遺言と法定相続分はどちらが優先される? 遺言が見つかった際の注意点

2022年07月21日
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遺言と法定相続分はどちらが優先される? 遺言が見つかった際の注意点

裁判所が公表している司法統計によると、令和2年に千葉家庭裁判所に申立てのあった遺言書の検認に関する事件数は、923件でした。生前の相続対策として、遺言書を活用している方がおられることがわかります。

「被相続人の遺産を分けるために相続人で遺産分割協議をしようとしたところ、被相続人の遺言書が見つかった」というケースは少なくありません。遺言書の内容を確認したところ、特定の相続人のみ有利に扱う内容であったため、遺言書による遺産相続ではなく、法定相続分での遺産相続を希望する相続人があらわれる、ということもあります。

このとき、遺言と法定相続分では、どちらが優先するのでしょうか? 本コラムでは、遺言と法定相続分の優先関係や遺言書が見つかった際の注意点について、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、遺言と法定相続分の違い

まず、遺言と法定相続分に関する基本事項から説明します。

  1. (1)遺言とは

    遺言とは、主に自分の死後にその財産をどのように処分するかを指定した文書のことをいいます。遺言書を作成することによって、将来の相続トラブルを防止することができたり、自分の希望どおりに財産を分けたりすることが可能になります。

    遺言には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
    このうち、一般的に利用されるのは、自筆証書遺言と公正証書遺言です。

  2. (2)法定相続分とは

    法定相続分とは、被相続人の相続財産を相続する場合に、各相続人の取り分として法律上認められている割合のことをいいます
    遺産分割協議においては、相続人全員の合意があれば法定相続分とは異なる割合での遺産分割も可能ですが、そうでない場合には、原則として法定相続分で遺産分割が行われるのです。
    法定相続分の割合については、相続人が誰であるかによって、以下のように異なってきます。

    ① 相続人が配偶者のみ、子どものみ、父母のみ、兄弟姉妹のみの場合
    相続人が配偶者のみ、子どものみ、父母のみ、兄弟姉妹のみの場合には、唯一の相続人が被相続人のすべての遺産を相続することになります。

    ② 相続人が配偶者と子どもの場合
    相続人が配偶者と子どもの場合には、配偶者が2分の1、子どもが2分の1の割合で遺産を相続することになります。

    ③ 相続人が配偶者と父母の場合
    相続人が配偶者と父母の場合には、配偶者が3分の2、父母が3分の1の割合で遺産を相続することになります。

    ④ 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合
    相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合には、配偶者が4分の3、父母が4分の1の割合で遺産を相続することになります。

2、法定相続分より遺言が優先される

被相続人が遺言を残して死亡した場合には、遺言書の内容と法律上認められている法定相続分のどちらが優先されることになるのでしょうか?

結論からいえば、法定相続分よりも遺言が優先されることになります
遺産分割の対象となる相続財産は、被相続人が所有していたものです。そして、原則として、自分の財産については自由に処分をすることができます。
相続においても、自己の財産についての処分を決めた被相続人の最終の意思を尊重して、法定相続分よりも遺言が優先されることになるのです。

ただし、後述するように、遺言の内容が特定の相続人にとって不利益となる場合には、遺留分を請求できる可能性があるのです。

3、遺言によって遺産が受け取れない相続人は遺留分の請求が可能

以下では、遺留分を請求する方法について解説します。

  1. (1)遺留分とは

    遺留分とは、法律上保障されている相続人の最低限の取り分のことをいいます
    遺言書によって自由に財産の処分ができてしまうと、一定の相続分がもらえることを期待していた相続人の生活が苦しくなってしまうことが予想されます。
    そのような相続人の期待を保護して、一定の生活保障を与えるための制度が「遺留分」です。

    ただし、遺留分が認められるのは、「兄弟姉妹を除く相続人である場合」に限られます。そして、あくまで最低限の取り分であることから、遺留分の割合は以下のように定められているのです。

    • 父母などの直系尊属のみが相続人である場合:3分の1
    • それ以外の場合:2分の1
  2. (2)遺留分侵害額請求の方法

    上述したように、相続人には、法律上の遺留分が保障されています。
    しかし、遺留分を侵害する内容の遺言書であってもそれ自体は有効であり、「遺留分を侵害するから」という理由では無効になるわけではありません。

    遺言によって遺留分を侵害された相続人が遺留分に相当する金銭を請求するためには、「遺留分侵害額請求」の権利を行使する必要があります
    また、遺留分侵害額請求の権利は、相続の開始及び遺留分を侵害する遺贈などがあったことを知ったときから1年以内に行使する必要があります。
    期限内に権利を行使したことを客観的に明確にしておくためにも、遺留分侵害額請求をする場合には、配達証明付きの内容証明郵便を利用して行うようにしましょう。

4、遺言が見つかった場合の注意点

被相続人の遺言が見つかった場合には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)勝手に開封してはいけない

    自宅から被相続人の遺言書が見つかったとき、「どのような内容が書かれているか気になるから、すぐにでも開封したい」と考える方も多いでしょう。

    しかし、自筆証書遺言が見つかった場合には、家庭裁判所の「検認」という手続きを行う必要があります。検認とは、相続人に対して遺言書の存在・内容を知らせるとともに、遺言書の状態、日付、署名など遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造や変造を防止するための手続きです。
    検認は、遺言書の有効性を判断する手続きではありません。しかし、検認手続きをとらなければ、遺言書に基づいて相続手続きを進めることはできないのです。

    このような検認手続きをとることなく、勝手に遺言書を開封してしまった場合には、5万円以下の過料に処せられる可能性があるのです

  2. (2)必ずしも遺言の内容に従う必要はない

    先述したように、原則として、法定相続分よりも遺言が優先します。
    そのため、原則として相続人は、遺言書の内容に従って遺産を分ける必要があります。

    しかし、相続人全員の同意が得られる場合には、遺言書と異なる内容での遺産分割協議を行うことが可能になります。
    ただし、遺言で相続人以外の第三者に遺贈がなされている場合には、相続人の同意に加えて、受贈者の同意も必要になります

    しかし、自分にとって不利な内容の遺言であった相続人からの同意は得やすいとしても、自分にとって有利な内容の遺言であった相続人から、遺言書と異なる内容で遺産分割協議を行うことの同意を得るのは難しいでしょう。

    相続人全員の合意が得られないという場合には、遺言書の不備などを指摘して遺言の有効性を争っていくことになります。

  3. (3)相続欠格に該当する人は遺言で指定されていても相続できない

    「相続欠格」とは、被相続人を殺害したり、遺言書を偽装したりするなど。相続に関して著しい非行があった相続人の相続権を失わせる制度のことをいいます(民法891条)。
    相続欠格に該当する相続人は、特別な手続きを要することなく当然に相続人となる権利を失いますので、遺産を相続することはできません。また、相続権だけでなく遺贈を受ける資格もなくなります。
    したがって、被相続人が相続欠格に該当する人に遺産を相続せる内容の遺言書を残していたとしても、相続欠格に該当する人は、一切遺産を相続することができません。

    ただし、代襲相続は相続欠格によって相続権がなくなった場合にも適用されますので、代襲相続人がいる場合には、その人が遺産を相続することになるのです。

5、遺言によるトラブルが発生したら弁護士にご相談を

遺言に関するトラブルが発生した場合には、弁護士に相談することを検討してください。

  1. (1)遺言の有効性を判断できる

    高齢化が進む現代では、認知症の高齢者が作成した遺言書の効力が争われるケースもあります。
    認知症だからといって直ちに遺言が無効になるというわけではなく、認知症の程度や遺言作成当時の遺言者の状態などをふまえて、遺言書の有効性を判断することになります。

    遺言書の有効性を判断するためには、カルテや診断書などの取り寄せなども必要になってきます。
    相続に関する知識のない方では適切に判断することが難しい場合も多いのです。
    したがって、遺言書の有効性に疑いが生じた場合には、まずは法律の専門家である弁護士に判断をうかがうことをおすすめします

  2. (2)遺留分を取り戻すことができる

    有効な遺言であったとしても、その遺言によって遺留分の侵害を受けた相続人は、遺留分侵害額請求をすることができます。
    しかし、遺留分侵害額を計算するためには、正確な相続財産の調査と評価が必要になってきます。また、遺留分侵害額請求権の行使には1年という期間が定められているため、遺留分の侵害を知った場合には早めに行動する必要があるのです。

    遺留分侵害額請求を迅速かつ適切に行うためには、弁護士にご相談ください

6、まとめ

被相続人が遺言書を作成していた場合には、原則として相続人の法定相続分よりも遺言書の内容が優先することになります。
遺言書の内容に不満がある相続人としては、遺言書の有効性を争うか、遺留分侵害額請求をしていくことになるでしょう。
その際には、専門家である弁護士のサポートを受けることを検討してください。

「遺言書に納得できない」などのお悩みがある方は、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスまでご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています