固定給やみなし残業代制度であっても、残業代が請求できる場合を解説

2020年06月30日
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固定給やみなし残業代制度であっても、残業代が請求できる場合を解説

2019年、千葉県企業局(旧千葉県水道局)は、職員500人に合計で約3850万円の残業代未払いがあったと発表しました。この事実は千葉労働基準監督署の立ち入り調査によって発覚したもので、職員500人の残業時間に計1万4046時間ものずれがあったと指摘されています。

労働者が残業代を請求する権利は、労働基準法などによって規定されています。しかし中には、「当社は固定給制度を採用しているので、いくら長時間残業をしても残業代は出ない」などと、残業代を支払わない会社もあります。このような対応は違法にあたるのではないかと、疑問を感じる方もいらっしゃるでしょう。

そこで今回のコラムでは、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が、固定給とは何か、固定給でも残業代を請求できるケースはあるのか、について解説します。

1、固定給とはどんなしくみか

固定給とは、成績に関係なく、一定時間働いた場合に決められた額の給与が支払われる給与形態です。固定給の計算方法は、一般に給与のベースとなる基本給と各種手当を足した金額です。

  1. (1)固定残業代制度とは

    固定給で残業代が支払われるかどうかは、企業が、残業(時間外労働)に対する支払い方をどのように定めているかによります。固定残業代制度は、みなし残業制とも呼ばれており、その名の通り、あらかじめ一定時間の残業をしたものとみなし、固定された額の残業代を基本給に含めて支払う制度です。
    したがって、固定給かつ固定残業代制度を導入している場合には、一定時間内の残業であれば、残業代は支払われません。

  2. (2)固定残業代制度の条件

    なお、固定残業代制度が有効となるためには以下の条件を満たさなければなりません。

    • 割増賃金として支払われていることについて、企業と従業員とが合意していること
    • 通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することが出来ること


    会社によっては、固定残業代制度であるとしながらも、「固定残業時間数」が就業規則や雇用契約書に明記されていなかったり、固定残業代の金額が明記されていない場合があり、このような場合は、固定残業代制度は無効となり得ます。

2、固定残業代制で残業代請求はできるか?

固定給かつ固定残業代制度でも、残業代を請求できる場合とできない場合があります。それぞれのケースについて説明しますので、該当するかどうか確認しておきましょう。

  1. (1)残業代が請求できるケース

    まずは、未払い残業代を請求できる場合について解説します。

    ●そもそも有効な固定残業代制度になっていない
    固定給というだけで、固定残業代制度が有効となる条件を満たしていない場合は、残業代を請求することができます。就業規則などに固定残業時間について明確な記載がない場合や、そもそも就業規則などを労働者に公開していない場合は、固定給制度自体が無効であるケースが多いでしょう。

    ●固定残業時間を超えている
    就業規則に定められた固定残業時間を超過しているなら、会社に対して未払い分の残業代を請求することが可能です。たとえば固定残業時間が20時間と規定されていて、実残業時間が25時間なら5時間分の残業代を請求できます。

    なお、企業が従業員との間に36協定(時間外・休日労働に関する協定届)を結び、労働基準監督署に届け出ていれば法定労働時間を超えて労働を課すことができます。法定労働時間とは、労働基準法第32条において、1日8時間・週40時間を超えて労働させてはならないと規定されている労働時間のことをいます。
    ただし、この36協定にも労働時間の上限がありますので、この上限を超えていれば残業代請求が可能です。

    会社との労働契約がどのようになっているのかわからない場合は、まずは気軽に弁護士に相談してみることをおすすめします。

  2. (2)残業代が請求できないケース

    次に残業代請求ができない場合を解説します。

    ●事業場外みなし労働時間制の場合
    外回り営業を単独でするセールスマンなど、管理監督者がそばにおらず、労働の実態が把握しにくい場合、あらかじめ労働時間を一定にみなすことを労働基準法で認められています。これを事業場外みなし労働時間制といいます。しかし、事業場外みなし労働は簡単には認められないものであり、会社が事業場外みなし労働であると主張しても、未払い残業代を請求できる可能性あります。

    ●裁量労働制の場合
    裁量労働制とは、新技術の研究職や放送番組のプロデューサー、弁護士や公認会計士など、法律で定められた19の職種において導入できる制度です。事業場外みなし労働時間制と同様、あらかじめ企業が労働時間を一定にみなすことが認められています。
    ただし裁量労働制であっても、法定労働時間を超えている、休日出勤や深夜勤務をした、といった場合は残業代や割増賃金を請求できる可能性があります。

    ●残業代請求の時効をすぎている場合
    2020年4月1日から、残業代請求の消滅時効が3年になりました。この時効期間をすぎると未払い残業代があっても請求できなくなります。なお、2020年3月までに発生した残業代請求権の時効期間は2年となるので注意が必要です。

    また、未払い残業代の請求をすると、時効期間を最長6か月一時的にストップ(時効の完成猶予)することができます。さらに、時効が近づいていたとしても、訴訟を提起したり、会社が支払いを認めたりすれば、時効を更新することができます。訴訟によって更新した場合、時効は10年間の延長となります。

3、残業代請求の手順

未払い残業代がある場合、その請求手続きは次の手順で行います。ただし、一般には煩雑な手続きもあるため、弁護士を頼るケースも少なくありません。

  1. (1)証拠を集める

    まずは、労働契約の内容や、法定労働時間を超えて労働している証拠を集めます。証拠の一例は次の通りです。できる限り集めておきましょう。

    • 就業規則や雇用契約書など、労働条件が記載された書類
    • 毎月の給与明細
    • タイムカード
    • 就業中に送信したメール、パソコンのログイン履歴
    • 勤務中の書いた日誌やスケジュールを記載した手帳
      など


    就業規則や雇用契約書などは、会社の定めた労働条件を明らかにします。これらの書面に固定残業代についての明確な記載がない場合は、固定残業代制度自体の無効を訴える資料にもなります。また、毎月の給与明細により、実際の給与の支払い状況を証明できます。

    労働の実態を証明するためには、会社でのタイムカードや会社で使用しているパソコンのログイン履歴なども有効です。しかし、会社によっては、タイムカードやログイン履歴の改ざんが常態化していることもあります。

    タイムカードやログインの履歴を残すことが難しい場合は、勤務中に送信したメールや就業中につけている日誌、日々のスケジュールを記載している手帳などを証拠とすることも可能です。

  2. (2)会社に請求書を送る

    証拠により残業時間数が算定できたら、残業代を計算して会社に請求書を送ります。これにより、残業代請求権の消滅時効を一時的に止める効果もあります。

  3. (3)労働基準監督署に報告する

    会社に請求書を送っても残業代が支払われない場合は、労働基準監督署に報告します。こうした行政機関が味方につくことで、会社に対するプレッシャーを与えられるでしょう。ただし、労働基準監督署は、労働基準法などの労働関連法を順守しているかどうかを指導監督する機関ですので、未払い残業代を支払うように指導はできても、法的に強制することはできません。

  4. (4)労働審判に持ち込む

    それでも会社が請求に応じなければ、労働審判を起こして争うのもひとつの手段です。労働審判は裁判よりも比較的早期に終了するのがメリットです。労働審判は、最大3回の期日で行われますので、申し立ててから3~4か月程度で結論が出ることが多いですしかし、裁判と同様に未払い残業代があることを証明する証拠が必要となり、裁判と同様の観点で判断されますので、適切な事前準備が必要となります。

4、残業代請求を弁護士に依頼するメリット

残業代請求を弁護士に依頼するメリットは、主に3つあります。

まず、残業代請求には証拠集めについて専門的なアドバイスが受けられます。証拠がないと未払いの事実を証明するのが困難になるので、的確な証拠収集は請求できる確率をぐっと向上させるでしょう。もし会社に証拠隠滅されている場合でも、弁護士なら対抗措置を講じられる可能性も高いです。

次に、残業代請求手続きの代行も依頼できます。この手続きには残業時間と残業代の正確な算出が必要ですが、残業時間や土日出金などの割増賃金計算は難解で、素人にはとても厄介です。この手続きを代行してもらうことで、正確な請求が可能になります。また、労働審判や裁判の手続きも代行できるので、負担が大きく軽減できるでしょう。

また、残業代未払いなどの労働問題は、”個人対会社”という対立構造になるため、どうしても会社が有利になりがちです。しかし弁護士という専門家を味方につけることで、相手に正当な対応を求め、個人が泣き寝入りすることを防げる可能性が高まります。

5、まとめ

固定残業代制度を導入している会社でも、その制度が有効でなければ、未払い残業代の請求は可能です。また、有効な固定残業代制度が導入されている場合でも、就業規定で定めた時間数以上に残業をしていたりする場合は、未払い残業代を請求できる可能性があります。

未払い残業代の請求には、数々の証拠を集めて会社に請求する必要があります。弁護士に依頼すると、証拠集めのアドバイスが得られるほか、手続きも代行してもらえます。会社に対して適切かつ正当な対応を求められるので、結果的に未払い残業代を獲得できる可能性が高まるでしょう。

残業代請求を検討している場合は、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスにご相談ください。詳しい状況をお伺いした上で未払い残業代の請求の可否や証拠集めについて適切にアドバイスします。

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