官報の個人情報がネットに転載されたとき、損害賠償を請求する方法

2019年09月19日
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官報の個人情報がネットに転載されたとき、損害賠償を請求する方法

平成31年3月、官報に掲載された自己破産者情報を地図上で容易に視覚化できるようにしたサイト「破産者マップ」が、行政指導や弁護団の設立もあり閉鎖に追い込まれました。

このサイトに限らず官報の個人情報を2次利用され、何らかの被害に遭っているというケースがあるかもしれません。国の広報誌である官報の情報を無制限に転載しても罪に問われないのか、気になる方がいらっしゃるでしょう。

今回は、官報の破産者情報を転載されたケースを想定し、削除を依頼できるどうかから、転載により該当し得る罪や罰、対処法を、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、官報とは

官報とは公的な情報の伝達を目的とした内閣府が発行する新聞のようなものです。行政機関の休日を除きほぼ毎日発行されています。

官報には、次のような情報が掲載されています。

  • 法律、政令、条例など国政上の重要事項
  • 会社の決算公告
  • 国家試験合格者
  • 自己破産や個人再生をした者の氏名、住所
  • 士業の懲戒処分関係


本紙は32ページ建てとなっていますが、掲載量は日々変動し、掲載しきれない分は号外や特別号外が発行されることもあります。直近30日分はインターネットで無料公開されています。

官報はWeb版や図書館などにもあるため、誰でも閲覧することが可能です。しかし、よほどの目的や意図がなければあえて読む方はほとんどいないでしょう。そもそも一般の方が通常興味を抱きやすいとは言い難い内容ですし、過去の分に関しては販売所で購入するか図書館で閲覧するなど、手段が限定されます。

実際に、閲覧者は一部の人に限られています。信用情報機関や金融機関などの事業者、自治体の税担当者、闇金業者、弁護士など、仕事上必要に迫られて目を通すケースがほとんどです。

2、官報掲載の個人情報をWeb上に転載して問われる罪

官報に公開されている個人情報をWeb上に転載されてしまった場合、次のような法的問題が生じます。

  1. (1)プライバシーの侵害

    破産した事実は知られたくない情報と考える方が多いでしょう。それをWeb上で公開され、ほぼ永久的に知られ得る状況に置かれることは、本人に多大な不安や不快を与えることが容易に想像できます。よってプライバシーの侵害にあたる可能性が高いです。

    そもそも官報に破産者情報が掲載されていることは、破産の利害関係者に対して、裁判の告知、書面の送付などを速やかにかつ経済的に実施するためのものです。債権者は免責許可の決定に対して不服申し立てができますが、その期間が官報掲載から2週間ということもあり掲載されているという背景があります。

    その目的を果たした以上、破産者情報は公に知られる必要のない情報です。たとえ国の広報誌からの転載であっても無制限な公開が許されるものではありません。

    プライバシーの侵害に関して刑法上規定する罪はありませんが、不法行為に該当し、民事上の損害賠償請求の対象となり得ます。

  2. (2)名誉毀損(きそん)罪

    破産者情報が2次利用された場合、その態様によっては、名誉毀損にあたり得ます。

    名誉毀損に該当すると認められれば、民事上の損害賠償請求の対象になり得ます。刑法第230条の名誉毀損罪にも該当し得、有罪となれば「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」に処されます。

    なお、例外的に、特定の事実について公共性や公益性があり、その他の要件も満たされるのであれば名誉毀損およびプライバシー侵害に該当しないことがあります。個別の事案によるものの、官報の個人情報を一個人や事業者が転載することに公共性や公益性があるとは認められない可能性が高いです。

  3. (3)個人情報保護法違反

    個人情報保護法違反にも該当する可能性があります。個人情報保護法第2条では「個人情報」を、生存する個人の情報であって特定の個人を認識できるものである旨を定めています。破産者の氏名や住所は個人を特定できる情報であり、個人情報と考えてさしつかえないでしょう。

    同条では個人情報取扱事業者を「個人情報データベース等を事業の用に供している者」と定めていますが、これは必ずしも営利事業の経営者や法人格をもつ者に限定されるものではありません。よって、Webサイトやブログを運営する個人でも、該当し得ることになります。

    また、同法第18条では、個人情報取扱業者は個人情報の利用目的を公開し、あるいは本人へ通知する旨定めています。これに対し個人情報保護委員会は、指導および助言、中止や必要な措置を取る旨の勧告、命令をすることができます。(同法第41条、第42条)命令に違反すると「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処されます。(同法第84条)

    また、23条では個人データの第三者提供に関して、一定の場合には本人の同意が不要としていますが、官報の個人情報を転載することは除外事由に該当しません。

    なお、いわゆる名簿業者と呼ばれ、破産者チェックプログラムなるものを販売している業者がいます。企業が採用者情報調査などで用いるためのプログラムです。これについては、平成29年5月の改正個人情報保護法施行に従い、個人情報保護委員会へオプトアウト届出書を提出していると考えられます。正当な手続きを踏んだうえで販売していれば違法ではありません。

3、転載された個人情報を削除してもらう方法は?

転載された情報の削除を希望される場合、主には次の方法があります。

①メールやウェブフォームからの削除依頼
転載されたサイトのガイドラインを確認し、記載されたルールに従って削除を要請する方法です。

あくまでも任意ですので、なかなか応じてもらえないのが現状です。

②送信防止措置依頼
プロバイダ責任制限法にもとづく送信防止措置の請求です。サイト管理者やプロバイダに対して削除依頼書を送付し、発信者に確認のうえ反論がなければ削除されます。

こちらも任意ですので応じてもらえることは難しくなります。

③裁判手続きによる削除要請
裁判所に記事の削除を求める仮処分の申し立てをおこない、削除させることも可能です。サイト管理者に発信者情報を開示させる仮処分を申し立て、発信者を特定したうえで損害賠償請求する方法もあります。

裁判所が認めれば相手は従わざるを得ませんので、削除の実現性が高い方法です。

いずれの方法もご自身でおこなうことができますが、削除要請にあたり、侵害された権利や侵害されたとする理由の記載、根拠資料の提出が必要となり、法的な知識と論理的な説明力が求められます。

裁判手続きに関しては一般の方が滞りなくおこなうことは容易ではなく、時間と労力、費用がかかります。多大な労力を割いたとしても、思うような結果にならないリスクが高いです。

削除要請後に損害賠償請求などを検討されているのであればなおさら、個人で行うことは難しいため、弁護士へ依頼を検討された方がよいでしょう。

4、まとめ

今回は、官報に掲載された破産者情報の2次利用について、該当する罪や対処法を中心に解説しました。

ごく一部の人しか閲覧することのない官報の情報と、誰もが容易に閲覧でき、すさまじいスピードで拡散するWeb上の情報とは、根本的に性質が異なります。刑事罰や損害賠償請求の対象となるケースがありますので、ご自身の情報が転載されてしまったら対応を検討しましょう。

とはいえ、法律の知識が必要で、一般の方がひとりで対応することは相当に難しいことです。Webの拡散力を考えると早い段階で弁護士へ相談されることが賢明です。ベリーベスト法律事務所・船橋オフィスの弁護士も尽力します。個人情報の2次利用でお困りであればご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています