異性のトイレに入って建造物侵入罪で逮捕された|有罪判決を回避するための対応
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令和4年12月、船橋市内の県立高校の女子トイレに侵入した容疑で20代の男が逮捕されました。
また、平成29年にも、小学校の敷地内に設置されている女子トイレに侵入して女子児童を盗撮した容疑で非常勤職員が略式起訴された事件が船橋市で起きています。
これらの事例のように、男性が女性のトイレに入って逮捕や検挙される事例は多々あります。本コラムでは、異性のトイレに入った場合に問われる罪や逮捕後の流れについて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、異性のトイレに侵入したら罪になる? 緊急時でも犯罪になるのか?
まずは、異性のトイレに侵入する行為はどのような犯罪に問われるかについて解説します。
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(1)建造物侵入罪が成立する可能性が高い
法律上、異性のトイレに立ち入る行為は刑法第130条の「建造物侵入罪」が成立する可能性が高いといえます。
建造物侵入罪は、正当な理由がないのに他人が管理する建造物などに侵入した者を罰するための罪状です。
通常、商業施設や公共施設、店舗などに設置されているトイレのうち男女の区別があるものは、「指定された性別の人だけが使用する」ものとして施設や店舗の管理者が使用を許可している、ということになります。
逆にいえば、異性のトイレに立ち入る行為は、管理者が許可していない行為です。
管理者の意思に反して立ち入る行為は「侵入」ととらえられるため、建造物侵入罪による処罰の対象になるのです。
建造物侵入罪には、3年以下の懲役または10万円以下の罰金が定められています。 -
(2)緊急時でも犯罪になるのか?
建造物侵入罪は「正当な理由」がない侵入を罰する犯罪です。
たとえば、空き巣などの窃盗目的、盗撮や痴漢などのわいせつ目的、特定の異性をねらったストーカー行為などの目的がある場合は、当然「正当な理由」があるとはいえないでしょう。
しかし、盗撮や痴漢などの目的ではなく「トイレに行ったところ、女性用トイレしか設置されていなかった」「急な便意をもよおしてトイレに駆け込んだが、男性用トイレが混雑していた」といった理由から男性が女性用トイレを使用する、というケースも想定できるでしょう。
女性用トイレを使用しなければ尿意・便意に耐えられない状況なら排泄物によって自分の衣服や施設を汚してしまうことになるので、財産保護の観点から、刑法第37条1項の「緊急避難」が認められる可能性があります。
基本的に、緊急避難が認められる場合の行為は罰されないので、建造物侵入罪には問われません。
もっとも、背景にどのような事情があっても、管理者の承諾を得ずに使用したなら「不法な目的で侵入したのかもしれない」という疑いをかけられてしまうおそれがあります。
仕方がない事情があったとはいえ、異性用のトイレを使用してしまったなら、後からでも事情を管理者に説明したほうがよいでしょう。
また、男性用・女性用の区別があるのに誤って異性用のトイレに立ち入ってしまった場合は、建造物侵入罪の「故意」が認められないので、基本的には、処罰されません。
しかし、「間違った」と説明するだけでは疑いが晴れず、管理者などとトラブルになるおそれもある点には注意してください。
2、不法な目的で侵入したら別の犯罪も成立する可能性がある
建造物侵入罪は、不法な侵入行為を罰する犯罪です。
ただし、不法な目的をもって侵入した場合は、侵入だけでなく別の犯罪も成立する可能性があります。
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(1)建造物侵入罪は「手段」になりやすい
たとえば「異性のトイレに入る」という行為をはたらくこと自体が何らかの利益になるケースは珍しいでしょう。
衣服を着けていないところを盗撮する、のぞき見る、あるいはひとりきりの異性をねらってわいせつな行為をするといった目的があるからこそ、侵入するのだと考えられます。
建造物侵入罪は、ほかの犯罪を目的とした「手段」になりやすい犯罪です。
このように、犯罪の「手段」と「結果」にあたる関係にある犯罪のことを「牽連犯(けんれんはん)」といいます。
牽連犯の典型例は「空き巣」です。
空き巣とは留守宅に侵入して金品などを盗む行為であり、家屋への「侵入」と財産の「窃盗」が結び付いた犯罪といえます。
牽連犯の関係にある犯罪では、複数の犯罪のうち、法定刑がもっとも重いひとつの犯罪だけで罪を問われることになります。 -
(2)盗撮目的だと迷惑防止条例違反にも問われる
「盗撮」は、異性のトイレに侵入する目的の典型例といえます。
盗撮は都道府県の「迷惑防止条例」によって規制される行為であり、千葉県でも「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」第3条の2第1号において、盗撮行為が禁止されています。
本条では、盗撮行為が禁止される要件について「浴場・更衣室・便所など、人が通常は衣服の全部または一部を着けない状態でいる場所」と明示しているため、異性・同性にかかわらず、トイレにおける盗撮行為は犯罪となります。
条例に違反して盗撮した者には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
また、多数の余罪が発覚するなど「常習」と認められた場合には、2年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
もし実際には撮影するまでに至っていなくても、盗撮の目的をもってカメラを向けたり、隠しカメラを設置したりすれば、本条例の処罰対象となります。
また、盗撮する前に発覚した場合でも、盗撮の目的をもって不法な侵入をしたという事実は存在するため、建造物侵入罪の成立は避けられないでしょう。
3、異性のトイレに侵入して逮捕された後の流れ|釈放されても安心は禁物
以下では、異性のトイレに侵入したことが発覚して警察に逮捕されてしまった場合の、その後の手続きの流れを解説します。
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(1)逮捕後の基本的な流れ
警察に逮捕されると、ただちに警察署へと連行されたのち、警察署の留置場に収容されます。
警察官による取り調べなどが行われたのち、逮捕された被疑者の身柄は、逮捕から48時間以内に検察官のもとへと引き継がれます。
この手続きはニュースなどでは「送検」と呼ばれていますが、ただしくは「送致」です。
送致を受理した検察官は、自らも取り調べを行ったうえで、送致から24時間以内に釈放するか、裁判官に身柄拘束の延長許可を求めます。
裁判官が身柄拘束の延長を認めると、10日間の「勾留」が開始されます。
勾留が決定すると、被疑者の身柄は警察へと戻されて、検察官による指揮のもと、警察が取り調べなどの捜査を行います。
10日間の勾留だけでは捜査が遂げられなかった場合は、一度に限り10日以内の延長が可能です。
つまり、勾留期間は最低10日間、最長20日間となります。
検察官は、勾留が満期を迎える日までに起訴か不起訴かを決定しなければなりません。
検察官が起訴すれば刑事裁判が開かれることになり、被疑者の立場は「被告人」へと変わってさらに勾留されます。
一方で、不起訴となった場合は刑事裁判が開かれないので、身柄拘束を続ける必要もなくなり、釈放されます。
初回の公判は起訴から1~2か月後に開かれ、以後、おおむね1か月に一度のペースで公判が開かれたのち、数回の審理を経て判決が言い渡されます。
期日までに不服申立てをしなかった場合は判決が確定し、刑に処されます。
以上が、逮捕されてから刑事裁判が終結するまでの、基本的な流れです。 -
(2)逮捕後に釈放されても在宅起訴される可能性がある
警察に逮捕されても、刑事手続きのなかには何度か「釈放」される可能性のあるタイミングがあります。
釈放といえば「疑いが晴れて無罪放免される」というイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうとはいえません。
とくに、警察に逮捕された後で検察官が勾留を請求せず釈放されたとき、または裁判官が勾留を許可せず釈放されたときには、注意が必要となります。
逮捕から間もないタイミングで釈放された場合は、身柄が拘束されないだけで捜査は続いていると考えたほうがよいでしょう。
身柄を拘束しないまま進む捜査は、「在宅捜査」といえいます。
在宅捜査になると、取り調べなどの都合に応じて警察署へと呼び出され、その日の捜査が終わると帰宅を促されるため、家庭・仕事・学校といった社会生活と隔離されずに済むという点では、被疑者にとって有利な捜査方法だといえます。
しかし、在宅捜査になったからといって、罪を問われないわけではありません。
検察官が「刑事裁判で罪を問う必要がある」と判断した場合は在宅のままでも起訴されます。
これを「在宅起訴」といい、逮捕された事件と同様に刑事裁判で審理されるため、罪を犯したのが事実なら有罪判決を受けて刑罰が言い渡される可能性があります。
4、不起訴を得たいなら弁護士に相談を
異性のトイレに立ち入ったことで建造物侵入罪に問われたら、すぐに弁護士に相談してください。
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(1)刑罰や前科を避けたいなら不起訴を目指す必要がある
建造物侵入罪の刑罰は、刑法に定められている数多くの犯罪と比べれば軽いものといえます。
しかし、最大で3年にわたる懲役によって刑務所に収監される可能性があるだけでなく、罰金で済まされたとしても前科がついてしまう事態は避けられません。
刑事裁判では、さまざまな証拠をもとに裁判官が審理を進めたうえで有罪か無罪の判断を下します。
「無罪になれば刑罰を避けられる」と思われるかもしれませんが、実際には、起訴されると刑罰を避けることは困難です。
そのため、刑罰や前科を避けたいと望むなら、不起訴を目指すのがもっとも効果的です。
不起訴が選択されれば刑事裁判が開かれなくなるので、刑罰を受けることも、前科がつくこともありません。 -
(2)不起訴を得るために弁護士ができること
検察官は、起訴か不起訴を判断する際に、さまざまな事情を考慮します。
たとえ罪を犯したことが事実でも、諸般の事情を考慮して不起訴とすることを「起訴猶予」といえいます。
令和4年版の犯罪白書によると、令和3年中に不起訴となった14万9678人のうち、起訴猶予による不起訴は10万2625人で、全体の約68・6%を占めています。
この統計は、罪を犯したのが事実であっても、起訴猶予による不起訴は十分に期待できることを示しています。
ただし、ただ刑事手続きの流れに任せているだけでは起訴猶予は期待できません。
起訴猶予が選択される可能性を高めるために、深く反省していることを示して再犯をしないと誓う、管理者への謝罪や弁済を尽くして示談を成立させる、性的な欲求を抑えるための治療やカウンセリングを受けるなどの対応を尽くす必要があります。
また、どのような対応が不起訴の可能性を高めるのかは、個別の事情に基づいて判断する必要があります。
もしご自身やご家族が逮捕されてしまった場合は、法律の専門家である弁護士に相談してください。
できるだけ早い段階から弁護士に弁護活動を依頼することで、不起訴になる可能性を高めることができます。
5、まとめ
正当な理由なく異性のトイレに立ち入ると、刑法の「建造物侵入罪」に問われます。
さらに盗撮など不法の目的があった場合には別の犯罪についても罪を問われることになるので、厳しい処分が科されるおそれがあるでしょう。
起訴を避けるためには、経験豊富な弁護士によるサポートが欠かせません。
ご自身やご家族が建造物侵入罪や盗撮などの疑いをかけられてしまったら、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
数多くの刑事事件を解決してきた弁護士たちが、不起訴を目指すための弁護活動を行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています