成要件
偽計業務妨害罪が成立するための要件は、「虚偽の風説を流布、または偽計を用いること」と「人の業務を妨害すること」です。
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(1)虚偽の風説を流布すること
客観的な事実に反する内容や噂を世間に広める行為を指します。
流布の方法には、口頭や文書などのほか、インターネット上の書き込みなども含まれます。 -
(2)偽計を用いること
人を欺き、誘惑して、または他人の無知や錯誤を利用することを「偽計を用いる」といいます。
必ずしも人に対するはたらきかけが必要であるわけではなく、たとえば貼り紙や広告、不特定多数が閲覧するSNSへの投稿などの方法も、偽計となることがあるのです。 -
(3)人の業務を妨害すること
人や法人などの団体が、社会生活上の地位に基づいて反復・継続して従事する事務を妨害することです。
また、実際に業務妨害の結果が生じた場合はのみならず、結果として業務が妨害されなかった場合でも、「妨害される危険があった」のであれば業務妨害罪は成立し得ます。
3、偽計業務妨害の罰則
偽計業務妨害罪には、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
なお、威力業務妨害罪・信用毀損罪の罰則も同じく3年以下の懲役または50万円以下の罰金であるほか、公務執行妨害罪も3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金であり、ほぼ同等です。
実際の刑事裁判では、法定刑の範囲内で量刑が言い渡されます。
実刑となり刑務所に収監されるのか、執行猶予がついて社会生活のなかで更正を目指すことになるのか、あるいは罰金の徴収で済ませるのかは裁判官の判断によって決まります。
行為の悪質性や計画性、本人の反省、被害者の処罰意思などを総合的に判断したうえで、量刑が言い渡されることになるのです。
4、警察に逮捕された場合の流れ
偽計業務妨害罪の被疑者として特定されると、逃亡や証拠隠滅を防止するために逮捕されることがあります。
警察に逮捕されてから裁判を受けるまでの刑事手続きの流れを解説いたします。
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(1)逮捕・勾留によって身柄を拘束される
偽計業務妨害の容疑で逮捕されると、逮捕が執行された時点で行動の自由が大幅に制限されてしまいます。
自宅に帰ることも会社や学校へと通うことも許されず、携帯電話やスマートフォンを使って連絡することも認められなくなるのです。
警察に逮捕されると、まず警察署の留置場に身柄を置かれ、警察官による取り調べを受けます。
取り調べの後、逮捕から48時間以内に検察官へと送致されて、そこでもさらに検察官による取り調べが実施されますが、逮捕から2日程度しか経過していない段階で取り調べや捜査が尽くされていないので、起訴・不起訴を判断するための材料が不足しています。
そこで、検察官は、裁判官に対して身柄拘束の延長を求めます。
この手続きを「勾留請求」といいます。
勾留が認められると、原則10日間、勾留延長によって、一定の犯罪を除き、最長20日間までの身柄拘束が続きます。
逮捕から数えると、最長23日間の身柄拘束を受けることになるため、会社・学校などの社会生活に深刻な影響が及ぼされる可能性が高いのです。 -
(2)検察官の起訴によって刑事裁判にかけられる
勾留が満期を迎える日までに、検察官は起訴・不起訴の最終判断を下します。
検察官が起訴すると、これまでの被疑者としての立場は被告人へと変わり、刑事裁判への出廷を確保するために「被告人としての勾留」を受けます。
その後は、起訴から1~2か月後に初公判が開かれます。
刑事裁判が結審した後、判決が言い渡されますが、その間、保釈が認められない限りは被告人としての勾留が続くため、逮捕から数か月にわたる身柄拘束を受けることになるでしょう。
一方で、不起訴となれば刑事裁判は開かれません。
不起訴となった段階で釈放となり、刑罰を受けることも、前科がついてしまうこともなく、社会生活への復帰を目指すことが可能です。 -
(3)逮捕・刑罰の回避には弁護士のサポートが必須
ほんのいたずらやいやがらせなどの目的でも、偽計業務妨害罪にあたる行為があると逮捕され、厳しい刑罰が科せられるおそれがあります。
逮捕・刑罰を回避するには、容疑をかけられてしまった時点でただちに弁護士に相談してサポートを求めるのが最善といえます。
警察が逮捕に踏み切るまでに被害者への謝罪や発生した損害の弁済を尽くし、被害届や告訴の取り下げが実現すれば、逮捕による身柄拘束を回避できる可能性があります。
また、悪質性がなく本人が深く反省していること、被害者との示談交渉が成立していることなどを主張すれば、検察官が起訴に踏み切る事態や厳しい刑罰を回避することが期待できるのです。
警察に逮捕されてしまうと、起訴までに最長23日間の身柄拘束を受けます。
身柄拘束が長引けば社会復帰が難しくなってしまうため、弁護士に依頼して早期釈放に向けた弁護活動を依頼するのが得策です。
5、まとめ
偽計業務妨害罪は、虚偽の噂を流したり他人を欺いたりする方法で、人の業務を妨害する犯罪です。
いたずら通報なども偽計業務妨害罪が成立し、逮捕・刑罰を受ける可能性があります。
もし偽計業務妨害罪にあたる行為があれば、まず素直に被害者に事実を明かして謝罪しなければなりません。
警察に逮捕されてしまった場合も、やはり被害者との示談交渉を尽くして厳しい刑罰を回避する必要があります。
偽計業務妨害罪の疑いをかけられてしまい、逮捕や厳しい刑罰の回避を望むのであれば、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスにお任せください。逮捕・刑罰の回避を目指して、全力でサポートします。
もしいたずらなどの目的で偽計業務妨害罪にあたる行為をはたらいてしまった場合でも、逮捕の可能性や解決方法についてのアドバイスが可能です。
最大限に穏便な解決を目指すなら、まずはベリーベスト法律事務所 船橋オフィスにまでご相談ください。
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