地方公務員も残業代がもらえる? 計算方法や相談すべき窓口とは
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地方公務員の方であっても、公立学校で働く教職員の方を除けば、原則として残業代(残業手当、超過勤務手当)を請求することができます。
本コラムでお伝えすることは、大きく以下の2つです。
・地方公務員の残業代請求が認められる場合と認められない場合
・残業代を計算する具体的な方法
ご自身の残業代について気になっている地方公務員の方に向けて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、地方公務員の残業の実態
平成27年度に行われた総務省の調査・回答によると、同年中における地方公務員の時間外勤務の時間数は、年間平均158.4時間でした。
本庁勤務の年間平均は219.6時間、出先機関等の年間平均は118.8時間で、本庁勤務のほうが長時間労働となる傾向にあります。
また、時間外勤務手当の割増対象となる「月間60時間残業」を超えた職員の割合は、全体で2.8%でした。
本庁勤務では5.4%、出先機関等では1.2%と、こちらも本庁勤務の方が高い割合を示しています。
このように、一般の会社員などと同様に地方公務員もある程度の残業を行っていることは、データによって示されているのです。
2、地方公務員は残業代を請求できるのか?
地方公務員の方は、「地方公務員法」など、一般の会社員とは異なる法律によってその立場や働き方などが規律されています。
そのため、労働者としての自身の権利を正確には把握されておらず、「地方公務員は残業代を請求できない」と誤解されている方もおられるのです。
結論から申しますと、地方公務員であっても、基本的には残業代を請求することが可能です。
しかし、一部の地方公務員については、例外的に残業代請求が認められていません。
以下では、残業代請求が認められる場合と認められない場合について、それぞれ整理いたします。
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(1)地方公務員も、原則として残業代を請求可能
一般職の地方公務員に対しては、労働基準法第37条に定められる残業代の支払い義務に関する規定は適用されません(地方公務員法第58条第3項)。
これは、地方公務員の勤務条件については、各地方公共団体が定める条例によって定めるものとされているためです(同法第24条第5項)。
したがって、地方公務員が残業代を請求できるかどうかを知るには、該当する地方公共団体の条例を確認する必要があります。
千葉県船橋市の場合には、「一般職の職員の給与に関する条例」第23条から第25条によって「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「夜間勤務手当」の支給に関する規律がそれぞれに定められています。
これらは、労働基準法上の「時間外労働手当」「休日手当」「深夜手当」に、それぞれが相当します。
つまり、船橋市では、地方公務員に対しても、労働基準法で労働者に保障されている水準と同等以上の残業代が保障されているのです。
この考え方は、その他の地方公共団体においても、基本的に同様となります。
地方公務員法第25条第3項第4号でも、給与に関する条例は「時間外勤務手当、夜間手当および休日勤務手当に関する事項」を規定するものとされており、残業代の支給が当然に予定されていると読み取ることができるのです。
したがって、一般職の地方公務員も、一般の会社員などと同様に、残業代を請求する権利を有するといえます。
ただし、特別職の地方公務員については、原則として地方公務員法が適用されません(同法第4条第2項)。
そのため、地方公共団体に雇用されている特別職の地方公務員は、労働基準法に基づいて残業代が支給されることになるのです。 -
(2)公立学校の教員などは、例外的に残業代を請求できない
地方公務員のなかでも、公立学校の「教育職員」については、時間外勤務手当と休日勤務手当を請求できないことになっています(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法第3条第2項)。
<「教育職員」の定義>
義務教育諸学校等※に所属する、以下のいずれかに該当する者- 校長(園長を含む)
- 副校長
- 教頭
- 主幹教諭
- 指導教諭
- 教諭
- 養護教諭
- 栄養教諭
- 助教諭
- 養護助教諭
- 講師(常勤勤務の者および定年退職者等である短時間勤務者に限る)
- 実習助手
- 寄宿舎指導員
※義務教育諸学校等:公立である以下の学校等をいいます。- 小学校
- 中学校
- 義務教育学校
- 高等学校
- 中等教育学校
- 特別支援学校
- 幼稚園
上記の教育職員に該当する地方公務員は、現行法の規定では、夜間勤務手当(深夜手当)を除いて残業代を請求できません。
ただし、公立学校の教諭などの長時間労働に対しては、社会的な批判が高まっている状況にあります。
そのため、教諭などに対する時間外勤務手当や休日勤務手当の不支給に関する規定は、今後、見直される可能性もあるでしょう。
3、地方公務員の残業代計算方法|船橋市の条例を基に解説
前述のとおり、地方公務員の残業代を含む労働条件については、各地方公共団体の条例によって定められます。
そのため、残業代の金額を正確に計算するためには、該当する地方公共団体の条例を正しく読み解くことが大切になります。
以下では、船橋市の条例を基に、地方公務員の残業代を計算する方法を解説します。
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(1)勤務1時間当たりの給与額を求める
「一般職の職員の給与に関する条例」第23条から第25条では、時間外勤務手当・休日勤務手当・夜間勤務手当を、それぞれ以下の計算式によって計算するものと定めています。
各種手当(残業代)=勤務1時間当たりの給与額×残業時間数×割増率
したがって、まずは「勤務1時間当たりの給与額」を求める必要があります。
「勤務1時間当たりの給与額」の求め方は、同条例第25条の3に基づき、以下のとおり定められています。勤務1時間当たりの給与額=(給料の月額+地域手当の月額)×12÷(1週間当たりの勤務時間×52 -
(2)残業代の総額を計算する
勤務1時間当たりの給与額が計算できたら、時間外勤務手当・休日勤務手当・夜間勤務手当の各時間数および割増賃金率をもとにして、残業代の総額を計算しましょう。
各手当の割増賃金率は、以下のとおりです。時間外勤務手当 25%(月60時間を超える部分については50%) 休日勤務手当 35% 夜間勤務手当 25%
4、地方公務員が残業代を請求するには弁護士へ相談を
地方公務員の大多数を占める一般職の方は、残業代請求に関して労働基準法の適用を受けないため、請求について労働基準監督署に相談することができません。
また、地方公務員の方の場合、残業代請求の相手方が地方公共団体になるため、一般の会社と対峙(たいじ)する場合と比べても慎重な対応を迫られることになるでしょう。
残業代請求を行うことを検討している地方公務員の方は、弁護士に相談することも可能です。
弁護士にご相談いただければ、残業の証拠を確保することに始まり、地方公共団体との残業代支払い交渉や訴訟手続きに至るまで、請求に必要な手続きの大部分を代行することができます。
5、まとめ
地方公務員であっても、地方公共団体の条例等に基づき、一般の会社員などと同様に、残業代を請求する権利を有します。
しかし、労働基準監督署に相談できないことや、請求の相手方が地方公共団体という特殊な組織になることなどから、一般の会社員による残業代請求とは異なる対応が求められる点に注意が必要です。
「常態的にサービス残業を強いられワークライフバランスが崩れてしまった」「残業代が正しく支払われているかどうかわからない」など、労働に関するお悩みを抱えられている地方公務員の方は、弁護士への相談も検討しましょう。
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