トラックドライバーの残業時間に関する規制と、未払い残業代を請求する方法を解説

2023年10月19日
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トラックドライバーの残業時間に関する規制と、未払い残業代を請求する方法を解説

千葉県が公表している毎月勤労統計調査地方調査年報(令和4年度)によると、規模5人以上の事業所における総実労働時間は127.7時間であり、そのうち所定外労働時間は9時間でした。「運輸業、郵便業」の項目では、総実労働時間が152.8時間、所定外労働時間が17.1時間となっていますので、この調査結果からも、トラックドライバーは通常の労働者よりも長時間の労働を行っていることが明らかだといえます。

長時間労働が常態化しており残業も多い職種であることから、トラックドライバーをされている方には、未払い残業代が発生している可能性があります。これまではトラックドライバーに対しては、時間外労働の上限規制の適用が猶予されていましたが、令和6年(2024年)からはトラックドライバーにも時間外労働の上限規制が適用されるようになります。

本コラムでは、トラックドライバーの残業時間に関する規制や、未払い残業代を請求する方法について、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、トラックドライバーの労働時間が長くなる理由

一般的に、トラックドライバーをはじめとする運送業は労働時間や残業時間の長い職種であるといわれています。
以下では、トラックドライバーの労働時間が長くなる理由を解説します。

  1. (1)トラックドライバーの人手不足

    運送業界は、慢性的な人手不足に悩まされています。
    運送業に携わる労働者の数が足りていないことから、いま業界にいる労働者1人あたりの負担も増加することになります。
    トラックドライバーの労働時間が長いことも、主に運送業の人員不足に起因しているといえます。

    また、長時間労働が当たり前になっていることから求職者が敬遠して人材が集まらず、人手不足がより激しくなってしまい、結果としてさらに労働時間が長くなるという悪循環に陥っている状態にあるのです。

  2. (2)ネットショッピングによる荷物量の増加

    近年では、多くの人がオンラインで買い物を行っています。

    国土交通省が公表しているデータによると、令和3年度(2021年度)の宅配便取扱個数は49億5323万個であり、前年度から1億1676万個(2.4%)の増加となりました。
    このように荷物量が年々増加しているにもかかわらず、人材が不足していることからトラックドライバー1人あたりの負担が増えて、労働時間が長くなっている状況にあります。

  3. (3)配送が道路状況に左右される

    トラックドライバーの仕事の性質上、労働時間は道路状況によって左右されてしまいます。事故や天候などの理由で渋滞が発生していると、予定通りに配達を終えることができないために、労働時間が長くなる原因となります。

    また、トラックドライバーには「荷待ち時間」があります。
    たとえば配送先の倉庫にトラックが集中してしまうと、何時間も荷待ち時間が発生してしまうこともあります。
    荷受人の都合によって労働時間が変わってしまうことも、長時間労働の原因となっているのです。

2、運送業会の労働環境

以下では、運送業界の残業時間の上限規制や賃金について、概要を解説します。

  1. (1)現時点では残業時間の上限規制はない

    労働基準法では、1日8時間、1週40時間が法定労働時間として定められています。
    使用者(企業、経営者)が労働者に対して法定労働時間を超えて残業を命じるためには、労使間で「36協定」を締結して届け出ることが必要になります。
    しかし、36協定の締結した場合にも残業は無制限ではなく、原則として月45時間、年360時間までです。
    労使が特別条項で合意をした場合にも、年720時間までとなります。

    このような残業時間の上限規制は、大企業には平成31年4月から、中小企業には令和2年4月から適用されています。
    しかし、トラックドライバー(自動車運転業務)の使用者に対してはこのような残業時間の上限規制の適用は猶予されており、現時点では法的な規制がない状態となっているのです

  2. (2)令和5年4月から月60時間超の時間外割増賃金が引き上げられた

    令和5年(2023年)4月1日からは、月60時間超の時間外労働をした場合の割増賃金率が引き上げられています。
    具体的には、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金率が25%から50%に引き上げられました

    たとえば、深夜帯(22時から翌5時)に働いて、月60時間を超える時間外労働をした場合には深夜割増賃金率25%+月60時間超の時間外割増賃金率50%=75%の割増賃金率が適用されます。
    企業には従業員に対して労働時間に応じた給料や残業代を支払う義務があるため、残業時間が長くなればなるほど、トラックドライバーが受け取ることができる賃金は増えることになります。

3、令和6年(2024年)から運送業界にも残業時間の上限が設けられる

現時点では、トラックドライバーに対しては、時間外労働の上限規制の適用は猶予されています。
しかし、あくまでも「猶予」であるため、猶予期間が終われば、トラックドライバーに対しても残業時間の上限規制が適用されることになります。

実際に運送業界にも残業時間の上限規制が設けられるのは、令和6年(2024年)4月1日からとなります
具体的には、一般の労働者と同じように、トラックドライバーの残業時間の上限も月45時間、年360時間までとなります。
臨時的な特別の事情がある場合は、労使が特別条項で合意をすれば、以下の範囲内で残業が可能となります。

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働および休日労働の合計が月100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計が2~6か月平均で1月あたり80時間以内
  • 時間外労働が月45時間を超えるのは年6か月まで


なお、上記の残業時間の上限規制に違反した使用者には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

4、トラックドライバーの残業代が未払いになる場合

トラックドライバーは残業時間が多いため、残業代が未払いになっている可能性もあります。
以下のような場合には、たとえ会社から「残業代は出ない」と言われたとしても残業代が発生している可能性があるため、弁護士に依頼したうえで未払い残業代の請求を検討しましょう。

  1. (1)手待ち時間が労働時間に含まれていない

    「手待ち時間」とは、作業には従事していないものの、会社から待機することを義務付けられている時間のことをいいます。
    トラックドライバーの場合には、荷主や物流施設の都合により荷降ろし作業が開始するまで待機している時間が、主な手待ち時間といえるでしょう。

    手待ち時間には実際の作業を行っていないことから、会社側が「労働時間には該当しない」という主張することもあります。
    しかし、判例では、労働時間は「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」として定義されています。
    そして、手待ち時間は、実際に作業をしていないものの指示があればすぐに作業を開始できるように待機している状態であるため、労働時間に含まれると見なされるのです。

    したがって、手待ち時間が労働時間から除外されている場合には、未払いの残業代が発生している可能性があります

  2. (2)固定残業代以外に残業代が支払われていない

    固定残業代制度とは、あらかじめ想定される残業時間に相当する残業代を実際の残業時間にかかわらず支払う制度です。

    固定残業代制度が採用されている会社では、使用者が「固定残業代が支払われているから、それ以上の残業代は支払わない」と主張することがあります。
    しかし、固定残業代制度を採用していたとしても、想定される残業時間を超えて働いた場合には、固定残業代とは別に残業代を支払わなければなりません
    したがって、固定残業代以外に残業代が支払われていないという場合には、未払いの残業代が発生している可能性があります。

5、未払い残業代を請求するなら弁護士に相談

未払い残業代の請求を検討されているトラックドライバーの方は、まずは弁護士にご相談ください。

  1. (1)複雑な残業代計算を任せることができる

    運送会社に対して残業代請求をする前提として、まずは、証拠をもとに残業代の金額を計算する必要があります。

    残業代の金額は、時間外労働や深夜労働、休日労働などの条件によって割増賃金率が異なり、時間外労働が月60時間を超えた場合にも割増率が変わってきます。
    このように複雑な金額計算をご自身で行うことは困難であるため、専門家である弁護士に計算を依頼してください。
    また、弁護士に依頼をすれば、残業代計の算に必要となる証拠の収集についてもサポートを得ることができます

  2. (2)会社との対応を任せることができる

    残業代請求をする場合には、まずは、会社(使用者)との交渉により未払いの残業代の支払いを求めていくことになります。
    しかし、会社と労働者とでは、圧倒的に労働者のほうが不利な立場にあり、対等な立場で適切に話し合いを進めていくことは困難です。

    会社と対等以上の立場で交渉をするために、会社への対応は弁護士にお任せください。
    弁護士であれば、法的観点から未払い残業代の存在を指摘して、支払いを求めていくことが可能です。
    労働者本人が対応を行う必要もほとんどなくなるため、精神的・金銭的な負担も大幅に軽減されるでしょう

    また、いくら交渉しても会社が残業代を支払おうとしない場合には、労働審判や裁判によって未払いの残業代の支払いを求めていくことが可能です。
    審判や裁判の手続きを進める際にも法律の専門知識は必要になるため、弁護士に任せてください。

6、まとめ

トラックドライバーは労働時間も長く過酷な業種ですが、令和6年4月1日からは、トラックドライバーにも残業時間の上限規制が適用されることになります。
これまでは長時間労働が当たり前だった労働環境についても、改善が期待されるでしょう。

現状では長時間労働が常態化しているため、トラックドライバーとして働かれている方には未払い残業代が発生している可能性があります。
未払い残業代の金額の計算や、会社に対する請求は、ベリーベスト法律事務所にお任せください

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