退職勧奨に対して条件交渉は可能? 提示できる条件や交渉時の注意点
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2022年度に千葉県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は5万4459件で、そのうち退職勧奨に関するものは844件でした。
会社から退職勧奨を受けたとしても、それに応じるかどうかは任意です。提示された退職条件に納得できなければ、退職金の増額などの条件交渉を行いましょう。退職に関する条件交渉は、弁護士に依頼することをおすすめします。
本コラムでは、退職勧奨を受けた際の条件交渉について、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、退職勧奨に対しては条件交渉が可能
「退職勧奨」とは、会社が労働者(従業員)に対して退職を促すことをいいます。一方的な解雇は厳しく規制されているため、トラブルを避ける観点から退職勧奨を行うケースがあります。
退職勧奨を受けた労働者が、それに応じるかどうかは自由です。会社側が提示する退職条件に納得できなければ、退職を拒否することもできます。
また、退職に応じる代わりに、退職条件を労働者にとって有利に変更するよう交渉することも可能です。好条件であれば退職してもよいと考える場合は、会社に対して退職条件の交渉を持ち掛けましょう。
2、退職勧奨に対して交渉できる主な退職条件
退職勧奨を受けた際に、交渉材料となり得る退職条件としては、主に以下の例が挙げられます。
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(1)退職金の増額
退職金の額は、交渉の対象となることがもっとも多い退職条件のひとつです。
会社のルールに従うと、本来は退職金が支払われない場合でも、交渉次第で会社が退職金の支払いに応じることがあります。また、支給が見込まれる退職金額の増額を求めて交渉することも可能です。
退職勧奨を受け入れる際の退職金額は、給与の2か月分から6か月程度が標準的です。会社の提示額が少なすぎる場合は、増額を求めて交渉しましょう。 -
(2)就労なしでの在籍
就労せずに、一定期間の在籍継続を求めることも考えられます。
退職予定の会社で在籍を継続するメリットは、求職活動による空白期間がなくなることです。会社に在籍しながら転職先を探せば、切れ目なく転職することができ、履歴書の見栄えが良くなります。
また、在籍を継続する期間については給与を受け取ることができるので、基本給が保障される点も大きなメリットです。
具体的な在籍継続期間や、その間の給与額などについては、会社と交渉して決めましょう。 -
(3)賞与の支給
退職する前に賞与の支給を求めることも考えられます。退職金の増額と似た交渉の仕方ですが、特に賞与の支給が間近に迫っている場合は、会社に対する合理的な説得材料になり得るでしょう。
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(4)有給休暇の買い取り
会社に対して、残っている有給休暇の買い取りを求めることも考えられます。
会社としては、有給休暇を買い取る法律上の義務はありません。退職時に残っている有給休暇は消滅するのが原則です。
しかし、会社が対象従業員を早く退職させたいと考えている場合は、早期に退職するのであれば有給休暇の買い取りに応じる可能性が高いと考えられます。買い取りを拒否しても、労働者に有給休暇の取得を申請されれば認めざるを得ず、雇用期間が長引くからです。
会社に早期退職を求められた場合には、有給休暇の買い取りについて交渉してみましょう。 -
(5)再就職先のあっせん
退職勧奨に応じる場合、労働者は再就職先が見つかるかどうか不安に感じるケースが多いでしょう。その場合は、会社に対して再就職先のあっせんを依頼することが有力な選択肢となります。
会社としては、自社で雇用を継続することは難しいものの、関連会社や取引のある会社などの紹介は可能な場合があります。再就職先をあっせんすれば、労働者にとって退職のハードルがひとつ解消されるので、会社側も協力してくれるケースが多いでしょう。
3、退職に関する条件交渉を行う際の注意点
退職勧奨を受けて、退職に関する条件交渉を行う際には、特に以下の各点に注意しましょう。
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(1)退職日は最後に決定する
会社に対して退職日を確約するのは、退職に関する条件交渉がすべて完了し、納得できる条件提示が得られてからにしましょう。
退職日をあらかじめ決めてしまうと、退職条件の交渉期間が限定されてしまい、労働者にとって不利に働くケースが多いです。
労働者には本来、退職に応じる義務はありません。つまり、退職条件に納得できなければ、いつまでも会社に在籍し続けてよいのです。
自ら交渉期間を狭めてしまうことがないように、退職日は最後に決定しましょう。退職届についても、すべての条件交渉が完了した後で提出しましょう。 -
(2)決まった条件をまとめた退職合意書を締結する
会社との間で退職条件について合意したら、その内容をまとめた退職合意書を作成・締結しましょう。
退職合意書を作成しないと、退職条件に関する合意内容が曖昧になり、会社との間でトラブルに発展するリスクが上がります。
特に、退職金などが未精算の状態で退職する場合は、後日支払う約束だったとしても「合意はなかった」などと言われて、支払いを受けられないようなトラブルが懸念されるところです。
合意した退職条件を確実に享受するためにも、必ず退職合意書を作成・締結しましょう。 -
(3)納得できなければ退職合意書にサインしない
労働者が退職するかどうかは任意であり、会社側が提示する退職条件に納得できなければ、退職合意書にサインする必要はありません。
退職合意書にサインした場合、原則として後から撤回することはできない点に注意が必要です。退職条件については細部まで交渉した上で、そのすべてに納得した場合に初めて退職合意書へサインしましょう。
なお、会社から退職合意書へのサインを無理強いされた場合は、違法な退職強要に当たる可能性がありますので、弁護士にご相談ください。 -
(4)退職の意思がある場合は、無理な条件を提示しない
条件次第では退職勧奨に応じる意思がある場合は、会社側の提案に対して無理な退職条件を提示することは避けた方がよいでしょう。会社側が退職勧奨を取り下げる可能性があるからです。
退職勧奨が取り下げられてしまうと、その後は退職条件の交渉を行うことはできません。自ら退職することはできますが、その場合は退職金の増額など、好条件での退職は望めなくなります。
退職勧奨に応じて好条件で退職するには、会社側が受け入れられるぎりぎりのラインを見極めて条件交渉を行うのがポイントです。弁護士のアドバイスを受けながら、合理的と思われる内容の退職条件を提示しましょう。
4、退職交渉を弁護士に依頼するメリット
退職勧奨を受けた際には、退職に関する条件交渉を弁護士にご依頼ください。
退職条件の交渉を弁護士に依頼することの主なメリットは、以下のとおりです。
退職条件の交渉に関する会社側とのやり取りを弁護士に一任できるため、時間・労力・ストレスが大幅に軽減されます。
② 不当な取り扱いを受けにくい
弁護士が代理人として交渉すれば、退職を無理強いされたり、退職勧奨と並行してハラスメントを受けたりするなど、会社側から不当な取り扱いを受けるリスクが低くなります。
③ 有利な退職条件の提示が期待できる
弁護士が法的な観点を踏まえて交渉することで、会社側から有利な退職条件の提示を受けられる可能性が高まります。
④ 未払い残業代などがあれば一緒に請求できる
退職条件の交渉と併せて、未払い残業代の請求なども弁護士に依頼できます。
5、まとめ
退職勧奨に応じるかどうかは労働者の任意であり、会社が提示する退職条件に納得できない場合は条件交渉が可能です。退職を受け入れる場合は、弁護士に依頼して好条件での退職を目指しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、会社とのトラブルに関する労働者のご相談を随時受け付けております。会社から退職勧奨を受けてしまい、どのように対応すべきかお困りの方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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