相続するはずの財産が使い込まれたとき、不当利得返還請求をする方法
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遺産相続で問題となりやすいのが、被相続人の財産の使い込みです。相続人の誰かあるいは第三者が使い込みにより財産を減らしてしまうと、他の相続人が権利を侵害されてしまいます。使い込まれた相続財産を取り戻すため、相続人は不当利得返還請求を行うことができます。
本記事では船橋オフィスの弁護士が、相続財産の使い込みに対する不当利得返還請求について、相続法改正も踏まえわかりやすく解説します。
1、相続人を困らせる、遺産の使い込み
被相続人の財産が相続前に使い込まれてしまうことは、相続を行う際に注意すべき問題です。特に被相続人の財産を自由に使える立場にいる人は、自分の財産でないにもかかわらず誘惑に駆られ、勝手に金銭を引き出して使いこんでしまうことがあります。
誰かが被相続人の財産を使い込むと、その分遺産が減ってしまいます。つまり遺産の使い込みは、相続人の権利を侵害する可能性が高いのです。
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(1)よくある使い込みの事例
実際にどのような使い込みがあるのか、よくある事例をご紹介しましょう。
●預金の引き出し
お金は、使い勝手がよく処分しやすい財産です。手元で管理している現金もそうですが、預金は現金以上の危険性があると考えられます。特に、被相続人が他の誰かに預金口座の管理を頼んでいる場合です。
預金口座の暗証番号を知っている人は自由にお金を引き出すことができ毎月少しずつ預金を余分に引き出して自分の財布に入れてしまったり、相続が始まる前に預金を全額引き出してしまったりというケースもあります。
●不動産や動産の処分
不動産や動産を、勝手に売ってお金にしてしまうケースもあります。
登記されているものであっても、被相続人の身分証や実印を自由に扱える第三者が身分を偽って処分してしまうことが考えられます。
●株式の売却
本人の身分を偽って、株式を売却するケースもあります。近年ではインターネット上で株式を勝手に売却されるケースが増えているようです。
●保険解約
被相続人の保険を勝手に解約して、解約返戻金を着服するケースもあります。解約返戻金に関しては原則として契約者が受取人になっていますが、契約者の口座を管理している立場にあれば気付かれずにくいのでしょう。
●配当や収益の横領
株式配当や、収益物件からの賃料などが横領されることもあります。あらかじめ別の口座に振り込まれるよう細工されているケースが多いようです。
これらのように、被相続人の許可なく勝手に財産を使い込んだ人は、窃盗罪や横領罪といった犯罪にあたる可能性があります。
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(2)使い込みが発覚したら
まずは使い込んだ方と法律に基づく話し合いをしましょう。使い込んだ方は次のような主張をするかもしれません。
- 使い込みという認識を持っていなかった
- 介護などで貢献したから寄与分をもらっても良いはずだ
- この財産は被相続人からもらったものだ
いずれの場合でも、使い込んだ証拠と、相手が反論する証拠を出し合わなければなりません。
使い込みが発覚したら、その後の遺産分割のために使い込まれた総額を特定しましょう。
2、相続人が行うべき不当利得返還請求とは
財産の使い込みが発覚したらすぐに仮差し押さえと不当利得返還請求を行いましょう。
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(1)不当利得返還請求権とその期限
不当利得とは、法律上の原因なく他人の財産などを受け取ったことによる利益や、他の誰かが本来受け取るべきだった利益を受けることです。不当利得は、当人が不当だと知っていても知らなくても返還請求できますが、不当利得と自覚していた場合には利息も請求できます。
ただし不当利得返還請求権が行使できるのは、自己の法定相続分にとどまります。よって、1000万円の相続財産すべてを横領などされた場合、自己の法定相続分が2分の1であれば500万円までしか取り戻せません。
さらに、不当利得返還請求の権利は、債権法改正後は、権利を行使できることを知ったときから5年で時効消滅しますので早めの対応が必要になります。 -
(2)不法行為責任を問える場合もある
不当利得の他に、不法行為責任を問える場合もあります。この場合も、法定相続分に応じた損害賠償を請求できます。
不法行為と不当利得のどちらを請求すべきか分からないときは、両方請求することが可能です。
3、民法改正によって使い込み分も遺産扱いに
以前の民法においては、使い込まれた財産は遺産として処理できず、使い込みによって遺産を確定できずに調停が認められないという問題がありました。
しかし2019年7月1日の相続法改正によって、以下のとおり民法第906条の2が追加されました。
第906条の2
- 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
- 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
この相続法改正により、財産が勝手に使い込まれても、使い込まれた分が遺産に含められることになりました。相続人は、使い込まれた分を含めて遺産分割協議を行うことができます。
使い込んだ相続人がその財産をあらかじめ相続したものとすれば、公平性が保たれ、不当利得返還請求の手間も省けます。
ただし、これは相続開始後の使い込みについてです。相続開始前に行われた使い込みは、被相続人の権利をもとに不当利得返還請求を行う必要があります。ここは従来の民法と変わらないのでご注意ください。請求に応じないなら、遺産分割調停や裁判を行うしかありません。裁判所で出された結論には法的拘束力があり、使い込んだ方がそれを受け入れない場合は民事執行が可能です。
4、まとめ
財産があるところには、使い込みの誘惑が生じます。もし被相続人の財産が不当に使い込まれていた場合には、不当利得返還請求を行いましょう。とはいえ相続の問題は難しく、家族同士では冷静な話し合いができないことも考えられます。使い込みについてはケースごとに解決法が異なるため、相続人の権利を守るためには早期の行動が大切です。自身の財産を取り戻したいとお考えなら、ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスまでご相談ください。経験豊富な弁護士が少しでも早い解決を試みます。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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