管理栄養士が残業代を請求するための手続きと注意点

2024年03月15日
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管理栄養士が残業代を請求するための手続きと注意点

近年、労働基準監督署から千葉県の私立中学・高校に対して、職員が休日などに行った指導を労働時間と認め、職員に未払い残業代を支払うよう、是正勧告が出される事案がありました。

多くの人のお世話をしたり、安全な環境を維持したりしなければならない職場は、残業が発生しやすい傾向にあります。管理栄養士という職業も例外ではありません。

本コラムでは、残業が発生しやすい管理栄養士の仕事内容や、残業に関する基本的なルールについてベリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。

1、管理栄養士の仕事は残業が発生しがち

管理栄養士が働く環境は、病院、介護施設、保育所、スポーツクラブ、一般企業など多岐にわたるため、それぞれの職場で勤務態様や休日のあり方などの労働条件は異なります。

医療・介護施設の場合には、患者さんや施設利用者のライフスタイルに合わせて対応しなければならないため、早朝勤務や夜勤業務が発生する可能性があります。
また、どの職場でも管理栄養士については人手不足のケースも多く、そのため過重業務・長時間労働となってしまう傾向があります。

管理栄養士の具体的な仕事には以下のような事務作業が多く、残業時間に対応している方も少なくありません。

  • 栄養管理契約書などの各種計画書の作成業務
  • カルテの確認・記入業務
  • 献立の作成・発注などの給食管理業務


したがって、パソコンの操作やタイピングに慣れていないと、業務をこなすのに時間がかかってしまうというケースもあります。

2、「労働時間」と「残業」の基本知識

残業とひと言で表現されますが、法的にはいくつかの種類に分けて理解する必要があります。
具体的には、「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」のいずれかのパターンに該当する場合に、残業代を請求することができます

したがって、残業代とは、上記いずれかに該当した場合に支払われることになる「割増賃金」のことを指します。

以下それぞれについて解説していきましょう。

  1. (1)時間外労働の場合の残業代

    1日に8時間以内、1週間に40時間以内(休憩時間は除く)


    上記を法定労働時間といい(労働基準法第32条)、この法定労働時間を超えて従業員を働かせるためには、職場は労働基準法第36条に基づく36協定を締結し労働基準監督署長に届け出をしなければなりません。

    しかし、この36協定によっても職員を無限に働かせ続けられるわけではありません。
    下記が法定労働時間を延長することができる上限です(労働基準法第36条第4項)。

    原則として月45時間以内、1年360時間以内


    このような労働時間に関するルールのもとで、法定労働時間を超えて働かせた場合には、通常の労働時間に対する賃金に「25%」を上乗せした賃金が支払われなければなりません(同法第37条第1項)。

    具体的に計算してみましょう。

    ある管理栄養士Aさんの月給は25万円で、所定労働時間が8時間、ある月の勤務日数が20日間だったとします。
    そして、この月は残業の上限いっぱいの45時間の残業をしたと仮定します。

    まず、Aさんの1時間あたりの基礎賃金は、1563円(=月給25万円÷勤務日数20日÷小堤労働時間8時間)です。
    そのため、Aさんの時間外労働に対する割増賃金は、8万7891円(=基礎賃金1563円×時間外労働時間45時間×割増賃金率1.25)となります。
  2. (2)休日労働の場合の残業代

    従業員には、最低「週1回の休日」が与えられなければなりません(労働基準法第35条)。これを法定休日といいます。
    この法定休日に従業員が働いた場合には、所定の賃金に35%を上乗せした賃金を支払わなければなりません(同法第37条第1項)。

    以下に具体例を挙げます。

    月給25万円で、所定労働時間が8時間、ある月の勤務日数が20日である管理栄養士Aさんの法定休日は日曜日だとします。ある日曜日にAさんは8時間勤務し、別日に代休を取得したとしましょう。
    Aさんの1時間あたりの基礎賃金は、1563円です。
    Aさんの法定外休日労働は日曜日に労働した8時間だけです。そのため、Aさんの休日労働に対する割増賃金は、1万6880円(=基礎賃金1563円×法定休日労働時間8時間×割増賃金率1.35)となります。


    なお、週1回の取得が義務づけられている「法定休日」ではなく、職場が任意に定めている「法定外休日」に労働した場合には、休日労働には該当しません
    したがって、職場は休日労働の場合の割増賃金を支払う必要がないのです。
    ただし、法定外休日の労働も労働時間として計算することになるため、「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えた部分については、時間外労働の割増賃金の対象となる可能性があります。

  3. (3)深夜業の場合の残業代

    午後10時から午前5時までの間は、深夜労働とされています。

    そして、深夜労働をした場合には、その時間の労働については通常の労働時間の賃金の計算額の25%以上の率で計算した割増賃金が支払われます(労働基準法第37条第4項)。

3、未払い残業代を請求する方法

  1. (1)職場に内容証明郵便を送付する

    残業代を請求するためには、未払いになっている残業代の金額とそれを職場に請求する意思を示さなければなりません。
    病院や会社の代表、責任者に対して、口頭や電子メールで残業代を請求することも可能ですが、請求の意思表示を明確に行うためには「内容証明郵便」を用いることが効果的です
    この内容証明郵便とは、「いつ・誰から・誰宛てに・どのような内容」の書面が差し入れられたのかを、日本郵便株式会社が証明してくれる一般書留郵便のことをいいます。

    したがって、内容証明郵便で請求しておけば、事後的に請求「した・していない」という初歩的なトラブルを回避することができます。

    内容証明はインターネット上で発送することも可能です。ワードファイルで作成した内容証明文書をインターネット上にアップロードすることで、それ以後は郵便局側で印刷・照合・封入封かんし、発送してもらえます(e内容証明、電子内容証明)。

  2. (2)職場と交渉して残業代を回収する

    内容証明郵便によって請求しても残業代が支払われない場合には、残業代の支払いに関して職場側に話し合いの機会を要請します。
    このような交渉に応じて残業代の支払いに応じてくれるケースもあれば、そもそも交渉に応じず支払いを拒否されるケースもあります。

    残業代の算定が証拠上不十分な場合には、その点を職場側は指摘してくるでしょう。また十分な証拠があったとしても、さまざまな反論を受ける可能性があり、病院や会社という組織と従業員個人では交渉力や知識に大きな差があることも多々あります。

    ご自身での交渉対応が不安な方は、なるべく弁護士に相談・依頼されることをおすすめします

  3. (3)労働審判・訴訟を提起する

    労働審判手続きは、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織される労働委員会が使用者と労働者の間に入り、事案に即した判断を行います。
    労働審判手続きでは、まずは調停という当事者同士の話し合いによる解決を試み、話し合いでは解決できない場合に当事者間の権利関係や手続きの経過を踏まえて労働審判を下します。

    労働審判に不服のある当事者は、異議を申し立てることができ、適法な異議申し立てがなされた場合には、労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行することになります。

    労働審判の段階で弁護士に相談することで、もし訴訟に移行したとしても訴訟に必要な証拠収集などについてスムーズに準備を進めることが可能です。

4、残業代を請求する際の注意点

  1. (1)残業時間を証明できる証拠が必要

    残業代を請求するためには、その根拠となる資料や証拠が必要となります。
    未払い残業代を証明することができる資料としては、以下のようなものが挙げられます

    • 雇用契約書、労働条件通知書、就業規則
    • タイムカード、勤怠、出勤簿
    • 給与明細、源泉徴収票
    • 交通系ICカードの改札通過履歴
    • 業務日報、業務連絡メール
    • カルテ記録の変更履歴
    など


    証拠収集の方法においては、弁護士会照会など弁護士にしかできない方法もありますので、ご不安な方は一度弁護士に相談されるとよいでしょう。

  2. (2)残業代には時効がある

    残業代の請求権には「3年」の時効があります

    民法の消滅時効の改正の影響で、賃金の請求権も「行使できる時から5年」が経過することで時効消滅すると改正されましたが、経過措置として当分の間は「3年間」とされています(労働基準法第115条、第143条第3項)。

    前述の内容証明郵便による請求は履行の催告にあたるため、内容証明郵便の到達から「6か月間」は、消滅時効の完成が猶予されることになります(民法第150条第1項)。

5、残業代を請求するなら弁護士に相談

これまで解説したように、残業代請求にはいくつか気を付けるべき点があるため、弁護士に相談されることをおすすめします。

弁護士に依頼した場合には、客観的な証拠に基づき適切な残業代を請求することができます。証拠が不足する場合であっても、弁護士が求めれば病院や会社に請求して就業規則やタイムカードなどの勤怠記録が開示される可能性があります。

そして、病院や会社との交渉、裁判手続きについては、すべて弁護士に任せておくことができるため、ご自身の負担がかなり軽減されることになります

6、まとめ

本コラムでは、残業が発生しがちな管理栄養士の方に向けて、労働時間と残業の基本的な考え方から、残業代を職場に請求する手段などについて解説してきました。

残業代が発生しているはずなのに職場から支払われていない、とお困りの場合は、一度労働問題の経験が豊富な弁護士にご相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 船橋オフィスでは、管理栄養士の方の未払い残業代に関するご相談を承っております。まずはお気軽にお問い合わせください。

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