口約束は借金の証拠になるのか?借用書のない借金の返済義務について弁護士が解説

2020年09月09日
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口約束は借金の証拠になるのか?借用書のない借金の返済義務について弁護士が解説

近年の日本では経済不況がつづいていますが、新型コロナウイルスに流行とそれに伴う経済自粛が起こった令和2年では、これまで以上の不況がおとずれることが予想されます。
不況の影響は、企業だけでなく、個人を直撃します。船橋市でも、経済状況が悪化して友人や知人からお金を借りざるをえない状況に追いこまれる方もいることでしょう。

個人間でお金を貸し借りするときには、借用書や契約書を作成することもなく、「いつまでにいくら返す」ということを口約束で決めてしまう場合も多いと思われます。
借用書がないということは、「お金を借りた証拠がない」ということにもなりそうなものです。このような場合、お金を借りた借主は、お金を貸した貸主に借金を返済する法律的な義務はあるのでしょうか。

本コラムでは、借用書がないときに他にどのようなものが借金の証拠となるのか、借金をどうにかする方法はないのか、べリーベスト法律事務所 船橋オフィスの弁護士が解説します。

1、口約束で借りた借金に返済義務はあるか

  1. (1)消費貸借契約は不要式契約

    “借金”は、民法では”消費貸借契約”として、契約の一種として扱われます(民法587条)。

    民法587条(消費貸借)
    消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。


    条文の「当事者の一方」がお金を借りる人(借主)、「相手方」がお金を貸す人(貸主)にあたります。また、お金の貸し借りは「金銭消費貸借」ともいいます。

    条文の「種類及び数量の同じ物をもって返還する」とは、“お金を返すときには、借りた紙幣をそのまま返す必要はない”という意味です。「借りたお金を返す」という言葉を文字通りに解釈すると、“借りたものと全く同一の紙幣(書かれているシリアルナンバーなども同じ)”を返却するということになってしまいますが、お金は使うことを前提で借りるものです。そのため、借りたものとは違う紙幣であっても、金額が等しければ「借りたお金を返した」と見なされる、ということになります。

    さて、条文では、“返還を約束して借主が貸主から物(金銭)を受け取ったときに、消費貸借契約の効力が発生する“と明記されています。つまり、契約書や借用書が必要であるとは、条文では定められていないのです。そのため、契約書や借用書を作らずに口約束を交わしただけの借金であっても、借主は貸主に返済の義務を負うことになります。

    口約束のように契約書等を不要とする契約のことを、法律では不要式契約といいます。消費貸借契約を含め、わたしたちは、生活のなかで不要式契約を日々交わしています。たとえば、数百円の電車賃を「次に会ったときに返すから」いって友人に借りることも、不要式契約にあたるのです。

    書類などが必要な契約のことは、「要式契約」と呼びます。保証契約(民法446条)が代表例です。借金の保証人になるというのは非常に重大な契約ですので、条文で書面(契約書)が要求されています(同条2項)。

  2. (2)要式契約の消費貸借契約

    令和2年4月に施行された改正民法では、従来の不要式契約である消費貸借(改正民法587条)に加え、「書面でする消費貸借」(改正民法587条の2)が規定されました。

    これは、諾成的消費貸借契約と呼ばれるケースの条文です。これまでは、消費貸借契約が効力を発生するには、互いに貸し借りの約束をするだけでなく、貸主が借主に物(お金)を渡すことが必要とされていました(このような契約形態のことを、要物契約といいます)。

    しかし、約束をした後に貸主がなかなかお金を貸してくれないと、借主が金銭の交付を請求することができない、という事例が起こります。つまり、約束した時点では消費貸借契約は発生してないため(契約が発生するのはお金の貸し借りを行った時点であるから)、借主は「早く貸してください」と催促する権利を持たないのです。

    約束をしてもいつお金が貸してもらえるかわからないとなれば、住宅ローンを利用して不動産を購入する際などに、トラブルが起こってしまう可能性があります。
    そのため、令和2年の民法改正では、約束をするだけで契約が成立する消費貸借の形式(諾成的消費貸借契約)を条文で明記することになったのです。ただし、約束をしただけで契約が成立するのは書類を伴う要式契約に限ります。

    では、諾成的消費貸借契約(改正民法587条の2)のつもりでお金を借りたが、書面(契約書)を交わさなかった場合はどうなるのでしょうか。この場合、要式契約ではないので、たしかに587条の2の諾成的消費貸借契約は成立していないといます。しかし、不要式契約としての、587条の通常の消費貸借契約は成立していると考えるのが妥当でしょう。
    仮に通常の消費貸借も成立していないという場合であっても、借りたお金は不当利得にあたりますので、やはり返還しなければならないのです(民法703条)。

2、貸金返還請求の裁判

  1. (1)返還時期の定めと催告

    貸主がお金を貸したが、借主がお金をなかなか返さない、という事態が起こることがあります。
    「お金をなかなか返さない」という事態は、正確には、2種類に分けることができます。
    ひとつは、お金を貸し借りしたときに“返還時期(お金を返す期限)”を定めていて、その期限が到来したのに返さないという場合です。もうひとつは、返還時期を定めずにお金を貸し借りして、しばらく日数が経過してから催告を行ったが、催告をした後にもお金を返さない場合です。

    返還時期が定められていれば、貸主は「期日になったから返してください」と主張するだけでよいです。一方、返還時期を定めなかった場合は、返して欲しくなったタイミングで“催告”を行うこととなります(民法591条1項)。催告とは、返済を促すことです。催告をしたからといってもすぐに借金を返済することを要求することはできず、借主がお金を返す準備が可能になるような、相当の期間を設ける必要があります。
    お金を貸し借りするとき、多くの場合は返還時期を定めるものです。そのため、以下では、返還時期が定められている事例を想定して解説いたします。

  2. (2)貸主(原告)の主張

    「お金を返してください」という訴えを提起する貸主は、訴訟では原告側になります。そして、貸主は、以下の4つの事実を立証しなければなりません。

    1. ①金銭の返還の合意
    2. ②金銭の交付
    3. ③返還時期の合意
    4. ④返還時期の到来


    ただし、民事訴訟の場合、上記の事実を借主が認めてしまえば、立証する必要はなくなります(民事訴訟法179条)。
    借主が「お金なんか借りていない」と主張した場合には、貸主は立証を行うことになります。立証の際には、証拠が必要となります。このとき、とくに重要になるのが、②の「金銭の交付があったこと」を立証することです。

3、金銭の貸し借りの証拠となるもの

  1. (1)契約書・借用書

    契約書や借用書は、「①金銭の返還の合意があったこと」や「③返還時期の合意があったこと」を示す、強力な証拠となります。ただし、契約書は万能の証拠ではありません。「②金銭の交付があったこと」は、契約書だけでは証明できないおそれがあるのです。

  2. (2)領収書

    契約書では「②金銭の交付があったこと」がわからない場合でも、領収書をのこしていれば、立証することができます。

  3. (3)メールやLINE

    正式な契約書を交わしていない場合でも、電子メールやLINEのやり取りが、消費貸借契約があったことの証拠となる可能性があります。たとえば貸し借りをした後で貸主が送った「貸したお金、ちゃんと返してくださいね」というメッセージに対して、借主が「はい、期日までには返します」と返信していた場合は、「①金銭の返還の合意」や「②金銭の交付」、「③返還時期の合意」があったことの証明となるのです。

  4. (4)通帳

    貸主が借主にお金を貸すときに銀行振り込みを行っていた場合には、通帳の記録も証拠となります。現金を手渡ししていた事例でも、貸した金額を貸主がATMから引き出していた場合には、金銭の交付を推認させる“間接証拠”となる可能性があります。

  5. (5)間接証拠

    金銭の授受があったかどうかを直接的に示す証拠がなくても、貸し借りの前後での貸主や借主の金銭の動きや経済状況の変化を通じて、「この時期にお金の貸し借りがあったのだろう」と金銭の授受が推認できる場合があります。このようなとき、“間接証拠”として認められる可能性があるのです。

    銀行の履歴のほか、借主がなにかを購入したこと、借主が家賃の高いアパートに引っ越したという事実などが、“間接証拠”となる可能性があるでしょう。

4、借主の反論

貸主が提起した貸金返還訴訟において、金銭の返還の合意や金銭を交付したことなどを貸主が立証できたとすれば、借主は訴訟に負けて貸主にお金を返すことになります。
しかし、借主にも言い分があって、貸主の主張に反論(抗弁)を行える場合もあるのです。
借主が行える抗弁の代表的な事例について、解説いたします。

  1. (1)払い過ぎた利息

    通常、金銭消費貸借契約においては、利息が設定されます。
    しかし、これまで何度かに分けて返済をしており、利息制限法や出資法で定められた上限利率を上回るような割合で利息を支払っていた場合には、超過部分は元本に充てられることになります。
    つまり、利息を払い過ぎていた場合には、「今まで払い過ぎた利息を、今回の返済すべき元本に充当して、返済額を減らせ」という反論をすることができるのです。

  2. (2)消滅時効

    お金を貸した段階から、貸主は借主に対して金銭債権を持つことができます。しかし、その権利を行使できるとき(返還期日)から10年が経過すると、この債権は消滅して、借主には返還義務がなくなるのです(民法167条1項、改正民法166条1項2号)。

    ただし、「10年間支払いを拒否し続ければ、借金をふみたおせる」というわけではありません。債権の時効は、中断(更新)が行われる場合があります。たとえば、貸主が裁判を通じて支払いを求めた場合や、裁判外で催告を行った場合には、時効がリセットされるのです。なお、裁判外での催告を繰り返すことはできず、いちど催告をした貸主がふたたび返金を請求するためには、6か月以内に裁判上の請求を行わなければいけません。

5、借金はどうすればよいのか

お金を借りたなら、現実的な計画を立てて、誠実に返金をすることが最善です。
しかし、様々な事情から、どうしてもお金を返せないという方もおられるでしょう。
そのような方は、次の4つの方法で債務整理を行うことができます。

  1. (1)過払い金請求

    先述したように、利息制限法等の上限利率を上回る高利率でお金を借りている場合には、その部分の利息を支払わないことや、払い過ぎた利息を返してもらうことが可能です。払い過ぎた利息を貸主に請求することは「過払い金請求」といいます。

  2. (2)任意整理

    借金を全額返済することはできなくとも、借りている額を減らしたり、利息の減額を相手方に交渉したりすることで、返済する金額を軽減できる可能性があります。これを任意整理といいます。

  3. (3)個人民事再生

    裁判所に申し立てを行って、借金の減額を認めてもらう手続きを個人民事再生といいます。自己破産とは異なり、住宅等の財産を手放すことなく返済額を減らすことができる、というメリットがあります

  4. (4)自己破産

    住宅や自動車といった自分の財産を手放す代わりに、借金の返済義務を免れる仕組みを自己破産といいます。

6、まとめ

口約束でした借金であっても契約としては完全に有効であり、それを理由に返済を拒否することはできません。後のトラブルを防止するためにも、金銭の貸し借りを行う際には契約書(借用書)を作成することが、貸主と借主の双方にとって利益となるでしょう。
もしも貸金返還請求訴訟になった場合には、契約書がない場合にも、様々なものが金銭の授受を証明する証拠となりえます。
借金を返すことができない場合に、「借金を時効まで支払わず、ふみたおそう」と考えても、実行することは困難でしょう。それよりも、債務整理を行いながら、計画的に返済する方法を冷静に検討することが必要となります。

どのようにすれば負担を減らしながら返済することができるのかについては、法律の専門家である弁護士に、ぜひご相談ください。べリーベスト法律事務所 船橋オフィスでは、債務整理の経験が豊富な弁護士によるアドバイスを提供しております。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています