歩行者による信号無視|逮捕の可能性や、過失割合について解説

2023年08月31日
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歩行者による信号無視|逮捕の可能性や、過失割合について解説

2021年(令和3年)9月、高知市内にて赤信号を無視して横断歩道を歩行したために原付きバイクと接触して運転手にケガをさせた男性が、高知県警によって書類送検されました。
商業都市として栄えている船橋市でも行政は交通事故の防止に積極的に取り組んでおり、歩行者による「ながらスマホ」などについて注意喚起を行っています。

交通事故で自転車や自動車ではなく歩行者の側が逮捕されたり罰されたりすることはまれですが、赤信号を横断するなどの危険な行為をした場合には、過失相殺が行われて請求できる損賠賠償金の金額が少なくなったり刑法の重過失致死傷罪に問われたりする可能性もあることを理解しておきましょう。
本コラムでは、歩行者に課されている道路交通法上の規制や交通事故において歩行者が罪に問われるケース、逮捕や書類送検された場合の対処法などについて、べリーベスト法律事務所船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、歩行者と道路交通法違反

道路交通法には、車両の運転手に対して歩行者との側方間隔の保持(第18条2項)や横断歩道のない交差点での歩行者優先(第38条の2)など、さまざまな歩行者保護の規定を設けています。

しかし、実は歩行者にも道路を通行する際には、自動車・バイクなどの車両や自転車と同じように守るべきルールが定められています。

歩行者が守るべきルールには、次のようなものが挙げられます。

  • 信号に従う(第7条)
  • 歩道がない道路では右側通行(第10条1項)
  • 歩道(歩道または路側帯)を通行する(第10条2項)
  • 横断歩道を渡る(第12条1項)
  • 斜め横断禁止(第12条2項)
  • 車の直前直後の横断禁止(第13条1項)
  • 横断禁止場所での横断禁止(第13条2項)
  • 泥酔歩行の禁止(第76条4項)など

いずれも当たり前かと思われるかもしれませんが、きちんと法律で定められているルールなのです。

2、歩行者の過失と罪

最近は歩行者が信号無視をしたり、横断歩道のない場所を横断したりする「乱横断」が問題となっています。

歩行者が信号無視をした場合、道路交通法では「2万円以下の罰金または科料」という罰則が定められています。しかし、車両のように歩行者が交通違反切符を切られることはほぼありません。警察官に見つかっても厳重注意程度で済む場合がほとんどです。

しかし、警察庁の統計によると歩行中・自転車乗用中の死亡事故原因の約3分の2が信号無視などの法令違反によるものであることがわかっています。そのため、警察は今後、歩行者の乱横断の防止に取り組む方針を示しているのです。

交通事故が発生した場合、もっとも過失や受傷の程度が重い当事者を「第1当事者」と呼びますが、交通弱者とされる歩行者が第1当事者となる場合もあります。信号無視などで事故を引き起こし、相手の運転手や同乗者、他の歩行者にケガを負わせたり、死亡させたりした場合は、立件されて罪に問われる可能性もあることを忘れてはなりません。

平成31年1月、静岡では交差点で歩行者とバイクが衝突し、バイクの運転手が転倒して死亡し、歩行者も重傷を負うという交通事故が発生しました。警察は、目撃者からの情報などをもとに、事故の主な原因は酒に酔っていた歩行者の信号無視であると判断し、退院後の6月3日に歩行者の男性を重過失致死罪の疑いで書類送検したという報道がありました。

平成30年11月には福岡でも、信号無視をして道路を横断した歩行者がバイクと接触し、バイクの運転手が重傷を負うという事故が発生しています。後日、歩行者は重過失傷害罪で書類送検されています。

身柄の拘束を受ける「逮捕」こそされることはなくても、送致され、場合によっては起訴されてしまうことはあり得るということです。

また、信号無視の歩行者と自動車による交通事故の基本過失割合は「歩行者7:運転者3」と、歩行者に不利なものになります。たとえ、歩行者が負傷していたとしても受け取れる損害賠償金額はとても低くなることは間違いありません。相手側の被害の程度によっては、損害賠償を請求される可能性は十分にあります。

3、歩行者が逮捕される可能性

歩行者が交通ルールを無視したことによって事故が引き起こされた場合、逮捕される可能性があるかどうか、ここでは逮捕の流れと共に説明していきます。

  1. (1)身柄事件と在宅事件

    逮捕とは、容疑者の身柄を拘束し警察署の留置所などに留め置くことです。通常の刑事事件では、容疑者が犯行現場で身柄を拘束される現行犯逮捕か、逮捕状を裁判所に請求して身柄を拘束される通常逮捕となります。

    交通事故では、ひき逃げなどのケースを除き、ほとんどの場合事故を起こした者は事故現場で警察に身柄を確保されます。逮捕の要件には、その罪を犯したとじゅうぶんに疑われるという「嫌疑の相当性」と、逃亡や証拠隠滅の恐れがあるという「逮捕の必要性」があります。また、逮捕されて留置されながら取り調べを受ける事件を「身柄事件」、逮捕されずに呼び出しに応じて取り調べを受ける事件を「在宅事件」と呼びます。

    交通事故の逮捕の基準は明確になっていません。しかし、交通事故を起こしたことが明らかであっても、逃亡や証拠隠滅の恐れがなく、身元引受人がいる場合は、逮捕されて拘束を受ける「身柄事件」ではなく、在宅事件として扱われる可能性が高いでしょう。在宅事件扱いとなれば、警察や検察の呼び出しに応じて足を運び、取り調べを受けることになります。

  2. (2)逮捕後の流れ

    逮捕後、警察は48時間以内に検察に送致するか、釈放するかを決定します。検察に送致された場合、検察がさらに捜査が必要だと判断したときは、24時間以内に裁判所に勾留請求をします。逮捕は行わず身柄を拘束していない状態で、事件を検察へ送致することを、新聞などでは「書類送検」と表現されます。

    勾留請求が認められれば10日間勾留されます。さらなる捜査の必要性が認められれば10日間の延長が認められ、最大20日間拘束されます。勾留の必要がないと判断された場合は、釈放され在宅事件として扱われます。

  3. (3)歩行者の信号無視と逮捕の可能性

    静岡のバイク死亡事故では歩行者が負傷していたこともあり、在宅事件として扱われ、退院後に書類送検されました。歩行者が負傷していている場合は、逃亡の恐れが少ないため逮捕される可能性は低いと考えられます。

    しかし、加害者側が負傷しておらず、前述したように逃亡の恐れがあったり、重大な人身事故であったりした場合は、たとえ歩行者であっても逮捕される可能性はあります。

4、交通事故を起こした場合は速やかに弁護士へ相談を!

信号無視などの交通違反が原因で事故を引き起こした場合は、すぐに弁護士に相談しましょう。逮捕されて検察に送致され勾留が決定した場合は、最大23日間も身柄を拘束され続けることになり、仕事や家庭生活に大きな影響を及ぼす可能性は否定できません。

また、歩行者が交通事故の第1当事者として逮捕・書類送検されるとしたら、重過失致死罪または重過失傷害罪になる可能性もあります。刑法第211条では、重大な過失により人間を死傷させた者を「5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処する」と定めています。過失傷害罪の「30万円以下の罰金または科料」や過失致死罪の「50万円以下の罰金」と比べても、非常に重い罰となっています。

交通事故や刑事事件に対応した知見豊かな弁護士であれば、取り調べに対する適切なアドバイスをしたり、意見書を提出したりして、早期釈放や不起訴処分に向けて警察・検察と交渉し、前科が付かないように善処することが可能です。

また、被害者のケガの程度によっては、検察の処分決定までに示談がまとまれば、不起訴処分となる可能性も高くなります。当人同士の交渉は、さらなるトラブルを引き起こしてしまうケースもありますが、弁護士が介入することによって被害者との示談をスムーズに進められる可能性もでてきます。

5、まとめ

今回は、歩行者でも交通事故の過失が問われる可能性について解説しました。最近は、交通事故の原因をつくった加害者に対する社会の目が一層厳しくなっており、警察の取り締まりも強化されています。

たとえ、交通弱者とされる歩行者であっても、信号無視などの交通違反により死傷事故が誘発された場合は、立件されて罰せられる可能性も高くなることを知っておきましょう。もちろん、損害を賠償する義務があることも忘れてはなりません。

ご本人だけでなく、ご家族や知り合いが交通事故を起こしてしまった場合は、ベリーベスト法律事務所船橋オフィスに早急にご相談ください。船橋オフィスの弁護士が早期釈放や処分軽減に向けて全力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています