万引きで逮捕されたら起訴される? 不起訴になる可能性はある?
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令和4年11月、船橋東署は、市内の無人販売店において食料品を盗んだ容疑で、住所不定の男を逮捕しました。同店では以前から万引き被害が続いており、店内の防犯カメラを確認した捜査員が張り込み捜査をしていたところの逮捕だったとのことです。
お金がなかったから万引きをするという人もいれば、依存症などの精神的な問題で万引きをする人もいますが、動機に関わらず、万引きは明らかな犯罪です。そのため、万引きしたという事実が発覚すると、逮捕されたり厳しい刑罰の対象になったりしてしまうおそれがあります。
もし逮捕されてしまったら、刑罰を回避するために、不起訴を目指すことが重要になります。本コラムでは、万引きで問われる罪や課される刑罰、不起訴を得るためにとるべき対策などについて、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。
1、「万引き」の罪状と刑罰
スーパーマーケット・コンビニ・書店・文具店などの小売店にとって、「万引き」は営業を危うくするほどの死活問題です。
各店が監視カメラを設置したり、店内に万引き防止のポスターを貼ったりと対策を尽くしており、発覚すれば厳しい対応は避けられないでしょう。
以下では、万引き行為が法律的にはどのような罪に問われ、どのような罰が課されるのかについて解説します。
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(1)万引きは「窃盗罪」の手口のひとつ
基本的に、万引きは刑法第235条の「窃盗罪」の手口のひとつです。
「手口」とは、対象や方法などによって犯罪を分類する方法であり、窃盗罪の手口にはさまざまなものが存在しています。
そのうち、万引きは「店頭に陳列されている商品を盗んだ」という手口になります。
その他の窃盗罪の手口としては、留守宅に無断で侵入して金品などを盗む「空き巣」、終業後で誰もいなくなった会社の事務所に侵入して金品を盗む「事務所あらし」、車の中から金品などを盗む「車上ねらい」などが存在します。 -
(2)窃盗罪が成立する要件
窃盗罪は、以下の四つの構成要件をすべて満たす場合に成立します。
- 他人が占有する財物が対象であること 窃盗罪が保護するのは「他人が占有する財物」です。
- 不法領得の意思にもとづく行為であること 窃盗罪の成立にあたって「不法領得の意思」が必要となります。
- 窃取行為があること 「窃取」とは、他人の占有物を、占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転させる行為という意味です。
- 故意にはたらくこと 窃盗罪が成立するためには、上述したような行為がすべて「故意」にもとづくものである必要があります。
自分の物であれば、窃盗罪は成立しません。
「占有」とは、実際に持っている状態だけでなく、事実上の支配を受けている状態を指します。
陳列している商品は店舗の管理下にあるので、占有されている状態になります。
また、「財物」とは商品などの有体物を指します。
なお、店舗に掲示されているポスターや商品紹介のPOPなど商品にあたらない物も財物にあたり、それらを盗んだ場合には万引きではなく「非侵入その他」という手口で、窃盗罪が成立します。
法律的には「権利者を排除し、他人の占有物を自己の所有物として、その経済的用法に従って利用・処分する意思」と定義されています。
簡単にいえば、「他人の物を自分の物にしようとする意思」ということです。
商品を手に取りカバンに隠して、会計を済ませずに店外に出るといった行為は、窃取にあたります。
たとえば、単に会計を忘れただけであったり、棚から落ちた商品が偶然にもカバンに入ってしまったりした場合は、法律上は窃盗罪が成立しないのです。 -
(3)窃盗罪に科せられる刑罰
窃盗罪には、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
窃盗といえば軽微な犯罪だと思われる方もいますが、実際には最大で10年にわたる懲役を科せられてしまう重大な犯罪であることを認識しておきましょう。
2、万引き容疑で逮捕されたら必ず起訴されるのか? 前科はつく?
万引きの容疑で逮捕されてしまうと、法律で定められた刑事手続きを受けることになります。
刑事手続きの流れのなかでもっとも大きなポイントとなるのが、「起訴」です。
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(1)起訴・不起訴とは?
起訴とは、裁判所に対して刑事裁判を提起すること、つまり「被告人について刑事裁判を開いて刑罰を科してほしい」と求める手続きです。
反対に、起訴をしないことを「不起訴」といいます。
起訴か不起訴かを決めるのは検察官です。
警察や被害者自身には、起訴か不起訴かを決める権限はありません。 -
(2)前科とは? 前歴との違い
起訴や不起訴に関連する用語として、「前科」が存在します。
前科とは、刑事裁判で有罪判決が下されて刑罰を受けた経歴を指します。
刑務所に収監された経歴がなく、罰金を科された経歴のみであっても、刑罰を受けた以上は前科がつくことになります。
他方で、不起訴となって刑事裁判に発展していなかったり、刑事裁判で無罪判決を受けたりした場合は、前科がつきません。
前科と似ているものとして、「前歴」という用語もあります。
前歴とは、犯罪の容疑をかけられて捜査の対象になった経歴を指します。
前科がついた事件を含めて、警察や検察官の捜査対象になったことがあれば「前歴あり」ということになるのです。 -
(3)窃盗罪の起訴率と不起訴の可能性を高める要素
検察統計によると、令和3年中に全国の検察庁で扱った窃盗事件の数は6万7543件でした。
そのうち、起訴されたのは2万9428件、不起訴は3万8115件で、起訴率は43・6%です。
この数字をみると、万引き容疑で逮捕されたからといって必ず起訴されるとはいません。
むしろ、不起訴になる可能性のほうが高いといます。
ただし「なにもしなくても不起訴になる」と考えてはいけません。
不起訴の可能性を高めるためには、以下のような対応を実施する必要があります。- 被害者に対して真摯(しんし)に謝罪したうえで、商品を返したり買い取ったりするなどして弁済を尽くし、被害者の許しを受ける。
- 深い反省を示して、再犯をしないと誓約する。
- 家族が監督強化を約束する。
- 再度の来店の禁止など、被害者の意向を誠実に受け入れる。
- 万引きをしないために、経済的な苦境を改善すべく就職活動を考える。
- 万引き依存症(「クレプトマニア」)の改善に取り組む
また、前科や前歴がある場合には、起訴される可能性が高くなってしまう点にも注意してください。
3、万引き容疑で逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
以下では、刑事手続きの基本的な流れについて解説します。
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(1)逮捕・勾留による身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、検察官のもとへと送致されて24時間以内、合計で72時間以内の身柄拘束を受けます。
さらに、捜査を進めるためには身柄拘束の継続が必要だと判断されると、初回で10日間、延長請求があればさらに10日間以内の勾留を受けるため、身柄拘束の最長は23日間になります。
逮捕や勾留による身柄拘束を受けている間は、さまざまな自由が大幅に制限されます。
自宅へ帰ることや会社や学校へ行くことも許されないだけでなく、たとえ家族が相手であっても、電話などで連絡をとることも認められません。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
勾留が満期を迎えると、捜査が終結する日までに、検察官が起訴か不起訴かを判断します。
起訴されると被告人としてさらに勾留されます。
被告人勾留の期限は1か月ですが、刑事裁判が続いている限り延長可能なので、実質無期限で勾留が続いてしまうことになります。
他方で、不起訴になると刑事裁判が開かれないので、身柄拘束を続ける必然もなくなります。
不起訴が決定した段階で検察官が釈放を指揮して、事件が終結します。 -
(3)刑事裁判が開かれる
検察官による起訴からおよそ1~2か月後に、初回の公判が開かれます。
以後、おおむね1か月に一度のペースで公判が開かれ、数回の審理を経て判決が言い渡されます。
なお、窃盗罪は正式な公判が開かれず書面のみで審理される「略式手続」の対象です。
略式起訴を受けた場合は公判を経ないので迅速に事件が終結しますが、必ず罰金・科料の命令を受けて前科がつくという点では不利だといます。
「容疑をかけられているが万引きをした事実はない」「商品を持ち出したのは故意ではない」など、窃盗罪が成立するかどうかということを争いたい場合には、略式起訴の打診を受けても断る必要があるのです。
4、万引き事件で不起訴を得るためには? 弁護士に相談すべき理由
もし万引き行為が発覚して逮捕されてしまったら、不起訴を目指すために、弁護士に相談しましょう。
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(1)被害者との示談交渉を依頼できるから
万引き事件で不起訴が選択される可能性を高めるには、被害者との示談交渉が欠かせません。
ただし、謝罪と弁済を尽くせば必ず許しが得られる、とも限りません。
たとえば、店舗側が以前から万引き被害に悩まされており謝罪や弁済を受けても許す意思はない、あるいはチェーン店などで本部の方針として示談交渉には応じないといったケースでは、示談による解決が難しくなります。
店舗側が、本人や家族などによる示談の申し入れに消極的な場合には、弁護士に対応をまかせましょう。
弁護士が窓口となって交渉を進めることで、被害者の怒りや警戒心を和らげて、穏便な交渉を実現できる可能性が高まります。 -
(2)再犯防止に向けた対策のサポートを依頼できるから
万引きは、繰り返し行ってしまう傾向が強い犯罪です。
不起訴を得るためには、二度と万引きをしないという誓約だけでなく、「どのようにすれば再び万引きに走る事態を防げるのか」といった、具体的な再犯防止対策を提示することが求められます。
どのような対策が再犯防止の効果を高めるのかは事案の内容によって異なるため、専門家でない方には判断が難しい場合もあります。
有効な再犯防止対策の提示や実行に向けた計画案の作成は、専門家である弁護士に依頼しましょう。 -
(3)刑事裁判での弁護活動を依頼できるから
起訴が避けられない状況では、刑罰の軽減に向けた対策を講じていくことになります。
示談が成立しなかった場合の贖罪(しょくざい)寄付やすでに再犯防止対策に取り組んでいる状況など、被告人にとって有利な事情を積み上げていかなければ、執行猶予や罰金といった有利な処分を得ることはできません。
どのような対策が被告人にとって有利にはたらくのかは、個別の事情によっても異なってきます。
刑罰を軽減するためには、刑事事件の経験豊富な弁護士に、早い段階から依頼することが大切です。
5、まとめ
「万引き」は、法律に照らすと窃盗罪によって処罰される犯罪です。
窃盗罪には厳しい刑罰が規定されていますが、対策を尽くせば検察官が不起訴を選択する可能性もあります。
もし万引きが発覚してご自身やご家族が逮捕されてしまったら、厳しい刑罰の回避を目指すため、できるだけ早く弁護士に相談してサポートを受けましょう。
まずは、刑事事件の解決実績を豊富にもつベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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