資源ごみの持ち去りは犯罪になる? 逮捕の可能性について弁護士が解説

2024年04月25日
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資源ごみの持ち去りは犯罪になる? 逮捕の可能性について弁護士が解説

ごみとして捨てられていたものを持ち去ると、告発されたり逮捕されたりする可能性があります。しかし、不要なものとして捨てられたごみを持ち去ることが、なぜいけないことなのでしょうか。また、ごみの持ち去りをすると、具体的にどのような処罰を受ける可能性があるのでしょうか。

本コラムでわかることは、大きく以下の2つです。
・なぜごみを持ち去ってはいけないのか
・ごみの持ち去りを規制する条例や刑法などについて

そこで今回はベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が、ごみの持ち去りについて法的見解から解説いたします。


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1、ごみの持ち去りは、なぜいけない?

千葉県船橋市では、ごみステーションからのごみの持ち去りが条例で禁止されています。一見、捨てられているものを持ち帰ることは何も問題のない行為に思えますが、実はごみの持ち去りは違法となりうるのです。

  1. (1)ごみの持ち去りが横行している

    近年、古紙等の資源ごみの価格高騰により、ごみの持ち去りが横行しています。製紙や資源回収の商工組合等が発信している「古紙持ち去り問題意見交換会」のレポートによると、平成28年度、全国の行政回収における新聞古紙の持ち去り量は24万6000トンにものぼり、本来回収できるはずだった量の約45%にものぼるとされています。

  2. (2)ごみの持ち去りは自治体の経済的損失に

    ごみを勝手に持ち去ることは、行政回収を行っている自治体の経済的損失になりかねません。

    経済的損失になりうる理由は、主に以下の3つです。

    • 行政回収として集めた資源ごみはリサイクル業者に売却するため、回収できないと売却益が少なくなってしまう
    • 資源ごみの回収に必要な人員を確保して体制を整えているのに、想定外に回収量が少なければ人件費が無駄になってしまう
    • 新聞だけ抜き取り、雑誌や広告、段ボールなどが散乱しているケースもあり、余計な手間やコストがかかってしまう

2、持ち去り禁止条例を制定する自治体も

自治体の中には、指定業者以外の業者がびん、缶、古紙など市が指定する排出物(指定排出物)の収集・運搬を禁止する条例を制定するところもでてきています。ここでは、それらの条例の実態について解説します。

  1. (1)持ち去り禁止条例の制定状況

    資源物の持ち去りを禁止する条例を制定している自治体は、あまり多くありません。環境省による令和4年度の調査では、条例を制定している市区町村が411(23.6%)、条例を制定していない自治体が1330(76.4%)と、条例を制定している市区町村はおよそ2割にとどまりました(※)。

    千葉県は、54市区町村のうち28市区町村が条例を制定しており、割合でいうと埼玉・東京・滋賀・神奈川・愛知に次いで全国第6位となっています。

    ※環境省環境再生・資源循環局 廃棄物適正処理推進課「令和4年度「資源ごみ」の持ち去りに関する調査」

  2. (2)条例に見られる2つのタイプ

    ごみの持ち去りを規制する条例には、以下の2つのタイプが見られます。

    1. ①資源ごみの所有権が自治体に帰属させるもの
    2. ②市の指定業者以外の者が回収することを禁止するもの


    ①は、資源ごみの所有権を自治体に帰属させることで、窃盗罪の構成要件を満たすようにすることがねらいです。つまり、このタイプの条例を制定している市区町村では、窃盗罪で逮捕されたり書類送検されたりする可能性があります。

    ②は、所有権には言及しないものの、行政から委託を受けている回収業者の権益を守り、リサイクル事業を円滑に進めることを目的とした条例といえるでしょう。

  3. (3)船橋市の持ち去り禁止条例の内容とは

    船橋市でも、「廃棄物の減量、資源化及び適正処理に関する条例」が制定されています。ごみの持ち去りの部分について、どのように制定されているのでしょうか。

    第14条 市長又は市長が指定した者以外の者は、ごみ収集ステーションに排出された家庭系廃棄物を収集し、又は運搬してはならない。
    2 市長は、市長又は市長が指定した者以外の者が前項の規定に違反して、家庭系廃棄物を収集し、又は運搬したときは、その者に対し、これらの行為を行わないよう命ずることができる。
    3 市長は、前項の規定による命令を受けた者が、当該命令に従わないときは、当該命令に従わない者に意見を述べる機会を与えた上で、その事実を公表することができる。

    引用:「船橋市廃棄物の減量、資源化及び適正処理に関する条例」

    船橋市には、ごみの持ち去りをしないように命じられた者が命令に従わないときは、社名や違反事実を公表されるという行政罰が規定されています。しかし、罰金については記載がされていません。

  4. (4)横浜市では取り締まり強化のため条例を改正

    同じ関東にある神奈川県横浜市では、持ち去り行為が行政回収だけでなく、民間団体と回収業者との契約に基づいて行われる集団回収にまで及ぶようになったことを受けて、2012年5月に条例を改正しました。

    改正の内容は、「条例に違反した不当なごみの持ち去りは20万円以下の罰金」、「市長や指定業者以外は家庭から出されたごみは持ち去ってはならない」などです。また、立ち入り調査を行う範囲を「土地又は建物」から「車両その他の場所」まで広げ、集団回収登録団体が実施する資源回収に出された者も持ち去りを禁止しました。さらに、持ち去り行為が組織化・大規模化していることに鑑み、持ち去り行為者だけでなくその使用者も処罰できる両罰規定を設けました。

    横浜市は持ち去りに関して特に非常に厳しいルールを制定したといえるでしょう。

3、ごみの持ち去りに関する条例違反の判例

ここでは、ごみの持ち去りが告発されて裁判になったケースをご紹介します。

  1. (1)世田谷区清掃・リサイクル条例違反事件

    この事件は、個人で古紙回収業を営む者が世田谷区清掃・リサイクル条例の一般廃棄物処理計画で定める場所に置かれた古紙の回収をしたことに対し、持ち去りをしないよう命じられたにもかかわらず、持ち去りを繰り返したために起きたものです。

    第1審の簡裁ではごみ集積所が特定されておらず、犯罪の構成要件該当性が不十分として無罪とされました。一方、控訴審では集積所の特定ができる上に、命令違反を処罰の対象にしているので構成要件該当性も満たすと認められ、有罪となりました。

    その後、最高裁まで争い、最終的に裁判所は控訴審を支持し、「集積所は看板等で住民が周知していることのだから、そこから持ち去ってはいけないという規定に問題はなく有罪」と判断しました。(最高裁平成20年7月17日判決)

  2. (2)下関市廃棄物処理条例違反事件

    下関市でも同様の事件が発生しています。古紙回収業を営む者が市からの委託業者でないのに下関市のごみステーションから古紙を無断で回収し、市から持ち去りをしないよう命じられていました。しかしその後も無断で古紙回収を行っていたところ告発を受け、裁判で罰金10万円の判決が言い渡されますが、被告人は自分の行為に違法性がないとして控訴しました。

    しかし控訴審判決で、裁判所は「一般廃棄物を持ち去ったことで、持ち去った者の所有物になることになったとしても、その持ち去り行為が違法とされることとの間に何ら矛盾はない」と判断し、控訴を棄却しました。
    (広島高裁平成20年5月13日判決)

4、ごみの持ち去りで成立しうる犯罪

ごみの持ち去りは、犯罪として検挙されることもあります。具体的にはどのような犯罪が成立しうるのでしょうか。

  1. (1)条例違反

    上記のような廃棄物処理条例またはそれに類する条例違反が制定されている自治体では、無断で資源ごみを持ち去ると条例違反となり、場合によっては罰金または過料の支払いが命じられる可能性があります。

  2. (2)窃盗罪

    一般家庭から排出されたごみは、捨てた人が所有権を放棄したものなのでと考えることもできます。しかし、地域の条例で「家庭から排出された廃棄物の所有権は、〇〇市に帰属する」などと規定されている場合は、排出されたごみの持ち主はその自治体とされるので、持ち去れば窃盗罪にあたります。
    窃盗罪が認められれば10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

  3. (3)住居侵入罪

    マンションの敷地内など、公道ではないところにあるごみ置き場に入ってごみを持ち去ると、住居侵入罪に問われることがあります。また、マンションの敷地内に入ろうとしたところを誰かに見つかった、などの未遂であっても成立します。
    住居侵入罪が成立すれば、懲役3年以下または10万円以下の罰金です。ただし、住居侵入罪の場合は窃盗罪など複数の罪を犯していることが多いので、その場合は重い方の刑罰が科されることになります。

  4. (4)軽犯罪法違反

    ごみの持ち去りが軽犯罪法違反にあたることも考えられます。たとえば、「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた看板のあるマンションのごみ置き場は、マンションの住人や資源物の回収業者しか立ち入ることが許されていません。この場合、「入ることを禁じた場所に正当な理由なく入った」として軽犯罪法違反が成立することがあります。
    軽犯罪法違反が認められれば、1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置される拘留、または科料に処せられます。

5、ごみの持ち去りで逮捕されることもありうる

上記のような違反または犯罪が成立すれば、ごみを持ち去るだけで逮捕されてしまうケースもあります。その場合はすみやかに刑事事件の経験豊富な弁護士に相談し、不当に重い処罰となることを回避するための対応を取ることが必要です。

  1. (1)逮捕された後の流れ

    警察に逮捕された後は、以下のような流れになります。

    ●取り調べ
    警察署で最大48時間身柄を拘束され、取り調べを受けます。

    ●送検
    取り調べの後、検察庁に送致(送検)されます。その後、検察官が捜査のため勾留するかどうかを24時間以内に決定し、勾留が決定すれば被疑者は最大20日間身柄を拘束されます。

    ●起訴・不起訴の決定
    検察官が被疑者を起訴とするか不起訴とするか決定します。

    ●公判
    起訴されると裁判となり、有罪・無罪、量刑を決める判決が言い渡されます。
  2. (2)逮捕されたら弁護士に相談を

    刑事事件は初動対応が早いほど早期釈放へ向けて働きかけることができます。自分や自分の身近な方が逮捕されたら、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。

    逮捕後72時間は家族でも面会することができません。しかし、弁護士であれば24時間いつでも面会が可能です。弁護士が早いタイミングで被疑者に接見することで、取り調べ時の受け答えのときに不利にならないようアドバイスもできます。

    また、今回が初犯であり犯罪の程度も軽ければ、「被疑者は十分に反省している」旨の意見書を弁護士が作成し、捜査機関に提出することで身柄を早期釈放してもらえる可能性もあります。そうすれば、たとえ捜査が進み起訴されたとしても、在宅のまま刑事手続きを進められる可能性が高まります。

6、まとめ

「ごみステーションに出してあるごみは、誰のものでもないから持ち去っても問題ない」と考えていると、警告を受けたり、罰金の支払いを命じられたりする可能性があります。もし何度もごみの持ち去りを繰り返す常習者であれば、逮捕されることも十分考えられます。

ごみの持ち去りで自分自身や身近な人が告発されたり逮捕されたりした、もしくはその可能性がある場合は、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスへご相談ください。弁護士が解決策を練り、迅速に対応いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています