相続にあたって不動産を売却したいとき、気を付けるべき点や手続き

2022年10月06日
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相続にあたって不動産を売却したいとき、気を付けるべき点や手続き

東京国税局が公表している相続税の申告事績の概要によると、令和2年における千葉県内の被相続人の数は6万2118人でした。そのうち、相続税の申告書の提出に係る相続人の数は5549人です。つまり、相続をした人のなかでも、相続税の申告書の提出が必要になったのは、全体の1割以下であったのです。

被相続人の相続財産に不動産が含まれている場合には、それを相続した相続人が自分で利用することもできますが、不要な不動産については売却して金銭にかえるという方も少なくありません。しかし、自分の不動産を売却する場合と異なり、相続財産である不動産を売却する際には、気を付けるべきポイントがいくつか存在しています。

本コラムでは、相続した不動産を売却する場合に気を付けるべきポイントや売却する場合の手続きについて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、不動産を相続・売却したときに生じる税金と特例

以下では、不動産を相続・売却した場合に生じる税金や、税金の負担を軽減するために利用できる特例について解説します。

  1. (1)不動産を相続・売却したときに生じる税金

    不動産を相続・売却した場合には、以下のような税金が生じます。

    ① 相続税
    相続財産の総額が相続税の基礎控除額を超えている場合には、相続税の申告が必要になり、相続した財産に応じて相続税が課税されることになります。

    相続税の基礎控除の金額は、以下のように計算します。

    相続税の基礎控除額=3000万円+600万円×相続人の数


    相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に行わなければなりません。

    ② 登録免許税
    不動産を相続した場合には、不動産の名義を被相続人名義から相続人名義に変更する必要があります。これを「相続登記」といいます。

    相続登記をする場合には、登録免許税という税金がかかります。
    登録免許税の金額の計算式は、以下の通りです。

    登録免許税額=固定資産評価額×0.4%


    ③ 譲渡所得税
    相続した不動産を売却することによって利益を得た場合には、当該利益に対して譲渡所得税が課税されます。
    譲渡所得税の金額式は以下の通りです。

    譲渡所得税額=売却価格-(取得費+譲渡費用)×税率


    譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間によって異なり、所有期間が5年以下であれば短期譲渡所得として30%の税率が適用されます。
    他方、所有期間が5年を超える場合には、長期譲渡所得として15%の税率が適用されるのです。

    なお、この場合の所有期間は、不動産を相続した相続人の所有期間ではなく、被相続人が不動産を購入した日から売却した日までの期間になります

  2. (2)税金の負担を軽減することができる特例

    不動産の相続や売却によって生じる税金については、以下のような特例を利用することによって、負担を軽減することが可能です。

    ① 小規模宅地等の特例
    「小規模宅地等の特例」とは、一定の要件に該当する土地を相続した際に、一定面積までは相続税の計算の際の評価額を最大で80%減額することができる特例です。

    なお、相続税額が80%軽減されるのではなく、相続税を計算する際の評価額が最大で80%軽減されるという点に注意してください

    ② 取得費加算の特例
    「取得費加算の特例」とは、譲渡所得税の計算において、相続時に支払った相続税のうち一定の金額を取得費として控除することができるという特例です。

    取得費加算の特例を利用するためには、相続開始から3年10カ月以内に、相続財産に含まれていた不動産を売却することが必要となります。

    ③ 居住用財産を譲渡した場合の特別控除の特例
    「居住用財産を譲渡した場合の特別控除の特例」とは、居住用財産を相続した相続人が居住用財産を売却した際に、譲渡所得から3000万円を控除することができるという特例です。

    相続人が被相続人と同居していた自宅を売却する場合などに、この特例が利用できます。

    ④ 空き家を譲渡した場合の特別控除の特例
    「空き家を譲渡した場合の特別控除の特例」とは、相続した空き家を売却した際に、譲渡所得から3000万円を控除することができるという特例です。被相続人が一人で居住していた不動産を売却するような場合にこの特例が利用できます。

2、相続した不動産を売却するための手続き

相続財産に不動産が含まれる場合には、以下のような手続きによって不動産を売却していくことになります。

  1. (1)遺産分割協議

    被相続人が遺言書を残さずに亡くなった場合には、相続人による遺産分割協議によって、被相続人の遺産を分けることになります。
    相続財産に不動産が含まれる場合には、現金や預貯金のように物理的に分割することができませんので、どのような方法で相続するのかを決める必要があります

    遺産分割協議が成立した場合には、「協議が成立した」と言う事実を明らかにするために遺産分割協議書を作成します。

  2. (2)相続登記

    不動産を相続した相続人は、被相続人の名義から相続人の名義に不動産の名義を変更する必要があります。
    このような手続きを「相続登記」といいます。

    不動産を売却するためには、相続登記が必ず必要になります。遺産分割協議が成立したら、早めに手続きを行うようにしましょう。

  3. (3)不動産の売却

    相続登記が完了した段階で、不動産の売却を行います。一般的には、不動産業者に仲介してもらい買い手を探すことになります。
    不動産売却の際には、以下のような手順で売却を進めていきます。

    1. ① 物件調査・価格査定
    2. ② 媒介契約の締結
    3. ③ 購入希望者との条件交渉
    4. ④ 売買契約の締結
    5. ⑤ 決済、引き渡し

3、未登記だった場合の対処

相続不動産が未登記だった場合には、売却にあたって特別な手続きが必要になります。

  1. (1)未登記とは

    建物を新築した場合には、不動産登記法上、所有権取得の日から1カ月以内に表題部の登記をすることが義務付けられています。
    しかし、何らかの理由で表題登記をせずに放置している場合には、当該建物は未登記の建物となるのです。

    また、土地や建物の登記がなされていたとしても、相続登記を放置していることによって未登記の状態になることがあります。
    たとえば、被相続人の不動産を相続したところ、当該不動産の名義が被相続人ではなく、被相続人の先代の方の名義になっているような状態です。

    現行法上においては、相続登記は義務ではありません。
    しかし、相続登記を放置して未登記の状態にしておくことには、さまざまなデメリットがあります

  2. (2)未登記不動産を売却する場合の手続き

    未登記不動産を売却する場合には、以下のような手続きが必要になります。

    ① 建物が未登記の場合
    建物が未登記である場合には、不動産の売却にあたって「表題登記」と「所有権保存登記」が必要になります。
    表題登記とは、建物の所在、構造、大きさなど建物の基本的な事項についての登記です。登記簿の表題部に登記されることから表題登記と呼ばれています。

    所有権保存登記とは、建物の所有者が誰であるかを明らかにするための登記です。
    相続した建物が未登記だったという場合には、被相続人名義でも相続人名義でも登記をすることができますが、相続人名義で登記するのが一般的です。

    ② 相続登記が未了である場合
    相続登記が未了である場合には、まずは、当該不動産の名義を被相続人名義に変更する必要があります。
    また、名義を変更するためには、事前に被相続人を相続人とする遺産分割手続きを行う必要があります。
    まずは、現在の登記名義人の相続人を戸籍などから調査することになるでしょう。

    長期間相続登記を放置している場合には、相続人が行方不明になっているようなケースもあります。
    その場合には、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任をしてもらう必要があるため、弁護士と相談したうえで手続きを進行しましょう。

4、不動産相続は弁護士へ相談を

相続財産に不動産が含まれている場合には、遺産分割においてトラブルが生じやすくなります。
トラブルを回避するためにも、不動産が関係する相続は弁護士に相談をすることをおすすめします

  1. (1)相続人との交渉を一任できる

    被相続人の遺産を分けるためには、相続人による遺産分割協議を行わなければなりません。遺産分割協議をするためには、相続人調査や相続財産調査といった複雑な手続きが必要になり、相続人と交渉するためには相続に関する知識が不可欠となるからです。

    ほとんどの方が相続手続きを初めて経験することになりますので、不慣れな方では、有利に遺産分割協議を進めるのは難しいといえるでしょう。
    特に不動産が相続財産に含まれる場合には、不動産の評価や遺産分割方法でもめることもあります
    希望する遺産分割を実現するためにも、専門家である弁護士にサポートを依頼しましょう。

  2. (2)二次相続を踏まえた対策も重要

    被相続人に配偶者がいる場合には、将来配偶者が死亡した場合の二次相続も含めて一次相続を考えていくことが大切です。
    一次相続では、相続税の配偶者控除を利用することによってほとんどのケースで相続税の負担をゼロにすることが可能になります。
    しかし、二次相続では配偶者控除を利用することができないため、一次相続でほとんどの財産を配偶者が相続してしまうと、二次相続での相続人の負担が非常に大きくなってしまうのです

    子どもや孫に将来大きな負担を負わせることのないように、弁護士と相談をしながら二次相続を踏まえた相続対策を考えていくようにしましょう。

5、まとめ

相続財産に不動産が含まれる場合には、遺産分割協議でトラブルが生じやすいだけでなく、相続税や譲渡所得税への対策も必要となってきます。

ベリーベスト法律事務所には弁護士のみならず税理士や司法書士も在籍しているため、不動産の相続に関して生じる税金や登記の問題についても、ワンストップで対応することができます
不動産の相続でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています