事故物件の告知義務の期間や、違反した場合のペナルティを解説

2021年04月15日
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事故物件の告知義務の期間や、違反した場合のペナルティを解説

平成24年から28年までの船橋市の統計によると、船橋市の年齢別の死因の順位は、10~39歳までは「自殺」が第1位であり、40~49歳では第3位、50~59歳でも第4位となっています。

もし、アパートやマンション、貸家などで入居者が自殺してしまった場合、その物件は「事故物件」となるでしょう。
近年では事故物件の情報を共有するWebサイトも知名度を増しており、入居者の側も、事故物件に対しては敏感になっています。したがって、不動産のオーナーにとっては、所有している物件が事故物件になることのリスクは上がっているといえるのです。

本コラムでは、事故物件のオーナーに対して課せられる告知義務の概要や違反した場合の法律的なペナルティ、所有する物件が事故物件になってしまったときに取るべき対応について、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、事故物件とは

  1. (1)不動産取引における瑕疵(かし)

    事故物件とは何かを知る前に、不動産取引における瑕疵についておさえておきましょう。

    瑕疵とは法律用語で、契約の不備や落ち度を指す言葉です。不動産においては、主にキズや欠陥のことを瑕疵と表します。

    不動産における具体的な瑕疵は、以下のように分類されます。

    • 物理的な瑕疵……建物の傾き、土地の不等沈下、雨漏り、シロアリ被害など、品質や性能に関する欠陥
    • 権利の瑕疵……賃借した物件が他人にも賃貸されていたなど
    • 法律における瑕疵……消防法や耐震性の要件を満たしていないなど、借主が予定していた使用目的に関する法的適正を欠いている場合など
    • 環境的な瑕疵……周辺に暴力団事務所や宗教施設などの施設がある場合など
    • 心理的な瑕疵……借りた部屋で以前に入居者が殺害されていた場合など


    このような瑕疵によって、買主や借主の権利が損なうことを防ぐために、民法や建物取引業法では、売主や不動産のオーナーに対して瑕疵の責任を定めています。

    これを不動産の貸主・売主に対する「瑕疵担保責任」といいます。

    たとえば、瑕疵があると知っていながらその事実を告げずに売買・賃貸契約を行い、契約後にその事実が発覚した場合、売主や不動産のオーナーは、買主や借主に対して瑕疵による損害を補う責任が発生します。

  2. (2)事故物件の定義はあるか

    事故物件は、物理的な瑕疵がある物件と比べて、取引当事者の感情に大きく左右されることがあるため、現時点では、法律上、明確に定義されていません。

    しかし、過去の不動産取引の慣行などから、物件内で自殺・殺人・事故死など人の生命に関する事件があった物件が、典型的な事故物件として扱われる傾向があります。

    ただし、自然死などのように事件性がない事実があった物件については、事故物件とされない傾向があります。ただし、遺体が腐乱して物件が著しく棄損されてしまった場合や、報道などでその物件の居住者が死亡していたことが世間に広く知られてしまった場合は、事故物件とされる可能性がありますので、注意が必要です。

2、事故物件の告知義務

  1. (1)告知義務とは?

    告知義務とは、対象物件が、事故物件をはじめ、何らかの瑕疵がある物件である場合に、借主・買主に対して貸主・売主が取引に際し、その事実を伝えなければならないとする義務のことです。

    物件に心理的瑕疵がある場合、そのような物件を積極的に借りたり購入したいと思う人は少ないでしょう。もし、入居後にその事実が判明した場合には、心理的ダメージや再度引っ越しをするために費用が発生したりするなど、借主・買主に大きな損害が発生する可能性があります。

    そのため、不動産取引の際は、借主・買主が適切な判断ができるよう告知義務が課せられているのです。心理的瑕疵の告知義務の判断は、ケース・バイ・ケースになることもありますので、告知に迷う場合、まずは弁護士へ相談することをおすすめします。過去の裁判例と状況に合わせて適切な対応を取ることが、後のトラブル回避へつながるでしょう。

  2. (2)告知義務の義務者はだれか

    宅地建物取引業法第47条、35条の規定により、不動産の賃貸や売買を仲介する宅地建物取引業者(不動産業者)が、故意に事実を告げなかったり、不実のことを告げたりする行為は禁止されています。
    しかし、宅地建物取引業者がいくら調査しても事故物件である事実を貸主・売主から知らされなければ、宅地建物取引業者は借主・買主に対する告知義務を果たすことはできないこともあります。したがって、告知義務を負っているのは貸主・売主も同様であるといえるでしょう。もちろん、宅地建物取引業者を介さない直接取引においても同様です。

  3. (3)告知する方法

    形式上、告知は契約の前段階である重要事項説明の際に行われることが多いでしょう。この際、事故物件をめぐって後日の紛争にならないように、貸主・売主は賃貸借あるいは売買の話が始まったときからできるだけ早いうちに対象物件が事故物件などに該当することをしっかりと説明しておくのが後々のトラブル回避へつながります。また、賃貸借契約書や売買契約書の特約事項や重要事項説明書、物件状況報告書などに明確に記載するなど、書面で明らかにしておくことが望ましいでしょう。

  4. (4)告知義務はいつまで続くのか

    では、事故物件の告知義務はいつまで行う必要があるのでしょうか。
    その期間については、法律で明確に定められているわけではありません。一般論として、賃貸物件よりも売買物件の方が長期にわたって告知する必要があるでしょう。また、事故物件となった原因が、買主、借主の心理に与える影響が大きいほど、告知義務も長期にわたって続くでしょう。

    告知義務が必要か悩む場合には、不動産問題の解決実績がある弁護士へ相談することで、具体的な注意点を知り、客観的なアドバイスを受けることができるでしょう。

3、告知義務に違反するとどうなるか

事故物件に関する告知をしないまま取引を成立させた場合、あとから事故物件の事実を知った入居者や買主から、告知義務違反として損害賠償請求や契約の解除を求められるおそれがあります。

過去には、マンションの賃借人に対し以前の居住者が自殺したことを告げずに賃貸借契約を締結したところ、のちに賃借人がその事実を知ることとなり、賃貸借契約に要した費用・引っ越し代・慰謝料などの支払いを求められ、被告であるオーナーが敗訴し、約114万円の支払いが命じられた裁判例もあります(大阪高裁平成26年9月18日判決)。

上記はあくまで参考ですが、予想外の不利益を被らないためには、まず弁護士に相談することをおすすめします。

4、弁護士に相談すべきケースとは

保有している物件が事故物件となってしまった場合、その後の賃借や売買においては宅地建物取引業者だけではなく弁護士に相談することをおすすめします。

賃貸借や売買にかぎらず、不動産は物件ごとの個性の強さや関係する法令・条例・諸規則の多さ、権利関係や取引の複雑さなど、金融資産とは異なる特徴があります。不動産を取引するときは、それが事故物件に該当するかどうか売主として十分に調査や確認をしたうえで、契約に臨む必要があります。

一般には、不動産を調査する能力や不動産知識全般について知見のある宅地建物取引業者が、貸主・売主および借主・買主に代わって取引対象物件について調査し、説明することにより、借主・買主が多大な損害を被ることがないようにしています。

しかし、法的な定義が明確でない事故物件の場合は、宅地建物取引業者のみを介した契約では、後々のトラブルにつながることもあるかもしれません。
弁護士に相談することで、法律的観点や過去の裁判例などにもとづくアドバイスを受けることができ、トラブル回避に備えることが可能です。また、弁護士が、重要事項説明書や賃貸・売買契約書の作成と借主・買主に対する説明のサポートをすることが、スムーズな契約の一助になるでしょう。
さらに、事故物件の告知義務違反に伴うトラブルが発生したとしても、弁護士はあなたの代理人として借主・買主に対する交渉および裁判上の手続きを行うことが可能です。

5、まとめ

もし所有している物件が事故物件になってしまった場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
不動産取引について実績と経験のある弁護士であれば、法的なアドバイスはもちろんのこと、提携する宅地建物業者を通じて依頼人であるあなたの経済的利益を最大化するアドバイスが期待できます。事故物件についてお困りのときは、ぜひベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士までご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています