夫が失業して無職になったことを理由に離婚できる?
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令和5年の千葉県内における企業の倒産件数は277件であり、前年度より18%も増加しました。近年は、原材料高の影響や人材不足が企業の負担となっており、企業の倒産とそれに伴う従業員の失業の問題は全国で深刻化しているのです。
そのなかには、夫や父として一家の大黒柱になっている男性が失業した、という事例も多々含まれているでしょう。とくに妻が専業主婦の場合は夫が失業すると経済基盤がなくなり、生活が不安定になる可能性があります。そのような状態になった場合、妻としては離婚を検討することもあるでしょう。
本コラムでお伝えすることは、大きく以下の3つです。
・夫の失業を理由に離婚することはできるのか
・夫が失業したらすべきことや、話し合うべきこと
・離婚する際の手続きの進め方
夫の失業を理由に離婚を考えている方に向けて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説いたします。
1、夫が失業したらすべきことは?
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(1)わが家の経済状況を確認する
夫が失業した際には、まずは、わが家の経済状況を確認することが必要になります。預貯金はどれくらいあるか、ひと月にどれくらい生活費がかかっているのかを計算してみましょう。
夫が再就職できるまである程度の時間がかかることをふまえると、6ヶ月~1年分は夫の収入がなしでも生活できるくらいの貯金が必要になると考えられるでしょう。また、住宅ローンやマイカーローンなどの負債を抱えている場合には、このことも加味して生活費を算出してください。 -
(2)妻が専業主婦の場合
妻が専業主婦の場合は、夫が失業するとたちまち収入が絶たれてしまいます。そのため、できるだけ早くパートや契約社員・派遣社員などのかたちで就職することが必要になるでしょう。
また、社会保険についても手続きが必要となります。通常、妻が専業主婦の場合は、夫の健康保険の被扶養者になっているものです。しかし、夫が失業すると、夫はその健康保険の被保険者ではいられなくなるため、市区町村役場に出向いて夫婦で国民健康保険に加入する手続きが必要になるのです。その際には、保険料は自分で支払わなければならない可能性がある点に留意しておきましょう。 -
(3)妻が働いている場合
妻がすでに働いている場合には、ひとまず収入を確保することができます。パートや契約社員であればシフトを増やしたり、会社側に事情を話して正社員にしてもらえるようかけあったりすることで、夫の失業による家計へのダメージを緩和することができるでしょう。
社会保険については、妻が勤務先の健康保険に加入している場合は、夫が失業保険を受給中であっても、要件を満たせば夫を扶養に入れることができます。一方で、妻がもともと夫の扶養の範囲内で働いていた場合には、夫とともに国民健康保険に加入する手続きが必要となります。 -
(4)場合によっては夫に受診やカウンセリングをすすめる
夫が体調を悪くして失業した場合や、失業をきっかけにうつ状態になった場合は、早めに心療内科を受診したりカウンセリングに行ったりすることをすすめたほうがよいでしょう。症状の程度が軽いうちに治療を始めると、その分、早い回復が見込めて、今後の転職活動に生じる支障を抑えることができます。
2、夫の失業は離婚事由になる?
夫が失業して家計のやりくりが苦しくなった場合には、離婚を視野に入れる場合もあるでしょう。
夫の失業を理由にして離婚することができるのかどうかについて、解説いたします。
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(1)法律で認められている離婚事由とは?
民法770条で認められている離婚事由は、次の5つになります。
- ① 配偶者に不貞な行為があったとき。
- ② 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- ③ 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
- ④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- ⑤ その他、婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき。
裁判離婚になったときは、これらのいずれかの理由があれば、裁判所に離婚を認めてもらうことができます。これを「法定離婚事由」といいます。
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(2)夫の失業は離婚事由としては弱い
原則的に、単に夫が失業しただけでは、法定離婚事由にはあたりません。
しかし、家を出て夫と別居した場合には、「その他、婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき。」に当てはまる可能性があります。
別居期間が長くなればなるほど、「婚姻を継続しがたい事由」になるとして離婚が認められやすくなる可能性が生じるからです。また、失業している夫が家事などにまったく協力しない、夫が健康状態に問題がないのに何か月も転職活動をしようとしない、などの事情も離婚事由として認められる可能性があるのです。 -
(3)協議離婚であれば可能
協議離婚であれば、理由を問わず、当事者同士の合意があれば離婚が成立します。したがって、夫の失業を理由に離婚したいと考えるのであれば、協議離婚の成立を目指すのがもっともスムーズでしょう。
3、夫の失業で離婚するときに話し合うべきこと
夫の失業を理由に離婚をする場合には、離婚にむけた具体的な手続きを始める前に、お金のことや子どものことなど、様々なことを話し合って、あらかじめ取り決めをしておくことが重要になります。
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(1)財産分与
離婚をする際には、結婚後にふたりで築いてきた共有財産を分け合う、「財産分与」という手続きが必要になります。なお、結婚前にそれぞれが保有していた預貯金や、その他の財産や資産については、共有財産ではなく固有財産として扱われ、財産分与の対象からは除かれることになります。
なお、持ち家に住んでいて、なおかつ住宅ローンが残っている場合には、夫の妻のどちらかが家に住み続けるのか、ローンの残っている家を売却してしまうのか、を検討することが必要になります。
もしローンの残債よりも売却金額のほうが大きい場合には、売却益をふたりで分け合うことができます。一方、売却金額よりローンの残債のほうが大きい場合は、家を手放すべきではない可能性が高いでしょう。
このように、財産分与では、検討すべき事項が様々に存在するのです。 -
(2)婚姻費用
離婚前からすでに別居している場合は、夫婦のうち収入の多いほうが少ないほうに対して、別居中の生活費を「婚姻費用」という名目で請求することができます。
多くの事例では、婚姻費用は夫から妻に対して支払われます。しかし、夫が失業していて貯金があまりなく、なおかつ妻が働いていて一定の収入がある場合には、妻から夫へ婚姻費用を支払うことが必要になる可能性もあるでしょう。 -
(3)親権
経済的に自立していない子どもがいる場合は、夫と妻のうちどちらが「親権」を持つのかを決めなければいけません。夫婦の両方が親権を持つことを希望している場合には、以下の要素を総合的に判断したうえで、どちらが親権を持つのによりふさわしいかを決めることになります。
監護の実績 今まで子どもの世話をしてきたかどうか 監護の継続性 父母どちらのもとで暮らしていたか 子どもの意思の尊重 父母どちらといっしょに暮らしたいか きょうだい不分離の原則 きょうだいがいる場合はできるだけ引き離さないほうがよいという原則 母性優先の原則 心理的な結びつきの強いほうを親権者として優先すべきとする原則 面会交流の寛容性 非監護親との面会交流に寛容であるかどうか 育児のサポート体制 仕事などのために自分で子どもの世話ができない場合は、祖父母などの親族のサポートが得られるかどうか -
(4)養育費
相手方に収入がないときには、養育費をすぐに受け取ることは難しいかもしれません。
しかし、離婚して親権者ではなくなったからといっても、親子であることに変わりはないため、子どもの扶養義務を免れることはできません。非監護親は、自分の生活を切りつめてでも、子どもがきちんと生活できるだけの養育費を渡さなければならないとされているのです。
夫がいますぐに養育費を支払うことは難しい状況にあるとしても、健康状態に問題がなく今後再就職できる見込み(潜在的稼働能力)がある場合には、「転職して給与をもらえるようになったら払う」旨を書面に明記して公正証書にしておくと、きちんと支払ってもらえる可能性が高くなるのです。
4、離婚するための手続きの進め方
離婚方法には大きく分けて協議離婚・調停離婚・裁判離婚の3パターンがあります。それぞれどのような流れになるのかを解説するとともに、離婚が成立したあとにどのような手続きが必要になるのかについても解説します。
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(1)協議離婚
協議離婚とは、夫婦間で離婚条件について話し合いをおこない、合意ができれば離婚が成立する、という方法です。
協議離婚が成立したら、合意した内容を離婚協議書にまとめて、夫婦それぞれが署名と押印をおこないます。
このとき、相手方が万一約束どおりに養育費や慰謝料などを支払わなかった場合には強制執行をすることができるよう、離婚協議書は執行認諾文言付き公正証書の形式で作成することをおすすめします。 -
(2)調停離婚
夫婦で意見が食い違い、協議離婚が成立しそうにない場合には、家庭裁判所に「離婚調停」を申し立てましょう。
調停離婚では、夫婦のあいだに調停委員会を介在させたうえで、離婚にむけての交渉をおこないます。お互いに顔を合わさずに交渉ができる点や、裁判離婚に比べると時間や費用があまりかからない点がメリットといるでしょう。
調停委員が提示した案に当事者双方が合意すれば調停が成立して、「調停調書」が作成されます。調停調書とは、調停で合意した内容に反して慰謝料や養育費などが支払われない場合に債務名義として相手方の財産に対して強制執行をおこなうことを可能にする書類です。なお、調停委員の案に合意できない場合は調停不成立となり、訴訟や審判に移行することになります。 -
(3)裁判離婚
裁判離婚とは、夫婦のどちらかが裁判所に訴訟を提起して、判決で離婚を認めてもらうための方法です。ただし、原則として、先述した「離婚事由」に当てはまる事情がなければ、裁判で離婚が認められることはありません。
裁判は、基本的に数回の口頭弁論を経たのちに、確定判決が出た時点で終了となります。
裁判離婚には、時間がかかっても必ず決着できる点や判決に強制力があるというメリットが存在します。一方で、短くても半年ほど、長ければ数年ほどの時間がかかってしまう点や、法定離婚事由がないと利用できない点、弁護士費用がかかる点などのデメリットも存在するのです。 -
(4)離婚後に必要になる手続き
上記のいずれかの方法によって離婚が成立した場合には、下記の手続きをおこなうことが必要になります。
① 離婚届の提出
市区町村役場に行って離婚届に必要事項を記入して、提出します。
② 健康保険・年金関係の手続き
必要に応じて、国民健康保険や国民健康保険に加入する手続きをとります。
③ 子どもの氏の変更・入籍手続き
母親が親権者になり、かつ旧姓に戻ったケースでは、子どもを自分の旧姓にしたい場合は自分の住所地を管轄する家庭裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立てることが必要になります。子どもの戸籍を自分の戸籍に入れたい場合は、そこからさらに入籍手続きをおこないましょう。
5、まとめ
近年では景気の後退を受けて失業者が増えているので、一家の大黒柱である夫が失業してしまう事態が、多くの家庭で発生しています。そのような場合には、妻としては、離婚を検討せざるを得ないこともあるでしょう。
夫が失業して離婚することを検討されている方は、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスにまでご連絡ください。離婚事由の有無や離婚をすすめるための手続き、離婚をする前に検討すべき注意点などについて、弁護士がアドバイスいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています