運送業の残業時間に上限はある? 2024年から適用される規定について解説

2023年08月15日
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運送業の残業時間に上限はある? 2024年から適用される規定について解説

船橋市が公表している統計資料によると、平成28年における船橋市内の「運輸業、郵便業」の事業所数は、433事業所でした。また、同事業所における従業者数は1万5722人でした。

運送業は慢性的なドライバー不足や高齢化に悩まされており、一人あたりの労働者の負担が大きくなってきています。その結果、残業時間も長くなる傾向にあるため、長時間労働を強いられている労働者の方も多くいらっしゃいます。

しかし、2024年4月からは運送業に対しても罰則付きの残業時間の上限規制が適用されることになるため、労働環境は大きく改善されることになるでしょう。本コラムでは、運送業の残業時間の上限規制について、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、一般的な業界では残業時間に上限規制がされている理由

まず、一般的な業界における残業時間の上限規制について解説します。

  1. (1)残業時間の上限規制の内容

    労働基準法では、1日8時間および1週40時間という法定労働時間が定められています。法定労働時間を超えて労働者に時間外労働を命じるためには、36協定の締結をし、それを所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。

    36協定の締結や届け出により、企業は労働者に時間外労働を行わせることが可能になりますが、残業時間の上限も月45時間・年360時間と定められています
    また、臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付きの36協定を締結することにより、以下の範囲内で残業させることが可能になるのです。

    • 時間外労働が年720時間以内
    • 時間外労働および休日労働の合計が月100時間未満
    • 時間外労働と休日労働の合計が2~6か月平均で1月あたり80時間以内
    • 時間外労働が月45時間を超えるのは年6か月まで


    上記の残業時間の上限規制に違反した企業の経営者などには、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

  2. (2)残業時間に上限規制が設けられた理由

    残業時間に上限規制が設けられた理由は、長時間労働を抑制して、ワークライフバランスの改善を図るという点にあります。

    長時間労働が常態化すると、さまざまな健康被害のリスクが高まり、最悪のケースでは過労死を引き起こすこともあります
    長時間労働による過労死が社会問題となっていることを受け、働き方改革により、罰則付きの残業時間の上限規制が設けられることになったのです。

2、2023年までは運送業に残業時間の上限規制はない

以下では、運送業における残業時間の上限規制について解説します。

  1. (1)現状の運送業への残業時間の規制の有無

    一般的な業界では、上記のような残業時間の上限規制が適用されています。
    しかし、2023年(令和5年)の時点では、運送業に対して罰則付きの残業時間の上限規制は適用されていません

    そのため、運送業で働く労働者は、事実上、無制限で残業を命じられる可能性があります。現行法を前提としても⼤臣告示による残業時間の上限はありますが、違反したとしても行政指導の対象になるのみで強制力はありません。

  2. (2)残業時間の上限規制の適用が猶予されている理由

    運送業への残業時間の上限規制は、後述するように2024年(令和6年)4月から適用されます。一般的な業種ではすでに残業時間の上限規制が適用されていますが、運送業に関しては、一定期間適用が猶予されている状態です。

    適用が猶予されている大きな要因は、運送業界の労働環境の特殊性です。
    運送業界は、他業種に比べて時間外労働や休日労働が多いため、すぐに残業時間の上限規制を適用してしまうと、業界全体に深刻な影響が生じるおそれがあります。
    また、残業時間の上限規制が適用されると労働者一人あたりの労働時間を減らさなければなりませんが、運送業は深刻な人手不足に悩まされているために、労働時間の短縮をすぐに実現することは困難です。

    このように運送業界では労働環境を改善するために多くの時間が必要であると考えられることから、2024年4月まで残業時間の上限規制が猶予されることになったのです

3、2024年からは運送業でも残業時間の上限規制がされる

現在では残業時間の上限規制の適用が猶予されている運送業にも、2024年からは残業時間の上限規制が適用されます。

  1. (1)運送業に適用される残業時間の上限規制

    運送業に適用される残業時間の上限規制は、一般的な業種に適用される上限規制の内容とは異なる点に注意が必要です

    運送業では、特別条項付き36協定を締結することで、年960時間までの上限規制付きの残業が認められます。
    しかし、一般的な業種に適用されている、時間外労働と休日労働の合計が「月100時間未満」、「2~6か月平均80時間以内」という規制は適用されません。
    また、「時間外労働が月45時間を超えられるのは年6か月まで」という規制も適用されないのです。

    上記のように運送業の残業時間の上限規制は年960時間であるため、目安としては1か月平均80時間の残業時間となります。
    しかし、1か月の残業時間の上限規制は設けられていないため、ある月の残業時間が100時間を超えていたとしても、他の月の残業時間を調整することで上限規制違反を回避することができるのです。

  2. (2)月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引き上げ

    運送業界に特有のものではありませんが、2023年4月1日から月60時間超の時間外労働の割増賃金率が引き上げられます。

    大企業に関してはすでに適用されていますが、中小企業は2023年3月31日まで適用が猶予されており、月60時間超の時間外労働に対しては、25%以上の割増率が適用されていました。
    しかし、2023年4月1日からは大企業と同様に、月60時間超の時間外労働に対しては50%以上の割増率が適用されます。
    これにより、運送業で働かれる労働者の方が受け取ることができる残業代についても、これまでより増えることが期待できるでしょう

4、運送業で残業代が未払いになりやすい理由

以下では、運送業の残業が未払いになりやすい理由を解説します。

  1. (1)労働時間が長時間になりやすい

    運送業は、他の業種に比べて労働時間が長時間になりやすい傾向にあります。
    労働時間が長時間になる背景には、「渋滞の予測が難しい」「積み下ろしの順番待ちの時間(荷待ち時間)がある」「慢性的な労働力不足により一人あたりの負担が大きい」など、さまざまな要因が存在します。

    労働時間が長時間になりやすいということは残業代が発生しやすいということでもありますが、同時に、残業代の未払いが生じやすいという問題も存在しているのです

  2. (2)労務管理が適正になされていない

    運送業界は、慢性的な人手不足に悩まされています。
    人手不足は、荷物を運搬するトラックドライバーだけでなく、労務管理を行う労働者についても起こっています。

    人手不足により勤怠管理がおろそかになってしまったり、賃金規程の整備が不十分になっていたりする会社では、残業をしたとしても適正な残業代が支払われていない可能性が高いでしょう

  3. (3)固定残業代制度を採用している会社が多い

    運送業では、実際の残業時間にかかわらず一定の残業代を支払うという固定残業代制度を採用している会社が多くあります。
    しかし、固定残業代制度は、あくまで「一定時間分の残業を想定して、定額の残業代を支払う」という制度であり、固定残業代以外の残業代の支払いが不要になるというわけではありません。
    あらかじめ想定していた残業時間を超えて働いた場合には、固定残業代とは別途、残業時間に応じた残業代が支払われなければならないのです。

    固定残業代制度を誤って運用している会社では、未払いの残業代が発生することになります

5、残業代を請求するなら弁護士に相談

運送業では、慢性的な長時間労働や人手不足、固定残業代制度の採用などの理由から、未払いの残業代が発生していることが多くあります。

また、運送業ではタコグラフなどにより実際の労働時間を明確に示しやすいため、他の業種に比べて実際の労働時間を立証するための客観的証拠を入手しやすいという特徴もあります。
したがって、働者が適切な手続きで権利を行使すれば、未払いの残業代の支払いが認められる可能性は高いでしょう。
ただし、未払いの残業代を請求するにあたっては、会社との交渉や労働審判、裁判などの手続きが必要になり、法的な専門知識も必要になってきます。
また、未払いの残業代の請求には3年という期限がありますので、請求するなら早めに行動をする必要があります。

企業に対して未払いの残業代を請求することを検討されている方は、適切かつ確実に手続きを進めるために、まずは専門家である弁護士に相談しましょう

6、まとめ

運送業では、残業時間の上限規制の適用が猶予されていますが、2024年4月1日から年960時間までという上限規制が罰則付きで適用されます。
これにより、運送業で働く方の労働環境は大きく変化することになるでしょう。

また、運送業では人手不足に伴い慢性的な長時間労働が常態化しているため、未払いの残業代が発生している可能性は高いといえます。
ご自身の残業代が未払いであり、会社に対して請求することを検討されている労働者の方は、会社との交渉や法的な続きを適切に進めるために、弁護士に相談することが大切です

運送会社に対する未払いの残業代請求をお考えの方は、まずは、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています