相続をした不動産が共有財産だった! 起こりうるトラブルと回避法
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相続において、亡くなった人(被相続人)が死亡時に所有していた財産は、遺贈(遺言による贈与)の対象となっている場合を除き、相続人全員の共有となります(民法第898条)。
共有名義の遺産を分割せずそのままにしておくと、共有者(相続人)同士のトラブルのリスクが高まってしまいます。弁護士に相談したうえで、できるだけ早く、遺産分割を完了させましょう。
本コラムでは、共有状態にある遺産に関する民法のルール、2023年(令和5年)4月施行の改正民法による変更点、遺産分割をせずに放置することのリスクなどについて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、共有状態の遺産について知っておくべきこと
共有状態にある遺産をそのままにしておくと、相続トラブルが発生するリスクが高まってしまいます。
共有関係のルールについて正しい知識を理解したうえで、トラブルを回避するため、できるだけ早く遺産分割を完了させましょう。
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(1)共有とは
「共有」とは、複数の共有名義人が財産に対する権利(所有権)を有する状態です。
亡くなった被相続人が死亡時に所有した財産は、相続人の共有となります(民法第898条)。
共有財産には、各共有者について持分割合が設定されます。
遺産の場合は、法定相続分に従って共有持分割合が決まります。
たとえば配偶者A・子B・子Cの3名が相続人の場合、遺産分割前の不動産の共有持分割合は以下のとおりになります。
A:2分の1
B:4分の1
C:4分の1
共有財産は、各共有者が持分に応じて全体を使用できます(民法第249条)。
その一方で、賃貸借などの「管理」を行うには共有持分割合の過半数(民法第252条)、売却などの「変更」を行うには共有者全員の同意が必要となるのです(民法第251条)。 -
(2)共有状態は解消することが望ましい|早期に遺産分割を
共有状態の遺産を分割せず放置すると、使用・収益・処分に支障が生じるほか、遺産に関するトラブルが発生するリスクも高まります。
遺産分割の手続きは面倒ですが、トラブルが発生すると、さらに多大な労力が必要になってしまいます。
相続人間のトラブルを回避するためにも、弁護士に相談したうえで、早期に遺産分割を完了させることが大切です。
2、【2023年4月施行】共有財産に関する民法改正の概要
2023年(令和5年)4月からは改正民法が施行されて、共有関係に関するルールの一部が変更されます。
したがって、2023年4月以降は、改正後のルールをふまえた対応が必要になります。
改正民法による共有関係の変更ポイントは、以下のとおりです。
- ① 共有物の「管理」の範囲拡大・明確化
- ② 共有物の「使用」に関するルールの明確化
- ③ 賛否不明・所在等不明共有者に関する裁判手続きを新設
- ④ 共有物の管理者の選任・解任を明文化
- ⑤ 遺産の共有持分割合は法定相続分によることを明確化
- ⑥ 裁判による共有物分割の規定を整備|代償分割を明文化
- ⑦ 所在等不明共有者の不動産共有持分取得手続きを新設
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(1)共有物の「管理」の範囲拡大・明確化
従来の民法では、共有物の「管理」については共有持分の過半数、「変更」については共有者全員の同意によって決定すると整理されていました。
しかし、このルールについては、以下のような点が問題視されていました。
- ① 軽微な変更であっても共有者全員の同意が必要となり、共有物の円滑な利用・管理を阻害する
- ② 長期間の賃貸などは「変更」として共有者全員の同意が必要と解されているが、長期間かどうかの判断基準が明確でないため、共有物の円滑な利用を阻害する
上記の問題をふまえて、改正民法では、以下のような変更が行われます。
- ① 形状または効用の著しい変更を伴わない共有物の変更については、共有持分の過半数によって決定できるようになります(改正民法第251条第1項、第252条第1項)。
- ② 以下の期間を超えない短期賃借権等の設定は、共有持分の過半数によって決定できる旨が明文化されます(同法第252条第4項)。
(a)樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等:10年
(b)(a)に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等:5年
(c)建物の賃借権等:3年
(d)動産の賃借権等:6か月
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(2)共有物の「使用」に関するルールの明確化
従来の民法における、共有物の使用に関するルールについては、以下の点が問題視されていました。
- ① 共有物を使用する共有者の同意がなくても、共有持分の過半数で管理事項を決定できるか否かが明確でない(無断使用する共有者がいる場合には、他の共有者による使用は事実上困難)
- ② 共有物を使用する共有者が、他の共有者に対してどのような義務を負うのか明確でなく、無用な紛争を引き起こすおそれがある
改正民法では、以下のような変更が行われます。
- ① 共有物を使用する共有者がいても、共有持分の過半数で管理事項を決定できる旨が明確化されます(改正民法第252条第1項後段)。
ただし、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別な影響を及ぼすときは、その共有者の承諾を得なければなりません(同条第3項)。 - ② 共有物を使用する共有者は、原則として自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う旨が明確化されます(同法第249条第2項)。
また、共有者が共有物を使用する際には、善管注意義務を負う旨が明確化されます(同条第3項)。
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(3)賛否不明・所在等不明共有者に関する裁判手続きを新設
共有物の管理・変更について賛否を明らかにせず、または素性や所在が不明の共有者について特段の手続きが設けられていなかったため、共有物の管理が困難になり得るという問題が指摘されていました。
改正民法では、賛否不明または素性・所在が明らかでない共有者を除き、他の共有者が有する共有持分の過半数によって管理事項を定めるための裁判手続きが新設されます(改正民法第252条第2項)。 -
(4)共有物の管理者の選任・解任を明文化
従来の民法では、共有物の管理者に関する明文規定がなく、選任・解任要件や権限内容が判然としないという問題点が指摘されていました。
改正民法では、新たに共有物の管理者に関する規定を設け、その選任・解任要件や権限内容が明文化されることになります(改正民法第252条第1項、第252条の2)。 -
(5)遺産の共有持分割合は法定相続分・指定相続分によることを明確化
相続財産は相続人全員の共有となりますが(民法第898条)、従来の民法では、共有持分割合が法定相続分・指定相続分・具体的相続分のうちいずれを基準とするのかが不明確でした。
- 法定相続分:民法所定の相続割合(例:配偶者2分の1、子2分の1など)
- 指定相続分:遺言書によって指定された相続割合
- 具体的相続分:特別受益・寄与分を考慮した相続割合
改正民法では、相続財産の共有持分割合が法定相続分(遺言書による指定がある場合は指定相続分)を基準に決まることが明確化されます(改正民法第898条第2項)。
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(6)裁判による共有物分割の規定を整備|代償分割を明文化
各共有者はいつでも共有物の分割を請求できますが(民法第256条第1項)、従来の民法では、実務上よく行われている「代償分割」に関する規定が存在しませんでした。
- 代償分割:共有者の一部が共有物を取得し、その他の共有者に対して金銭を支払う分割方法
改正民法では、裁判による共有物分割の方法として、代償分割が可能であることを明文化し、関連する規定が整備されます(改正民法第258条第2項~第4項)。
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(7)所在等不明共有者の不動産共有持分取得手続きを新設
素性・所在が明らかでない共有者がいる場合について、従来の民法では共有物分割の手続きが十分に整備されておらず、請求者の手続き負担が重いことなどが指摘されていました。
改正民法では、共有物が不動産の場合に限り、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者の共有持分を他の共有者が取得できるようになります(改正民法第262条の2)。
3、共有状態の遺産を放置するとどうなる?
共有状態の遺産を分割せずに放置すると、遺産の使用・収益・処分について、相続人同士の間でトラブルが発生するリスクが高くなります。
トラブルが発生すると、遺産を有効に活用することも難しくなります。
また、期間の経過に伴って遺産が散逸したり、一部の相続人が遺産を使い込んでしまったりする可能性もあります。
「遺産分割は後でいいや」と考えて放置してしまうと、適切な遺産分割が困難になってしまうおそれがあるのです。
4、遺産の共有状態解消(遺産分割)は弁護士にご相談を
遺産の共有状態から生じるリスクやトラブルを回避するためには、できるだけ早期に遺産分割を完了させることが大切です。
とくに、遺産に不動産が含まれている場合には共有状態から生じるトラブルのリスクが高まってしまうため、速やかに遺産分割を完了させるべきです。
弁護士に依頼すれば、遺産分割の早期完了を目指して、相続人間の調整をすることができます。
また、遺産分割協議がまとまらない場合には、調停や審判の手続きも弁護士に一任できます。
遺産分割に関してお困りの方は、まずは弁護士に相談してみましょう。
5、まとめ
遺産を共有のままとしておくと、相続人間におけるトラブルが発生する可能性が高まります。
とくに不動産については、共有関係から生じるトラブルのリスクが高くなります。
速やかに遺産分割を完了させるため、弁護士への依頼をご検討ください。
ベリーベスト法律事務所は、遺産分割に関するご相談を随時受け付けております。
遺産分割について弁護士に依頼する際には、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています